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序章 いつものホラーアクション夢
知り合いらしいが知らない人達
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屋上から下へ降りる階段は、一階まで続く何の変哲もない踊り場付き折り返し階段であった。
すぐ下のフロアについて何気なく通路に出ると、三メートルほど離れたところにドアがあり、その横に企業名が書かれたプレートがあった。
どうやら一つのフロアに一つの企業オフィスが入っているビルのようである。
「全く違う。こんなにも違うなんて驚きだ」
と呟きながら『私』は一段ずつ降りていく。
無限ループのような通路も、規格外の広さもすべて作られた空間であり、侵入者を惑わす迷路のような役割を果たしていた。
「降臨の儀式に気づかれても、時間を稼げるように仕掛けたんだと思います。私も通りました。従僕を沢山召喚して、怖かったです」
『私』と手をつないで歩く津賀留が、ぶるっと体を震わせた。
祠堂は階段の踊り場で足を止めて、「チッ」と舌打ちをする。
「だからって。こんなに大規模の禍神降臨儀式に全く気づかないのはおかしい。カミナシだけではなく、アメミットにも、今回の事は上に文句……報告をしないと」
(禍神に対抗する組織は二つあるってことなのかな?)
『私』は二人のやり取りを聞きながら考えていると、六階と書かれたフロアにゾンビの気配が漂っていることに気づいた。
階段で足を止めてその方向を見る。企業オフィスの中に数体ほどいるようだ。
(ゾンビ達は元の世界に還らなかったらしい)
このビルの脅威はまだ終わっていないようだ。
『私』は祠堂を見上げた。
「残っているゾンビは放置するの? 倒すの?」
祠堂は興味なさそうに肩をすくめる。
「どうせカミナシが後始末するだろ。アメミットの出る幕はない」
「なるほど。ところでヤンキーお兄さん、アメミットやカミナシってなに?」
話の流れでついでに固有名詞について聞いてみたが、またしても変な空気が流れる。
祠堂は首を傾げて「お前、今日はどうした?」と聞き返す。
津賀留は不安そうな顔になると、握っていた手を放して腕を体に引っ付けた。
「そうですよ。アメミットは法の番人で、天路《あまじ》国家機関の名称です。そして祠堂さんはそこでも凄腕で単身でも禍神案件を任されるほどの実力者ですよ!? 本当にどうされたんですか!? ヤンキーお兄さんと呼んでいますが、祠堂さんは真面目で思いやりのある人です。無視するよりも酷いですよ」
(津賀留ちゃんが説明してくれた。チュートリアルはまだ終わらないんだ)
「熱が入ってたけど、もしやあれって津賀留ちゃんの彼氏?」
「違います! 絶対に違います!」
津賀留は全身全霊で否定して、心外だと目尻を上げて睨む。
「……冗談だって」と『私』が取り繕うと、津賀留から険が取れた。
(あれだけ激しく拒否したらヤンキーお兄さんショック受けるんじゃ?)
振り返って祠堂の反応をみる。彼は『なに言ってんだこいつ』みたいな顔をしていたので、二人は恋人同士ではないようだ。
もしや二人は無自覚ではと邪推するも、この件を深堀する必要はない。『私』は別の質問に切り替えた。
「じゃぁ。カミナシはどんな機関?」
「いい加減にしろ、自分の所属機関だろうが! あの手この手で馬鹿にしやがって!」
祠堂がイライラしながら「この話は終わりだ!」と一方的に終了した。
(なんか怒った。どうせならもっと設定情報が欲しかったんだけどなぁ)
取り付く島がなくなり『私』はがっかりした。その姿をみた津賀留は、眉を潜めて心配そうな視線を向けていた。
三階に着いたところで、「ファウストの現身」と祠堂が呼んだ。
『私』が視線を向けると、疑惑の眼差しが飛んでくる。
「津賀留を助けに来たのは、お前一人か?」
『私』は始まりの状況を思い出して、頷いた。
「他に誰かいたの?」
祠堂は少し考えて、首を左右に振った。
「姿はみていないが、このビルに入った直後、別の気配があったような気がして……無視できないほどの只ならぬ気配だったが……。いや忘れろ。俺の気のせいだ」
このビルに侵入した時に感じたもう一つの気配は禍神《まがかみ》だったのだろう。
先に入った息吹戸が何も知らなければ、気にしなくていいことだと判断して、祠堂は疑問を頭から消した。
その後は無言のまま階段を降りて、一階に到着した。フロアの壁に自動販売機や企業案内のプレート、長椅子、観葉植物が置かれている。
スライドドアが左手にあったのでそちらに足を向けると、祠堂は回れ右をして反対側に歩き出した。『私』は気になったので声をかける。
「どこ行くの?」
「俺は裏口から出る。……またな津賀留」
祠堂は片手をあげて呼びかけるが、津賀留は苦笑いを浮かべた。
「祠堂さん。もしかしてまた無断で息吹戸さんを追って来たんですか?」
任務ならば逃げるように裏口に回る必要がないと想像しての質問だったが、祠堂がギクッと肩を動かして肯定した。
津賀留は「やっぱりそうでしたか」と小さく呟いた。
「重ね重ね有難うございました。祠堂さんのお陰で私と小鳥課長の命が救われました。部長にもしっかり報告……」
「俺のことは誰にもいうな!」
祠堂が顔色を変えて拒否するので、津賀留は困ったように眉を顰めた。
「そーいうわけにも……本当のことですし」
「わざわざ追って来たってほんと?」
『私』が不思議そうに祠堂に問いかけると、彼の目が激しく泳いだ。
「そ、それは、たまたま居場所が分かって。たまたまだぞ! 来てみたら目隠しの結界があったから何事かと思って入っただけで! たまたまだ!」
意図せずにたどり着いたと強調されればされるほど、祠堂と息吹戸に何か因縁があると『私』は感じ取った。
(そういえばこの人、ストリートファイトしようとしたなぁ。険悪な関係かも。でもこの人のお陰でミッションクリアができたから、お礼は伝えないといけないかな)
「そっか、協力ありがとね」
「え!?」
よほど意外だったのか、祠堂は顔を青くして額から冷や汗を流した。
困惑しながら「あ、ああ」と皺枯れた声で頷いたところで、ハッと我に返る。
「つ、次こそ勝負だからな!」
「え? 勝負? 遠慮します」
「首洗って待ってろよ!」
否定するも、祠堂は言い捨てながら物凄いスピードで走り去った。
『私』は去って行く背中を眺めながら、ふぅん、と声を出す。
「あの人は仕事で来たわけじゃないのか。変なの。いきなりストリートファイト申し込まれたけど、難癖をつけるっていよりも戦うのが趣味なのかな? どう思う?」
意見を聞こうと見下ろすと、津賀留は化け物をみたように顔色を青くしながら『私』を見ていた。
「息吹戸さんが、お礼を……言って、る? この世の、おわり……」
(こっちもこっちで……)
普通の対応をしているはずだ。
当たり障りのない普通の大人の対応のはずだ。
なのに、そのたびに驚かれてしまい、珍獣を見る様な眼差しを受けて『私』は疲弊してきた。
(夢の中なのにメンタル疲れるって一体……)
「まあいいか、ビルから出よう。出たらエンディングか、目が覚めるかな?」
気を取り直して、『私』はスライドドアから外へ出た。
寒空の空気が全身を纏う。
「へっくしゅん」
津賀留がくしゃみをした。白いローブの下が薄着であると気づいたときにはもう遅かったが、『私』の服もワイシャツとズボンしか身に着けていない為、服を分けてあげることができない。
どこか暖かい場所があるか探そうとした時、
「出てきた!」
「いた!」
「無事か!?」
数人の男女が必死の形相でこちらに駆け寄ってきた。
「うわ……」と『私』は声をあげる。一瞬逃げ腰になるものの、津賀留の表情が明るいことに気づく。
知り合いのようなのでその場で待機した。
ついでにやってきた人物を一瞥する。
どれも顔の偏差値が高いのが第一印象だ。彼らは襟首と腕に白色模様が入った茜色のジャンパーを羽織っている。その下はシャツやらボタンシャツやらズボンやスカートで色も質感もバラバラなので、統一されているのはジャンパーだけである。
「無事だったか津賀留!」
「よかった!!」
「津賀留心配したぞ!」
彼らは津賀留にどっと詰め寄り、口々によかったと声に出ものの、『私』と一切視線を合わそうとしていない。
『私』が見れば見るほど、彼らはこちらに背を向けた。
(ふむ。とりあえずあっちに移動するかな)
お邪魔だと察知して、ゆっくりとした動作で、ススス……と横へ逸れた。
そして津賀留を眺める。彼女は安堵の表情を浮かべながら彼らに事情を話していた。
(私の立ち位置はどこだろう? 彼らの仲間なのかな? 臨時のバイトなのかな?)
彼らは『私』と一定の距離を開けて、それを保とうとしていた。
人間関係はわからないが、これだけはわかる。
『私』は嫌われている、若しくは、敬遠されていると。
(まぁ、べつにいいか。夢だし)
『私』は特に気にすることもなく遠巻きに眺めていたが、担いでいる小鳥の存在を思い出した。彼を病院に連れて行かなければならない。
集団に声をかけるのは躊躇われるので、手隙の者がいないか探していると、背後から声をかけられる。
「担いでいるのは小鳥さんか? かせ」
振り返ると、そこには高身長でかなりのイケメンの二十代男性が立っていた。
端正な彫りの深い顔に、苦虫を潰したような渋い表情を浮かべている。こちらを見る瞳に敵意があった。
業務だから仕方なく声をかけたと態度にありありと出ている。
まともな人間じゃないと感じて、『私』は関わらないほうが良いだろうと判断した。
とはいえ、小鳥を引き受けてくれるのは助かると、『私』はすぐに肩から下して横抱きにしたあと、男性に差し出した。
「はいどうぞ。怪我をしているからすぐ病院連れてってあげて」
「……どうぞ?」
男性は怪訝そうに聞き返したが、それ以上何も言わなかった。
すぐに小鳥を受け取って肩に担ぎ、路肩に停めてある車の助手席に座らせる。
そのまま運転席に乗り込むと、車を発進させてこの場から去って行った。
(どうか小鳥さんの命が助かりますように)
『私』は両手を合わせて少し祈るが、
(あれ。これ祈ったら、ご冥福っぽい?)
死者を見送っているような気がして、すぐにやめた。
すぐ下のフロアについて何気なく通路に出ると、三メートルほど離れたところにドアがあり、その横に企業名が書かれたプレートがあった。
どうやら一つのフロアに一つの企業オフィスが入っているビルのようである。
「全く違う。こんなにも違うなんて驚きだ」
と呟きながら『私』は一段ずつ降りていく。
無限ループのような通路も、規格外の広さもすべて作られた空間であり、侵入者を惑わす迷路のような役割を果たしていた。
「降臨の儀式に気づかれても、時間を稼げるように仕掛けたんだと思います。私も通りました。従僕を沢山召喚して、怖かったです」
『私』と手をつないで歩く津賀留が、ぶるっと体を震わせた。
祠堂は階段の踊り場で足を止めて、「チッ」と舌打ちをする。
「だからって。こんなに大規模の禍神降臨儀式に全く気づかないのはおかしい。カミナシだけではなく、アメミットにも、今回の事は上に文句……報告をしないと」
(禍神に対抗する組織は二つあるってことなのかな?)
『私』は二人のやり取りを聞きながら考えていると、六階と書かれたフロアにゾンビの気配が漂っていることに気づいた。
階段で足を止めてその方向を見る。企業オフィスの中に数体ほどいるようだ。
(ゾンビ達は元の世界に還らなかったらしい)
このビルの脅威はまだ終わっていないようだ。
『私』は祠堂を見上げた。
「残っているゾンビは放置するの? 倒すの?」
祠堂は興味なさそうに肩をすくめる。
「どうせカミナシが後始末するだろ。アメミットの出る幕はない」
「なるほど。ところでヤンキーお兄さん、アメミットやカミナシってなに?」
話の流れでついでに固有名詞について聞いてみたが、またしても変な空気が流れる。
祠堂は首を傾げて「お前、今日はどうした?」と聞き返す。
津賀留は不安そうな顔になると、握っていた手を放して腕を体に引っ付けた。
「そうですよ。アメミットは法の番人で、天路《あまじ》国家機関の名称です。そして祠堂さんはそこでも凄腕で単身でも禍神案件を任されるほどの実力者ですよ!? 本当にどうされたんですか!? ヤンキーお兄さんと呼んでいますが、祠堂さんは真面目で思いやりのある人です。無視するよりも酷いですよ」
(津賀留ちゃんが説明してくれた。チュートリアルはまだ終わらないんだ)
「熱が入ってたけど、もしやあれって津賀留ちゃんの彼氏?」
「違います! 絶対に違います!」
津賀留は全身全霊で否定して、心外だと目尻を上げて睨む。
「……冗談だって」と『私』が取り繕うと、津賀留から険が取れた。
(あれだけ激しく拒否したらヤンキーお兄さんショック受けるんじゃ?)
振り返って祠堂の反応をみる。彼は『なに言ってんだこいつ』みたいな顔をしていたので、二人は恋人同士ではないようだ。
もしや二人は無自覚ではと邪推するも、この件を深堀する必要はない。『私』は別の質問に切り替えた。
「じゃぁ。カミナシはどんな機関?」
「いい加減にしろ、自分の所属機関だろうが! あの手この手で馬鹿にしやがって!」
祠堂がイライラしながら「この話は終わりだ!」と一方的に終了した。
(なんか怒った。どうせならもっと設定情報が欲しかったんだけどなぁ)
取り付く島がなくなり『私』はがっかりした。その姿をみた津賀留は、眉を潜めて心配そうな視線を向けていた。
三階に着いたところで、「ファウストの現身」と祠堂が呼んだ。
『私』が視線を向けると、疑惑の眼差しが飛んでくる。
「津賀留を助けに来たのは、お前一人か?」
『私』は始まりの状況を思い出して、頷いた。
「他に誰かいたの?」
祠堂は少し考えて、首を左右に振った。
「姿はみていないが、このビルに入った直後、別の気配があったような気がして……無視できないほどの只ならぬ気配だったが……。いや忘れろ。俺の気のせいだ」
このビルに侵入した時に感じたもう一つの気配は禍神《まがかみ》だったのだろう。
先に入った息吹戸が何も知らなければ、気にしなくていいことだと判断して、祠堂は疑問を頭から消した。
その後は無言のまま階段を降りて、一階に到着した。フロアの壁に自動販売機や企業案内のプレート、長椅子、観葉植物が置かれている。
スライドドアが左手にあったのでそちらに足を向けると、祠堂は回れ右をして反対側に歩き出した。『私』は気になったので声をかける。
「どこ行くの?」
「俺は裏口から出る。……またな津賀留」
祠堂は片手をあげて呼びかけるが、津賀留は苦笑いを浮かべた。
「祠堂さん。もしかしてまた無断で息吹戸さんを追って来たんですか?」
任務ならば逃げるように裏口に回る必要がないと想像しての質問だったが、祠堂がギクッと肩を動かして肯定した。
津賀留は「やっぱりそうでしたか」と小さく呟いた。
「重ね重ね有難うございました。祠堂さんのお陰で私と小鳥課長の命が救われました。部長にもしっかり報告……」
「俺のことは誰にもいうな!」
祠堂が顔色を変えて拒否するので、津賀留は困ったように眉を顰めた。
「そーいうわけにも……本当のことですし」
「わざわざ追って来たってほんと?」
『私』が不思議そうに祠堂に問いかけると、彼の目が激しく泳いだ。
「そ、それは、たまたま居場所が分かって。たまたまだぞ! 来てみたら目隠しの結界があったから何事かと思って入っただけで! たまたまだ!」
意図せずにたどり着いたと強調されればされるほど、祠堂と息吹戸に何か因縁があると『私』は感じ取った。
(そういえばこの人、ストリートファイトしようとしたなぁ。険悪な関係かも。でもこの人のお陰でミッションクリアができたから、お礼は伝えないといけないかな)
「そっか、協力ありがとね」
「え!?」
よほど意外だったのか、祠堂は顔を青くして額から冷や汗を流した。
困惑しながら「あ、ああ」と皺枯れた声で頷いたところで、ハッと我に返る。
「つ、次こそ勝負だからな!」
「え? 勝負? 遠慮します」
「首洗って待ってろよ!」
否定するも、祠堂は言い捨てながら物凄いスピードで走り去った。
『私』は去って行く背中を眺めながら、ふぅん、と声を出す。
「あの人は仕事で来たわけじゃないのか。変なの。いきなりストリートファイト申し込まれたけど、難癖をつけるっていよりも戦うのが趣味なのかな? どう思う?」
意見を聞こうと見下ろすと、津賀留は化け物をみたように顔色を青くしながら『私』を見ていた。
「息吹戸さんが、お礼を……言って、る? この世の、おわり……」
(こっちもこっちで……)
普通の対応をしているはずだ。
当たり障りのない普通の大人の対応のはずだ。
なのに、そのたびに驚かれてしまい、珍獣を見る様な眼差しを受けて『私』は疲弊してきた。
(夢の中なのにメンタル疲れるって一体……)
「まあいいか、ビルから出よう。出たらエンディングか、目が覚めるかな?」
気を取り直して、『私』はスライドドアから外へ出た。
寒空の空気が全身を纏う。
「へっくしゅん」
津賀留がくしゃみをした。白いローブの下が薄着であると気づいたときにはもう遅かったが、『私』の服もワイシャツとズボンしか身に着けていない為、服を分けてあげることができない。
どこか暖かい場所があるか探そうとした時、
「出てきた!」
「いた!」
「無事か!?」
数人の男女が必死の形相でこちらに駆け寄ってきた。
「うわ……」と『私』は声をあげる。一瞬逃げ腰になるものの、津賀留の表情が明るいことに気づく。
知り合いのようなのでその場で待機した。
ついでにやってきた人物を一瞥する。
どれも顔の偏差値が高いのが第一印象だ。彼らは襟首と腕に白色模様が入った茜色のジャンパーを羽織っている。その下はシャツやらボタンシャツやらズボンやスカートで色も質感もバラバラなので、統一されているのはジャンパーだけである。
「無事だったか津賀留!」
「よかった!!」
「津賀留心配したぞ!」
彼らは津賀留にどっと詰め寄り、口々によかったと声に出ものの、『私』と一切視線を合わそうとしていない。
『私』が見れば見るほど、彼らはこちらに背を向けた。
(ふむ。とりあえずあっちに移動するかな)
お邪魔だと察知して、ゆっくりとした動作で、ススス……と横へ逸れた。
そして津賀留を眺める。彼女は安堵の表情を浮かべながら彼らに事情を話していた。
(私の立ち位置はどこだろう? 彼らの仲間なのかな? 臨時のバイトなのかな?)
彼らは『私』と一定の距離を開けて、それを保とうとしていた。
人間関係はわからないが、これだけはわかる。
『私』は嫌われている、若しくは、敬遠されていると。
(まぁ、べつにいいか。夢だし)
『私』は特に気にすることもなく遠巻きに眺めていたが、担いでいる小鳥の存在を思い出した。彼を病院に連れて行かなければならない。
集団に声をかけるのは躊躇われるので、手隙の者がいないか探していると、背後から声をかけられる。
「担いでいるのは小鳥さんか? かせ」
振り返ると、そこには高身長でかなりのイケメンの二十代男性が立っていた。
端正な彫りの深い顔に、苦虫を潰したような渋い表情を浮かべている。こちらを見る瞳に敵意があった。
業務だから仕方なく声をかけたと態度にありありと出ている。
まともな人間じゃないと感じて、『私』は関わらないほうが良いだろうと判断した。
とはいえ、小鳥を引き受けてくれるのは助かると、『私』はすぐに肩から下して横抱きにしたあと、男性に差し出した。
「はいどうぞ。怪我をしているからすぐ病院連れてってあげて」
「……どうぞ?」
男性は怪訝そうに聞き返したが、それ以上何も言わなかった。
すぐに小鳥を受け取って肩に担ぎ、路肩に停めてある車の助手席に座らせる。
そのまま運転席に乗り込むと、車を発進させてこの場から去って行った。
(どうか小鳥さんの命が助かりますように)
『私』は両手を合わせて少し祈るが、
(あれ。これ祈ったら、ご冥福っぽい?)
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