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序章 いつものホラーアクション夢

7.回収したけどこの神様見覚えある、ゲームで

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 縄を外さずそのまま肩へ担ぐ。両肩へ担ごうとしたが、津賀留つがるは「あ、の人も、お願い、します」と、足で蛇に絡まれている人を示した。

「絡まれている人? 知り合い?」

「は、い。小鳥さんも、助けてください。お願いします!」

 津賀留つがるの口からぽろっと何かが落ちると、途端に滑舌が良くなった。

「りょ!」

 『私』は津賀留つがるを左肩にかけて急いで小鳥の救出に向かう。走った勢いで蛇を蹴ると、サンドバックのような感触が伝わった。

(あれ? 半透明で気づかなかったけど、これ蛇だ)

 この段階でやっと『私』は蛇だと気づいた。蛇なら目を攻撃すれば離してくれるかもしれない、という理由で、蛇の目の部分を蹴り上げる。

 一度目で緩んだ締め付けが、二度目でするっと離れた。

(今だ!)

 離れた瞬間、小鳥を思いっきり蹴って屋上の出入り口方向に飛ばした。その姿を見て「ああああ!」と、担がれている津賀留つがるが安否を気にするような悲鳴をあげた。

「よしよし。ドアまで転がってけー!」

 『私』は嬉々としながらゴロゴロゴロと滑っていく小鳥を追いかけ、転がる勢いが無くなってから途中で拾い上げる。

(ん? 軽い?)

 ローブの形から、おそらく成人男性の体格と思っていたが、予想以上に身は軽かった。津賀留つがると同じくらいかもしれない。

(これなら楽だね!)

 小脇に抱えて『私』は全力でドアへ走った。

「ヤンキーお兄さん! 撤収ーー!」

 
「!」

 前側の魔法陣の周囲でドンパチやっている祠堂《しどう》に声をかける。

 大量の炎や風や水の攻防が、特撮映画のエフェクトのようで派手だ。熱も風圧も振動もあり、とてもリアルに作り込まれていると『私』は思った。

 「分かった!」

 祠堂しどうがこちらを一瞥《いちべつ》して右腕を天に伸ばした。彼の体から一つの淡い球体が浮き上がり、輝きを放つ。

 
!」

 祠堂しどうの体を軸にして風圧が四方に広がった。

 天から伸びる六本の半透明な蛇と、黒ローブ達が吹き飛ぶ。
 蛇がするすると天に戻り、黒いローブ達が宙に浮き地面に激突。倒れたまま動かない事を確認して、祠堂しどうもドアへ駆けだした。

 儀式を遮っただけで中断にまでは至っていないが、生贄を二名救出した以上、時間が立てば儀式は破綻はたんする。儀式が破綻すれば禍神まがかみはこの地に降りられない。
 犠牲者はいるが、被害を最小限にできたことで良しとしよう。と祠堂しどうは割り切った。

「おい。二人を抱えてすぐにビルから逃げろ」

「うわ!? ビビった!」

 距離があったにも関わらず、真後ろから祠堂しどうの声が聞こえて、『私』は大いに驚いた。

「このビルはまだあれの支配領域だ。俺が殿をしとくから先に脱出しろ。そいつらが奪われたら元の木阿弥もとのもくあみだ」

 『私』が振り返ると彼の肩越しから、交叉した骨の刺繍ししゅうがあるスカートがひらりとはためいたのが見えた。
 女神の足先が、こちらに一歩踏み出したことに吃驚して声をあげる。

「わ! 神が動いた!」

「なんだと!?」

 慌てて祠堂しどうが振り返る。

「動ける段階まで進んでたのか!?」

 祠堂しどうの視線が奥の魔法陣に注がれる。座っていたはずの白いローブ達が半分ほど蛇に飲まれたまま天に昇っていた。残り半分もすぐに同じ運命をたどるだろう。

「わあ。これはマズイね」

 女神が一歩足を進め、体を、腕を、頭をこっち側に降ろしているのが感じられる。

 ぶわわわ! 

 風圧をつけながら中腰になった女神は、頭に蛇を置いた老婆だった。片手に水瓶を抱えている。『私』には見覚えがあった。

(……あれ。もしかしてイシュ・チェル?)

 ぱっと浮かんだのは、マヤ神話。
 虹の婦人・月の女神と異名をもつ、洪水・虹・出産を司る女神だ。
 怒ると天の水瓶みずがめを用いて地上に大雨を降らせ、空の虹に助力じょりょくして洪水を引き起こすため、怒れる老婆ろうばとも呼ばれ破壊神はかいしんとしての面を持つ。

(うん? ゲームでちょこちょこ名前あったから知ってるけど、ギャップすごい)

 この場合のギャップは若さだけど。と心の隅でこっそり思った。

(しかし、このチョイス。出演者もなんでもありってことなのかな?)

 まあ夢だし、と割り切る。

(はてさて、どうやって切り抜けようかな)

 召喚失敗でこのままお帰り願うのが一番だが、残念な事に女神はそんな気分にならなかったらしい。
 眼下がんかの小さな人間達に怒り心頭のようで、目を吊り上げている。
 パノラマに広がる巨大な老婆ろうばの顔、ましてや鋭く睨まれるなんて、腰を抜かすような景観けいかんだ。

 女神なりの計画があり、小賢こざかしい人間に邪魔をされて怒っているのかもしれない。

 ンンンンンン!

 口を開け、音のような、声のような、地響きのような音を発した女神は、たっぷりの水が入った水瓶をひっくり返した。
 どうやら洪水を起こす気満々だ。屋上で大量の水に飲まれれば、滝に落ちるがごとく地面まで真っ逆さまになる。

「やっば!」

 『私』は津賀留つがると小鳥をドアの奥へ投げ入れた。

「お兄さんも中へ入って!」

「んな!?」

 女神の動きに対処しようと手をかざした祠堂しどうの首を、猫の子を掴むようにひょいっと掴んで通路へ投げ入れた。
 乱暴に入れたにもかかわらず、綺麗に足から着地した祠堂しどうは『私』に非難の声をあげる。

「何するんだ!」

「いいから!」

 なんとなく、彼では敵わないと思った。かといって『私』でも敵わない。

(でも勝てなくても良い。負けなければいい。逃げ切ればいい)

 一時的にでも、相手の攻撃を回避するか無効化すれば、洪水を、女神の侵攻を回避できるはずだ。

(夢なら、強い想いとイメージを明確にすれば何でもできる。今までだって出来たから、今回もきっと大丈夫! 私ができる最善策は!)

 確固たるイメージを思い浮かべる。

(はじき返す、反射、バリアー、あ! 鏡! 鏡ならイメージしやすい。ええと、力のある鏡、神様の力を持った鏡……)

 パッと閃く。

八咫鏡やたのかがみ!」

 パァ!

 身の丈四メートルもある大きな青銅鏡せいどうきょうが視界に広がった。

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