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序章 いつものホラーアクション夢
3.敵か味方かという展開で絡まれたっぽい
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前方から動く気配を感じて、『私』は咄嗟に物陰に隠れてやり過ごす。
ゾンビ二体が緩やかに通り過ぎた。
距離が開いたところで、音を立てずに反対方向へ移動して距離を取る。
まさに隠密行動。忍者にんにん。
あっちへ向かっているゾンビをチラッと見るが、気づかれない。ホッとため息を吐く。
(さてと。ここはどうかな)
うーん。と呻きながら耳を澄ませる。
フロアのおおよその間取りが、なんとなく頭に浮かんできたし、ゾンビの数もなんとなく把握できた。
この体、空間認知能力がすこぶる高いようで、これに気づいてからは移動が楽になっている。
(五階ほど上がったところで、ゾンビの数が爆発的に増えたし。もしや屋上が近いかも)
物語の終わりになるにつれて、敵がうじゃうじゃ出るのは当然のパターンだ。
(でも、逃げ回るのはそろそろ限界っぽい。突入して蹴散らしたほうが良さそうだけど)
自身の手を見る。血色が良くてすべすべだ。
(箸より重い物が持てない手っぽい。ステゴロする人には見えないし、うーん、呪文? って何も思い浮かばないし。途中で色々探してみたけど、掃除用のモップすらなかったし。どうしよー。武器が無い。でも素手はなぁ……)
腕組みをして頭を左右に振りながら「うーん」と唸っていると、後方から何かやってくる気配がする。
耳を澄ませると微かに通路に響く駆け足の音。迷いなく『私』に近づいてくる。
音の様子からゾンビではない。だが、二足歩行の何かが来たことは間違いないだろう。
(やけに力強い気配がする! これはもしや中ボスっぽいのが、業を煮やしてあっちから来たかも!?)
脳裏に血管浮き出たマッチョゾンビを想像しながら、こちらに来るのを待つ。ドキドキしながら待っていると、すぐに曲がり角から出てきた。それはパッと見て人間だった。
上下黒いスーツの上に碧と白い模様が入ったジャンパーを羽織った男性だ。
(あっれー! 生きてる人間だ!)
ゾンビしかいないと思っていたので、とっても新鮮に感じた。
(敵か味方か分からないけど、物語が動いた!)
『私』は期待に胸が膨らんだ。
男性は『私』の所まで走り、五メートルほど手前で急停止すると、黒い手袋をした指でビシっと『私』を指さしした。
そして第一声。
「俺と勝負だ! ファウストの現身!」
「……」
(誰だ?)
見覚えがないので『私』はリアクションが取れず、淡々とした視線だけ男性に向けた。
とりあえず、スニーカーから煙があがっている。と余計な事を考えてから観察する。
年齢はおそらく二十代前半。身長はやや高め。
チョコブラウン色の髪はソフトモヒカンで、ヘアターバンをつけている。太い眉に目つきの悪い三白眼が良く見える。左の泣きボクロがセクシーで、角張った顎をしているがクール系の美形。
スーツの下で隠れているが、首から流れる角張ったラインにより筋肉質だと伺える。
(やばい。服が筋肉に沿って張ってる。しかもうっすら雄っぱいの影が見えているなんて。でもゴリラじゃなくて、引き締まってっていうか、なんという良き体)
体を万遍なく見ること一分弱。
『私』は男性を吟味する視界の端っこから、ゾンビ数体がこっちに駆け寄ってくる姿を発見して、無言のまま回れ右をしてこの場から脱兎する。
「んなーーー! 逃げるのか!? ファウストの現身!」
突然逃げ出した『私』に対して、男性は憤慨した様に怒鳴ってから、すぐに追ってきた。
(ほうほう。この度の私の名前が、ファウストノウツシミというのか。どこまでが名前で、どこまでが苗字なの?)
男性が「まてーー!」「無視するなー!」と大声で叫んでいるので、ゾンビの気配が爆発的に増えた。音の方に寄ってきているのが感覚で伝わる。
(意図せず、音にも反応って分かったわ。セオリーゾンビね)
しかしこのまま集まっても貰っても困る。とりあえず、走る迷惑大音響男を何とかしようと、後ろを振り向く。『私』の速度よりやや早いみたいで、徐々に距離が縮まっていた。
「いやさぁ。時間ないんだわ」
「はぁ!? どーいうことだ!」
絡まれると厄介なヤンキーお兄さんだと思いつつ、『私』は肩越しで詫びを入れる。
「遊んでる時間ないんだわさぁ」
「変な言葉でおちょくるな!」
「いや。全然。っていうか、ゾンビも沢山追ってきたし」
「はぁ!? ゾンビがなんだって!?」
「今はゾンビをどうしにかしたいの! そして速やかに屋上に行きたいの!」
のんびり口調だが、これでも既にフロアを三周くらい回っている。
(ううう。自分で言うのも何だけど、スタミナと速度がすごい。百メートル走を五秒くらいで走れてるんじゃないかと思ってしまうよこれは!)
自身の足の速さに感動していると、男性が更に走る速度をあげてきた。
「いい加減に止まれ! わざわざこっちから訊ねてやったんだぞ!」
「嫌ですぞ! そんな時間ない!」
「一撃で勝負つければいいだろうが!」
「こんな場所でバトれるか! 時と場所を考えて!」
「ふざけるな! ゾンビよりも俺の方が強いだろうが!」
「意味が・分からぬっっ!」
足を止めたら男性とバトルしそうな空気なので、絶対に足を止める事ができない。雰囲気から、カードゲームとかじゃんけんといった平和的要素は考えにくい。
どう考えてもストリートファイトに移行してしまうだろう。
(全く、空気読まない人に出会っちゃったなんて。敵っぽくないけど、味方じゃないかも)
更に間が悪いことに、追いかけっこを進めた結果、ゾンビがあちらこちらから湧いている。後方から追いかけてくるゾンビはもとより、前方にいるゾンビの背中すら追い抜かす事態に。
もはやゾンビを交えた室内マラソン大会だった。
「うわー。こんなに大所帯に! ヤンキーお兄さんがゾンビ呼んじゃったせいだからねー!」
「ゾンビくらいさっさと倒せばいいだろうが!」
「それが出来れば苦労しない!」
「はあ!?」
と男性は呆れたような声をあげた。
ゾンビ二体が緩やかに通り過ぎた。
距離が開いたところで、音を立てずに反対方向へ移動して距離を取る。
まさに隠密行動。忍者にんにん。
あっちへ向かっているゾンビをチラッと見るが、気づかれない。ホッとため息を吐く。
(さてと。ここはどうかな)
うーん。と呻きながら耳を澄ませる。
フロアのおおよその間取りが、なんとなく頭に浮かんできたし、ゾンビの数もなんとなく把握できた。
この体、空間認知能力がすこぶる高いようで、これに気づいてからは移動が楽になっている。
(五階ほど上がったところで、ゾンビの数が爆発的に増えたし。もしや屋上が近いかも)
物語の終わりになるにつれて、敵がうじゃうじゃ出るのは当然のパターンだ。
(でも、逃げ回るのはそろそろ限界っぽい。突入して蹴散らしたほうが良さそうだけど)
自身の手を見る。血色が良くてすべすべだ。
(箸より重い物が持てない手っぽい。ステゴロする人には見えないし、うーん、呪文? って何も思い浮かばないし。途中で色々探してみたけど、掃除用のモップすらなかったし。どうしよー。武器が無い。でも素手はなぁ……)
腕組みをして頭を左右に振りながら「うーん」と唸っていると、後方から何かやってくる気配がする。
耳を澄ませると微かに通路に響く駆け足の音。迷いなく『私』に近づいてくる。
音の様子からゾンビではない。だが、二足歩行の何かが来たことは間違いないだろう。
(やけに力強い気配がする! これはもしや中ボスっぽいのが、業を煮やしてあっちから来たかも!?)
脳裏に血管浮き出たマッチョゾンビを想像しながら、こちらに来るのを待つ。ドキドキしながら待っていると、すぐに曲がり角から出てきた。それはパッと見て人間だった。
上下黒いスーツの上に碧と白い模様が入ったジャンパーを羽織った男性だ。
(あっれー! 生きてる人間だ!)
ゾンビしかいないと思っていたので、とっても新鮮に感じた。
(敵か味方か分からないけど、物語が動いた!)
『私』は期待に胸が膨らんだ。
男性は『私』の所まで走り、五メートルほど手前で急停止すると、黒い手袋をした指でビシっと『私』を指さしした。
そして第一声。
「俺と勝負だ! ファウストの現身!」
「……」
(誰だ?)
見覚えがないので『私』はリアクションが取れず、淡々とした視線だけ男性に向けた。
とりあえず、スニーカーから煙があがっている。と余計な事を考えてから観察する。
年齢はおそらく二十代前半。身長はやや高め。
チョコブラウン色の髪はソフトモヒカンで、ヘアターバンをつけている。太い眉に目つきの悪い三白眼が良く見える。左の泣きボクロがセクシーで、角張った顎をしているがクール系の美形。
スーツの下で隠れているが、首から流れる角張ったラインにより筋肉質だと伺える。
(やばい。服が筋肉に沿って張ってる。しかもうっすら雄っぱいの影が見えているなんて。でもゴリラじゃなくて、引き締まってっていうか、なんという良き体)
体を万遍なく見ること一分弱。
『私』は男性を吟味する視界の端っこから、ゾンビ数体がこっちに駆け寄ってくる姿を発見して、無言のまま回れ右をしてこの場から脱兎する。
「んなーーー! 逃げるのか!? ファウストの現身!」
突然逃げ出した『私』に対して、男性は憤慨した様に怒鳴ってから、すぐに追ってきた。
(ほうほう。この度の私の名前が、ファウストノウツシミというのか。どこまでが名前で、どこまでが苗字なの?)
男性が「まてーー!」「無視するなー!」と大声で叫んでいるので、ゾンビの気配が爆発的に増えた。音の方に寄ってきているのが感覚で伝わる。
(意図せず、音にも反応って分かったわ。セオリーゾンビね)
しかしこのまま集まっても貰っても困る。とりあえず、走る迷惑大音響男を何とかしようと、後ろを振り向く。『私』の速度よりやや早いみたいで、徐々に距離が縮まっていた。
「いやさぁ。時間ないんだわ」
「はぁ!? どーいうことだ!」
絡まれると厄介なヤンキーお兄さんだと思いつつ、『私』は肩越しで詫びを入れる。
「遊んでる時間ないんだわさぁ」
「変な言葉でおちょくるな!」
「いや。全然。っていうか、ゾンビも沢山追ってきたし」
「はぁ!? ゾンビがなんだって!?」
「今はゾンビをどうしにかしたいの! そして速やかに屋上に行きたいの!」
のんびり口調だが、これでも既にフロアを三周くらい回っている。
(ううう。自分で言うのも何だけど、スタミナと速度がすごい。百メートル走を五秒くらいで走れてるんじゃないかと思ってしまうよこれは!)
自身の足の速さに感動していると、男性が更に走る速度をあげてきた。
「いい加減に止まれ! わざわざこっちから訊ねてやったんだぞ!」
「嫌ですぞ! そんな時間ない!」
「一撃で勝負つければいいだろうが!」
「こんな場所でバトれるか! 時と場所を考えて!」
「ふざけるな! ゾンビよりも俺の方が強いだろうが!」
「意味が・分からぬっっ!」
足を止めたら男性とバトルしそうな空気なので、絶対に足を止める事ができない。雰囲気から、カードゲームとかじゃんけんといった平和的要素は考えにくい。
どう考えてもストリートファイトに移行してしまうだろう。
(全く、空気読まない人に出会っちゃったなんて。敵っぽくないけど、味方じゃないかも)
更に間が悪いことに、追いかけっこを進めた結果、ゾンビがあちらこちらから湧いている。後方から追いかけてくるゾンビはもとより、前方にいるゾンビの背中すら追い抜かす事態に。
もはやゾンビを交えた室内マラソン大会だった。
「うわー。こんなに大所帯に! ヤンキーお兄さんがゾンビ呼んじゃったせいだからねー!」
「ゾンビくらいさっさと倒せばいいだろうが!」
「それが出来れば苦労しない!」
「はあ!?」
と男性は呆れたような声をあげた。
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