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第三章
二十
しおりを挟む「それに、キキに何かあったら助けないと」
だったら、私が残る――そう言いそうになって、宇加は代わりに深く息を吐いた。
どちらにしても、だった。和可は常のようには動けない。そして、報せは急がなければならない。
であるならば、自分が行くしかなかった。咲久夜達を早くここへと連れて来れば、全員が無事に助かる。
「宇加、なるべく急いでね。キキも心配だし……それに」
「それに?」
「……もしかしたら、今までとは違う鬼が出てくるかもしれない。隠れていた鬼もそうだし、何か変な感じがするの」
「うん……分かってる」
倒れている鬼を見つめる。木の枝を渡って行こうとした自分達を、飛び上がり枝を薙ぎ払い阻もうとした。そんな鬼は今まで見たことがない。
「――何だか、不思議だね」
「?」
不意に放たれた言葉に、宇加は和可を見つめた。
「今まで鬼の倒れたところなんて何度も見てきたけど……この鬼は全然苦しんでなさそうで、死んだことも分かってないみたい」
再び宇加は鬼へと視線を向けた。
確かに、鬼の形相とはよく言うが、今までの鬼はまさに怒りや憎悪などといった鬼の形相をしていた。
けれど、目の前の倒れている鬼にはそれがない。苦悶すらその表情にはなかった。
「キキは、本当に不思議な子」
「……うん」
「行って、宇加。キキを絶対死なせちゃいけない」
「分かった」
宇加は強く頷き――そして、風と共にその場から姿を消した。
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