筆と刀の混沌戦禍

皐月やえす

文字の大きさ
上 下
55 / 58
背水の陣

十一

しおりを挟む

 と、ここで庄右衛門が雪丸の手を掴んだ。
 雪丸がハッとして庄右衛門を見ると、

「今日はもう必要なことは話せた。明日、具体的な作戦を練ろう」

と牡丹に言う。そのまま翡翠に部屋から連れて行ってやるように頼んだ。

「俺は少し雪丸と話をしてから部屋に戻ってもかまわないか?」
「ええ、部屋を出る際は、襖をしっかり閉めていただければ大丈夫です」

 翡翠がそう答え、牡丹と共に部屋を出る。

「庄右衛門殿……」

 不意に牡丹が庄右衛門に声をかけた。

「ありがとうございます……よろしくお願いします」
「……ああ」

 庄右衛門がぶっきらぼうに返事をすると、襖がぴっちりと閉まった。



 部屋には庄右衛門と雪丸だけが残された。
 雪丸は打ちひしがれて、座り込んでいる。白くて小さな手が震えているのが見えた。

「いくら怒りに身を任せたとはいえ、母親に口答えをするのは怖かったか」
「……」

 雪丸の沈黙は肯定のようだった。庄右衛門はうん、と頷く。

「良く言った。頑張ったな」

 庄右衛門の言葉に、雪丸は驚いた。庄右衛門は続ける。

「お前、今まで母親を怖がるばかりだっただろう。それを、自分の気持ちをしっかり伝えたんだ。ようやく親子喧嘩ができたんじゃないか?」

 確かに、と雪丸は思った。
 幼い頃は違うが、母親と言葉を交わすどころか、顔を合わせる機会もなるべく減らしていたのは自分の方だった。
 家を出る前に口をきいたのは、一体いつだっただろうか……。

「だからこそ、ようやく閏間神社で起ころうとしている悪だくみがわかったんだ。
なあ、親と言い合うのは悪いことばかりじゃないだろう?むしろ必要なことだ」
「……」
「ただ、牡丹殿はすでに反省をしているようだし、お前も言いたい事を言い終わったんだ。これ以上続けても泥沼になる。
今はまず、怒りの矛先を母親ではなく幽幻に向けろ」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

架空戦記 隻眼龍将伝

常陸之介寛浩☆第4回歴史時代小説読者賞
歴史・時代
第四回歴史・時代劇小説大賞エントリー ♦♦♦ あと20年早く生まれてきたら、天下を制する戦いをしていただろうとする奥州覇者、伊達政宗。 そんな伊達政宗に時代と言う風が大きく見方をする時間軸の世界。 この物語は語り継がれし歴史とは大きく変わった物語。 伊達家御抱え忍者・黒脛巾組の暗躍により私たちの知る歴史とは大きくかけ離れた物語が繰り広げられていた。 異時間軸戦国物語、if戦記が今ここに始まる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この物語は、作者が連載中の「天寿を全うしたら美少女閻魔大王に異世界に転生を薦められました~戦国時代から宇宙へ~」のように、異能力・オーバーテクノロジーなどは登場しません。 異世界転生者、異次元転生者・閻魔ちゃん・神・宇宙人も登場しません。 作者は時代劇が好き、歴史が好き、伊達政宗が好き、そんなレベルでしかなく忠実に歴史にあった物語を書けるほどの知識を持ってはおりません。 戦国時代を舞台にした物語としてお楽しみください。 ご希望の登場人物がいれば感想に書いていただければ登場を考えたいと思います。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

織田信長に逆上された事も知らず。ノコノコ呼び出された場所に向かっていた所、徳川家康の家臣に連れ去られました。

俣彦
歴史・時代
織田信長より 「厚遇で迎え入れる。」 との誘いを保留し続けた結果、討伐の対象となってしまった依田信蕃。 この報を受け、急ぎ行動に移した徳川家康により助けられた依田信蕃が その後勃発する本能寺の変から端を発した信濃争奪戦での活躍ぶりと 依田信蕃の最期を綴っていきます。

よあけまえのキミへ

三咲ゆま
歴史・時代
時は幕末。二月前に父を亡くした少女、天野美湖(あまのみこ)は、ある日川辺で一枚の写真を拾った。 落とし主を探すべく奔走するうちに、拾い物が次々と縁をつなぎ、彼女の前にはやがて導かれるように六人の志士が集う。 広がる人脈に胸を弾ませていた美湖だったが、そんな日常は、やがてゆるやかに崩れ始めるのだった。 京の町を揺るがす不穏な連続放火事件を軸に、幕末に生きる人々の日常と非日常を描いた物語。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

処理中です...