夢の中へ

さくらん坊

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雲野カイト1

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 なんだここは。周りじゅうから爆音が聞こえる。恐い。
「お前はここにいろ。」
誰だ?おい、行かないでくれ。言葉は出なかった。
「"ジャッジメント・タイム"」
男から光が溢れたように見えたが、すぐにそれは黒いもやとなって男にまとわりついた。その男は飛んでいった。
「おーい。おい。」
今度は誰だ?
「いい加減にしなさい。誰だじゃないよ。」
ん?この聞き馴染みのあるしわがれ声は・・・?

 クラスみんなが俺を見て笑っている。
「まったくもう。君はやる気ゼロかね。」
松村先生は毎授業で俺を起こすんだ。
「来週は期末テストだぞ。君に寝てる余裕はないだろう。」
はいはい、万年ドベの俺は赤点まっしぐらですよ。
ーキンコンカンコンー
チャイムが鳴った。
「よし、じゃあ今日はここまで。」
授業終わるなら起こすなよな。

「カイト」
俺を呼んだのは幼なじみのリン。成績優秀でいつも学年トップだ。
「今日も寝てたのね?そんなんじゃ魔法試験受かれないわよ。」
「仕方ないだろ。松村の授業つまんないんだもん。第一、俺は戦士になりたいんだ。研究員じゃない。だったら魔法理論なんて学ばなくてもいいだろ。」
「理論を知ることで魔法の上達も早くなるのよ。」
ぐうの音もでない。
「俺は・・・頭じゃなくて身体で覚えるタイプなんだ!」
なんとか絞りだす。リンはいつもこれだ。正論で俺がやられる。ちょっと魔法ができて、ちょっと可愛いからって・・・
そういえば、いい匂いもするなあ
「ねえ、聞いてる?」
「ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてた。えっと、なんだっけ?」
「今日の放課後あたいの家で勉強しようよ。」
「いいね、それ。」
「じゃあ、放課後正門で待ってて。」
そう言ってリンは走っていった。ああ、次は実践魔法か。俺の得意分野だ。

 トレーニングルームは地下にあって、実践魔法の先生一人に生徒数名が振り分けられる。俺の先生は退役軍人のゴルドー先生。
「よう、カイト!」
「おつかれさまです。」
「なんだ、その顔は。いいことでもあったか。」
「いや、別に・・・」
「さてはリンだな。想い続けてはや何年だ?」
「そ、そんなんじゃないですよ。」
「ふーん。」
先生のニヤニヤ顔を見ると尊敬の念が薄れていく・・・
「ところでネルはどうした?」
「まだ見てないですけど・・・」
「す、すいません!遅くなりました。」
ネルが慌てて入ってきた。口の周りのあんこを見ると、休み時間にじじ屋までどら焼き買いに行ったな。
「おうおう、二人そろったな。じゃ、はじめるか。ま、テストも近いから俺が相手するよ。二人でかかってきな。」
先生が相手だって?
「もちろん、手加減するよ。」
そういう問題じゃない。あれこれ言っても、考えを変える先生でないことは分かっていた。
「よし、二人とも準備はいいな?始め!」
 俺は手に、ネルは床に魔法陣を描く。
「'火炎陣拳ファイア・フィスト'」
「'跳躍陣バウンズ'」
これが俺たちの決め技だ。俺はネルの力を借りて、勢いよく前へ飛び出る。先生に飛びかかる。しかし、先生は容易くよけ、俺の拳は壁に・・・痛っ!
「威力は申し分ないよ。断魔素材のここの壁を凹ませたからな。でも、使いどころを選んで確実に当てなきゃスキだらけだぜ。」
先生の拳はただ魔力をまとっただけなのに、恐ろしいほど速い。俺は死んだ。

ー仮想戦闘モード解除ー

ここではあたかも自分が魔法を使っているかのように、しかし安全に訓練できる。このシステムがなきゃ、俺は何度先生に殺されたか。おっと、ネルは?

 俺がやられたのを見たネルはすぐに自分の危機を悟ったようだ。
「'防衛陣バリア'」
「お前の魔法陣を描く速度は素晴らしいが、ちょっとお粗末じゃないか?'死風陣ブーブークッション'」
ゴルドーのモットーはいつも楽しく。鍛えられた体には似つかず、彼の技名は子どものようなセンスだ。しかし、その威力は凄まじく、バリアをいとも容易く破り、術者をも葬った。

「お前ら、まだまだだな。」
先生は高らかに笑った。松村の言う通りテストやばいかも。
「よし、もう一回だ。」
「えー。先生もうちょっと手抜いてよね。」
ネル、俺もそう思うよ・・・
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