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第三章
十一
しおりを挟む「――――」
それは、何かが変わった訳ではなかった。けれど、確かに何かが変わり、少女に纏っている。
それが「神気」というものだと知ったのは後の事だったが……キキはなんだか懐かしい気がした。
「『清めて迎え、現世に帳降ち、舞歌鈴鳴り紅の紐帯結ばれる』――神楽というのは舞い歌い神を迎え、そして、神域の中で閨を共にすること。その際に誓いの証として紅の紐でお互いの小指を結んだと言われています」
「そうなのですね」
「それぞれに、清歌、迎歌、帳歌、結歌。キキも陰陽師となったからには覚えておいてください」
「……いえ、わたしは」
「キキ?」
この懐かしい感じ――生まれ変わる時に出会ったあの女性が持つものと同じ。
そうであるならば、自分には神楽は使えないはずだった。人以上の力は使えない――あの時、そう約束したのだから。
……それに。
「……なんでもありません」
キキは首を振り、微笑んだ。
自分には今のこの戦う力だけで十分だった。それ以上は不要だ。
そして、だからこそ、この戦う力を使わなければならない。その為に、生まれたのだから。
「では、私達は先に行って様子を見て参ります」
「うむ、頼む」
振り返り伝える和可と宇加に咲久夜は頷いた。
そして、
――サァァァァ
風を纏い、二人は森の中へと姿を消した。
「鬼の正確な居場所は二人が見つけよう。我らはまず先程報告を受けた場所へと行く――」
「では、わたしも行って参ります」
「キキ? ――――っ!」
咲久夜が顔を向けようとしたその一瞬――もうその時にはキキもまた森へと姿を消していた。
すばしっこい、という問題ではない。神楽で力を得た和可と宇加と遜色ないその動き――だが、それよりも。
「まったくあの童めっ!」
「我らも追いかけましょう、咲久夜様!」
「っ――――いや」
驚き声も出せない照灯を叱咤するように那都はすぐに声を発した。
その言葉に頷きかけ……だが、奥歯を噛みしめてから、ふぅと大きく息を付き、咲久夜はキキの走って行った方へと目を向けた。
「……我らも神楽を使えば追いつけようが、その後の鬼との戦いがおぼつかなくなる」
「ですが、キキはっ!」
「我らが死ねば、この先どうなる!」
「っ」
拳を握り、それはまるで自身に言い聞かせるように――咲久夜は言葉を続ける。
「落ち着け……今はキキを信じるしかあるまい」
「……はい」
そんな咲久夜の姿に那都は頷き、そして、キキの消えた方へと視線を向けた。
「須佐殿」
咲久夜もまた森へと視線を向け、静かに、けれど、鋭く囁いた。
「急ぐ。構わぬな」
「……ああ、構わん」
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