春画作家がだるま男に狂う

ルルオカ

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年に一回だけ開錠される神社の奥の間で、粛々と秘祭がとり行われたあとは、隣接する我が家で慰労会をした。夜中の零時ごろ、お開きになれば、たいていの人は千鳥足で家路につくが、素面の五人の男は居残る。

ゾウネツ役とザンカイノミコト役を含む、代々、秘祭に関わる重要人物。加えて、神主である俺の父。

もちろん、念入りにお祓いをしてから、秘際の幕を閉じるとはいえ「あらためて室内を清めるのだ」と父から聞いていた。とくに秘匿することではないものを、他の関係者には伝えていないらしい。「後始末をする」と知らない彼らが、秘祭後、神主らと祭りの主役たちがこそこそをするのを疑って「ゾウネツを犯して封じる儀式をしているのだ」なんて囁いたのだろう。

まだ学生で、翌日には学校があるというので、俺は免除されていたのが、その年は慰労会の片付けをしていると、父に手招きされ「そろそろ、お前にも伝授しないとな」と耳打ちされた。

「伝授?」とよからぬ予感がした。基本的なお清めの手法は知っているものを、秘祭となれば、異なるのか。とは、どうも思えなかったし、父の背中を追いながら神社に向かう途中「今年を最後に、儀式をしないでよくなるかもしれない」と呟いたのにも、引っかかていた。

神社の室内は暗かった。影を消しとばすように、隙間なく煌々としていたのが、すべての照明が落とされ、蠟燭の火が等間隔に並べられているだけ。

開かずの間の手前に、しめ縄が張られて、その結界を跨ぎ、一見、壁のような戸を開けると、先にきていた重鎮たちが控えていた。儀式用の朱の敷物、その四隅に高い燭台が置かれ、細長く燃えたつ、ろうそくの灯火。

それぞれ燭台の傍に四人の男、合間にゾウネツ役が正座。中央にはザンカイノミコト役、その隣に、うつ伏せの人を馬乗りで押さえつける男。

穏やかでない光景に、ぎょっとする間もなく、拘束されている男が顔を上げたのに、頭が真っ白になった。淡い灯火に照らされたのは青痣。

猿ぐつわをされ、後ろに手を縛られた菖くんだ。自宅が全焼したのち、挨拶することも、一目見ることも叶わず、消え去られたはずが。

「父さん、これは・・・!」

どういうことかと問おうとして、手をかざされる。有無を云わさぬさまに気圧されるうちに「無知蒙昧な者の醜悪、極まりない噂は、あながち外れていない」と伝授とやらが皮切りになったらしく。

「役を担う男にゾウネツを憑依させ、朝まで男どもで犯すのだ。ただ、憑依させる器が、縁もゆかりもない男となれば、儀式の効力は持って一年。だから、毎年、欠かさずにゾウネツを犯さなければならない」

神主の息子ながら、神をはじめ、この世ならざる存在を実質的なものと見なしていないし、また関連する現象を目の当たりにしたこともない。父も今時の人で、神主業をそう特別視せず、サラリーマン的に業務をこなしているつもりと思っていたのが、そうでもなかったらしい。

高い壺を売りつける詐欺師のような本性があったのか。と、不快感を露に顔をひしゃげ、後ずさったものを、どこ吹く風で「ゾウネツに孕まされた女の末裔の生き死にが分からなかったからな」と目を逸らさず、語りつづける。

「分からぬ以上、この排泄以上に、不毛で卑しい儀式をやめられない。祭事の指揮をとるのは神主の責務とはいえ、心が引き裂かれるようだった。先代から引き継ぎ、不本意にも、肢体のない化け物を犯す若者たちを見るのは。

彼たちの子孫もまた、肉便器にもならぬそれを、義務として犯しつづけねばならぬと思えば、尚のことな。だが、光明が見いだせた。私の代で終止符を打つことができるかもしれないと」

「ようやっとゾウネツの子孫を見つけたのだ」と暗い目をしていたのが、にわかに爛々とさせ、うつ伏せの菖くんに手を差し向ける。猿ぐつわを噛みしめ「どうかしている!」と叫びたそうに睨んでくるのを、代弁すべきと思いつつ、喉がひきつって、ままならない。父の妄言に聞く耳を持ちだしているというのか。

「血縁の男に憑依させて犯せば、これまで以上の効果が得らえるだろう。さらに血筋を断つことで、ゾウネツの呪いも絶てるかもしれん」

「まさか!」と声を荒らげようとしたのを「儀式を終えたら、去勢するつもりだ」と冷ややかに一蹴される。想像した最悪のケースではなかったとはいえ、時代錯誤過ぎる単語が耳に跳びこんできたのに「猫や犬じゃないんだから!」と悲鳴を上げざるをえない。

「大体、菖くんの親は・・・!」

「もちろん、許可を得ている。義理の父親は、彼がゾウネツの血筋と知って、自分にその毒牙がかからまいか、高潔な一族にも災いがもたらされまいか、恐れていた。火事も、その一端かも知れないとな。

むしろ、これ以上、厄災が及ばぬよう、断固たる措置をしてくれと乞われたよ。母親は申し訳ないと頭を下げるばかりで、異論を唱えなかった」

あっけなく、頼みの綱が切れてしまい、言葉を失くす。菖くんも落胆したのか、鼻息の荒さが耳につかなくなった。意気消沈した俺らを慰めるでなく、血も涙もないように告げるには「彼の血筋について、調べたところ」と。

「血のつながった父は死んだらしい。幸い、ゾウネツの父方の血筋は彼だけだったよ。弟のほうは、彼が囮になって逃がしてしまった」

慰労会がお開きになってから、ずっと能面のように無表情な父が、このときばかりは「まさに、ゾウネツのようにな」とかすかに鼻で笑った。

「とりあえず、彼を生け贄にした儀式をし、実際的な処置を施すが、弟を放っておくつもりはない。儀式を完遂したとしても、弟も去勢せねば」

「弟も道連れだ」と聞かされ「んー!んー!」と暴れだす菖くん。はっとして俺も援護しようとしたのが、父が手を叩いたのに息を飲み、呪縛されたように身動きできなくなる。

「ゾウネツを憑依させる前に、弟の行方を聞きだそう」

馬乗りの男が退き、暴れて跳ねていたのが、そのままの勢いで仰向けにさせられる。いささか拍子抜けして、菖くんが目を丸くするうちに、背後の男が太ももをつかんで、ご開帳。ザンカイノミコト役が足の間に、体を入れる。

「怯えなくていい。拷問するのではない。ひたすら体を悦ばせてやる。なに、そう不思議なことではない。

人は辛苦より、過ぎる快楽のほうに屈しやすいのだ。弟思いの、お前なら、単に鞭打とうと、どこまでも歯を食いしばるだろうからな。だが、ゾウネツの呪いを封じ込めるほどの快感には耐えうるかな?この手練れたちの施しが」

濡れた瞳を揺らしながら、青白かった頬をやや上気させる。目を逸らして身をよじるも、だしぬけに股間を握りこまれて、硬直した。潰さんばかりに力が込められてるのだろう。

股間を手中にしつつ、ザンカイノミコト役はひょうたんを受けとって、口で栓を抜き、中身を股間に滴らせた。無色透明ながら、甘たるい匂いが鼻につき、みるみる染みてズボンを透けさせて。

強かに股間を握ったまま揺すれば、水音が立ち、すこしもせず「ふ、うん・・・う、う・・・」と鼻にかかった呻きが漏れる。背ける顔の耳まで染めて、腰を揺らしだしたら、股間を人質にしなくても、すっかり抗おうとしなくなり。

ほんの瞼を開け、流し目をしたのに応えるように、空いた片手で液体を胸にこすりつける。濡れた手で胸を揉みながら、透けた布越しに、そそり立ったのを指でなぞり「うう!ふうぅ・・・!う、ん、う、ふう・・・!」とさめざめと泣かせた。

胸の突起とそそり立つ先端を、一際、水音を立てて、爪先でほじくるようにすれば、絶えず太ももを痙攣させ「ふう、ううん・・・!」と達したよう。が、透ける勃起は熱く脈を打ったまま、青痣に皺を刻んだ顔は険しいまま、息遣い荒く涎は垂れ流し。

放出しきれなかった熱を持て余しているらしく、下着ごとズボンを脱がされただけで「ふうう、うう!」と跳ね上がる。立てつづけに射精するのを、どうにか堪えて、身を強張らせているようなものを、心配せずとも、先のほうを細いしめ縄で縛られて。

その絞めつけに涙を散らし、目を見開いた間もなく、指を挿入されて「ふうん!うううん!」と精液を漏らさず、甲高く鳴いた。さらに息つく暇を与えられず、張りつめるばかりの一物をしゃぶられ、ぐちゃぐちゃと後ろを抜き差しされる。

すでに指より太いものを咥えこんでいるが如く、忙しく腰をくねらせるさまを、細めた目で見下ろし「そろそろどうだ?」とやっと父は口を切って、猿つぐわを解かせた。が、ザンカイノミコト役をとどめず、絶頂しっぱなしに「あ、あ、ああん!ふあ、あ、あ、やあ、あん!」と喘ぎ悶えるさまを、秘祭の見届け人の男らに視姦させる。

あまりの屈辱に耐えられないと、いたいけに首を振っていたのが、そのうち誘うように腰を揺らめかし、発情した猫のようにはしたなく鳴いて、色目を使いだした。とことで、満を持して待ったをかけ「後ろの口で男根を貪りたくてしかたなかろう」と問いただす。

「弟はどこに行った?」

快楽に飲まれかかっていたのが「弟」と聞いたとたん、正気にもどった顔つきをして、唇を噛んだ。青痣を歪ませ、父を睨みつけてから、やや眉尻を下げて俺を見上げる。

目を開けたまま失神していたようなのを、視線がかち合った瞬間、肩を跳ね「父さん!」と遅ればせながら縋りついた。「こんなの犯罪でしかない!子供への虐待だ!」と現実的な訴えをするも、迷信を妄信する父の耳には届かない。だったら、菖くんが脅威にならないことを証明せねばと、叫ぶ。

「心配しなくても、菖くんも弟も子を残さない・・・!」

目を見張ったかと思いきや「どうして云いきれる?」と腕を振りはらった。尻もちをついた俺に「解せないな」と鼻を鳴らす。

「ここで完全にゾウネツの呪いを断ちきれれば、お前やその子や孫は、虫唾が走るような、おぞましい儀式をしないで済むというに」

俺に対し、それこそ虫唾が走る思いをしているのか。蔑むように見下ろすのに怯みながらも「どの口が」と歯噛みをして、拳を床に叩きつけた。

「呪いを断ちきれても、罪は消えない・・・!」

「罪」と耳にして男どもは身じろぎしたらしく、四隅のろうそくの火が揺らいだ。無言で問うような、男どもの視線を受け、父は言葉を詰まらせたものを、ふと視線を落としたなら「そうか、お前はとうに呪われていたのだな」と口角をひくつかせ、せせら笑ったもので。

見られたことで自覚して、太ももを閉じる。逆上せあがった顔を伏せて涙ぐみ、軽蔑され叱責されるのに身がまえたのが、父が切りだす直前「ふははははは!」と高らかな笑いが耳を打った。

男どもが騒然となり、父も「なんだと!」と地団駄を踏むように床を鳴らす。見上げると、むせび泣いていた菖くんが、奥歯まで覗かせ笑っていた。

だらしなく舌を垂らして腰を揺すり、逆にザンカイノミコト役を喘がせながら、哄笑しつづける。別人のような野太い濁声で。

「やあやあ、憎たらしき愚昧な神主よ!お主、父のくせに何も分かっておらぬな!こやつは、私を犯したいのではない!

私が呪いをかけるまでもなく、その愚息は、神主の血筋のほうこそ断とうとしとるいうに!いや、愚息ではないな!身命を賭して祖先の汚物まみれの尻拭いをする、涙ぐましい最期の末裔ではないか!勇猛なるザンカイノミコトのようにな!」

「まだ憑依させていないはずが!」「どうする!?これでは・・・!」と右往左往するのに、手を叩いてみせ「口を閉じさせなさい」と命じる父。頬を打たれたように、我に返った顔つきをして、ザンカイノミコト役は剝きだしにした一物を、ゾウネツが憑依した体に叩きこみ、衣装を肌蹴た男どもが(ゾウネツ役以外)まぐわう二人に混ざっていく。

「はあ、ああ、やあん、はあ、は、ははははは!は、あん、ああ、やあ、あ、は、ははは!」と泣く菖くんと笑うゾウネツの喘ぎが、目まぐるしく交互する。怪奇現象を抜きにしても、青痣がある少年が輪姦されるさまは惨たらしかったが、俺は目を背けず、どうしてか平静でいて「父さん、もうやめよう」と呟いた。

「伝承を改ざんして捏造をすれば、罪を隠すことができる。ただ、消せるわけじゃなく、子孫にツケを回しているだけで、きりがない。いや、こうして村の人を巻きこみつづけることで、罪を深めている」

激するでなく、責めるでもなく、なだめるように「限界にきたんだ」と語りかければ、父は固い表情をしつつ、怒らせていた肩を落とした。いつの間にか、男どもも聞き入って、物音を立てずに俺たちを見守っている。やおら見返して「心当たりがある呪いを受けなければ、終わらせることはできない」と切切と伝えた。

「俺が終わらせる」

一人一人を見やって、最後に菖くんと目を合わせる。口角を吊り上げながら、焦点のあっていない目をしているからに、二人の自我がせめぎ合っているのだろう。声高に呼びつけたいところ、一呼吸して肩の力を抜いてから「なあ、菖くん」と語りかける。

「俺を哀れに思うなら、弟を呪うふりをするのをやめてくれ」

「本当に呪われる俺の身になれよ」と苦笑してみせれば、瞬きをして片目から涙を滴らせた。笑みを引っこめ、口を利こうとした間もなく、憑き物が落ちたかのように、がくりとうな垂れ、倒れこんでしまった。



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