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序章 いつものホラーアクション夢

12.私の態度はオカシイらしい

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 『私』は特に気にすることもなく、彼らの姿を遠巻きに眺めていたが、そろそろ腕の中にいる大男をなんとかしなければならない事に気づいた。

 あの集団に声をかけるのは躊躇われるので、誰か手隙の者がいないか探していると、背後から声をかけられた。

「それが小鳥さんか? 受け取ろう。かせ」

 何故背後からなんだ? と一瞬思ったけど、小鳥の安否が気になるので即座に振り返る。

 声をかけてきたのは二十代の青年だった。高身長でかなりのイケメン部類。
 端正たんせいな彫りの深い顔に、苦虫を潰したような渋い表情を浮かべている。その瞳には敵意すら感じる。業務だから仕方なく声をかけた、という雰囲気を前面に出していた。

 後ろから声をかけてきた段階でまともな人間じゃない、と『私』は判断した。なるべく関わらないほうが良いだろうとも。

 『私』は小鳥を肩から下し、横抱きして青年に差し出す。

「はい、どうぞ。怪我をしているからすぐ病院連れてってあげて」

「……どうぞ?」

 青年に怪訝そうに聞き返された。が、小鳥の容体を気にして即座に担ぎ、そのまま路肩ろかたに停めてある車に詰め込む。
 一度も『私』を見ずに運転席に乗り込むと、車を発進してこの場から去って行った。

(どうか小鳥さんの命が助かりますように)

 両手を合わせて少し祈る。

(あれ。これ祈ったら、ご冥福っぽい?)
 
 すぐにやめた。

 手持無沙汰てもちぶさたになったので、潜入していたビルを見上げる。
 そこは少し古びた六階建ての四角いビルで、他のビルよりも低かった。
 地上数十メートルっぽく見えていたのは、空間が螺子曲ねじまげられていたせいだろう。

(これでミッションクリア。あとは夢から覚めるだけだけど……)

 人々の声、車の音、作業の音、信号音、空気の流れ、空に広がる音、声、モノの動き。
 一度に入ってくる情報料が多くて、鮮明だ。
 肌寒い空気に少し身震いする。
 数秒、数分待ってみても、情報はクリアなままだった。
 目を瞑って、開いて、瞑って、開いて……何も変化がない。

(一向に覚める気配は、ないな……)

 『私』は両手を組んで「うーん」と唸る。
 そろそろ起床時間な気がするので、起きなければ遅刻だ。

(起きろー! 起きろー! 私、おきろーーーー!!)

 目を瞑って必死に念じていると

「お手柄だ! 息吹戸いぶきど

 渋い低音で呼びかけられ、横から歩いて来る人物がいる。
『私』はその男性を見て、トゥンクと胸が高鳴った。

 五十代半ばの男性。前髪だけ白髪交じりの茶髪をオールバックにしている。
 百八十センチほどですらっとした姿はダンディかつイケメン。皺があるがその皺も味があっていい。太い眉にやや垂れた目がとても可愛く思える。
 高そうなスーツを着ているので、富裕層の社長もしくは味のある男優のようだ。
 そして彼もまた、茜色のジャンパーを羽織っている。

(いいいいけめんだんでぃいいいい!)

 ガチ好みで思わず目をハートマークにして見惚れていると、

 ――父親のような部長。

 彼を見た瞬間、脳裏に過る言葉があった。
 津賀留つがるの時と同じく、天啓てんけいのようにドンと振ってくる。

「え! この人は父親のような部長さん!?」

 驚くのと同時に、そうか父親代わりなのかとガックリした。

「はあ?」

 男性が肩透かしした声をあげたので「なんでもない」と慌てて誤魔化す。
 どうやら彼も『私』を知っている人物のようだ。
 
(どんな人か分からないから、喋ってもらおう)

「ええと、ごめんなさい。お話をどうぞ」

「ごめんなさい? お話を、どうぞ?」

 驚愕した表情でゆっくりと復唱されたので、『私』は頭を抱える。
 それを見た男性は片方の眉をあげながら「ん?」と声を出す。

「どうした息吹戸いぶきど。頭でも打ったのか?」

「いいえ。違います違います」

 普通に接しているだけなのに理解に苦しむ。『私』が苦悩のあまり眉をしかめると、男性は安堵したように表情を明るくした。
 それに気づいた『私』は、おや? と首を捻る。
 
(もしかして、普段の息吹戸いぶきどはムムッとした表情なのかな?)

 考え込んだ『私』に、男性は上機嫌で話し始める。

「お前の読みは大当たりだった。応援が遅れて悪かった。息吹戸いぶきどが単独で強行突破した後で判明した。まさかこんな中心部で禍神降臨まがかみこうりんの儀が行われているなんて思いもしなかった」

「はぁ……そうでしたか」

 「はは」と男性は笑みを零す。まるで『私』の活躍を誇りに思っているように、暖かいと感じる笑顔だった。
 今までとは違った反応で『私』はちょっと驚く。

「もう解決しているとは流石だ。お前は本当に有能なカミナシだよ!!」

「どうも。有難うございます」

 素直にお礼を言うと、はたっと男性の動きが止まる。
 瞬きを数回繰り返して、「……ありがとう、ございます?」と訝し気に聞き返された。 

「やはりどこか変だ。どうした? なにかあったのか?」
 
 この辺のリアクションは同じで、『私』は舌打ちをする。

「普通に対応しているんですけど変ですか! 変でしょうか!? ああもう! どんな性格設定なんだよ今の私いいい!」

 今度は本当に、頭を抱えて空をみながら絶叫したら、男性は得体の知れない者を見る様な目つきになり、理解しがたいと言わんばかりに首を捻った。

「そりゃ、遅れてきた儂らに文句もなく、暴れることもなく、嫌味を言うこともなく、暴れ足りないといって去ることもなく、大人しくそこに立っているだろう? 初めて見たそんな姿」

「私は五歳児なのか! やだもーーー! 早く夢から覚めたい!」

「何を言ってる。本当にどこかおかしいのか?」

「おかしくな……」

 『私』の腹からぐううううと腹の虫が鳴る。男性がほわっと表情を緩めた。

「なんだ。腹が減ってただけか。ちょっと待ってろ」

 男性は急ぎ足で車に戻って、すぐにメロンパンを取ってきて『私』に差し出す。
 どこにでもあるコンビニのメロンパンだ。

「今はこれしかない。食って腹の足しにしろ」

(お腹がなるって初めてかも。ごはんかー。何度か夢の中で食べる事あるけど、いつも味がないんだよねー。空気食べてるみたいな感じだから……)

 内心ガッカリするも、表面上は軽く会釈をしながら受け取る。
 ビニールを開けてメロンパンを見つめる。ふわふわな手触りに甘い香りが鼻腔をくすぐる。大変おいしそうだなと思いつつ、パクッと一口。

(んんんん!?)

 ほわっとしたもちっとした柔らかい触感。そしてザラメの甘い味が脳に届く。

(味が、ある!?)

 衝撃だった。
 夢では食べ物はおいしいというイメージはあるが、味はわからない。
 
 なのに、これは味がしっかりハッキリわかる。噛めば噛むほど唾液が出てくる。
 パンを飲みこむと、喉の渇きを訴えてくる。
 胃に食物が入り、内臓がぐるぐる動き始めるのが分かる。

(あれ? え? どーいうこと? これって、まさか……)
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