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こじらせた男装男子
しおりを挟む俺の幼馴染は五才のときに「僕は女の子だ!」と宣言。早すぎるカミングアウトだったのと「そうだったのか!父さんの目は節穴だったよ!」「生み方が変だったのかしら!ごめんね!」とユニークな親だったことから、宣言したその日を境に、幼馴染は女の子になった。
といって、手術をするでなく、一人称は「僕」のまま、極端にふるまいや口調を変えることはなく。もとの容姿を活かし、さりげないよう女らしさを取りいれ、まだ、さほど男女差がない時期には、違和感なく「お転婆な女子」と見なされたもので。
といって、とくに女顔だったり、中性的ではなかったから、思春期に差しかかると、体つきや顔つきが男らしくなり、また学校でどちらの扱いにするか?など、もろもろの問題が浮上。まあ、なにせカミングアウトが早く、親や周りが認識、対応するのに時間をかけられたとあり、そうトラブルや揉め事は起こらず。
五才から女子をやっていれば、すっかり板について、多少、見た目に難があろうと「逞しい女子だな」と知らない人は、気づかない。事情を知る人にしろ、同じ見方をして「おかま」「おかま」と囃したてたり、いじめたりはしなかった。
そんなこんなで、ついてないものがついていようと、本人は女子になりきって、周りの理解も得られて、すくすくと育ち高校生に。平均身長を上回る背丈になり、いよいよ見てくれが厳つくなってきたものを、周りは「女装男子」扱いせず「このゴリラ女あ!」とあくまで女子扱いして冷やかすのだから、相変わらず、環境に恵まれていたもので。
大体「女装男子」ではなく「男装女子」だったが。いや「男装男子」なのか。
高校生になってから、たまに幼馴染は男装するように。いや、もとが男とはいえ、五才から女子になって十年目にして男の格好をすると宝塚感がする。
男装するのは、俺と町にでかけるとき。男の俺から見ても、十分にかっこいいが、辺りにいる女性たちの心を鷲掴みにする男装の麗人っぷりたるや。
そりゃあ、たびたび、年下から大人の女の人まで声をかけられる。写真を断りつつも、握手に応じれば、黄色い悲鳴が上がるばかり。
また一人、絶叫して跳びあがらせたのを見送り、タピオカをすすってから「モテモテだなあ」と呟くと、ちらりと見て「まあね」とそっぽを向く。不服そうなのに首をかしげつつ「そういえば、あらためて聞くけど」とストローから口を放した。
「どうして、男装しだしたんだ?」
「お前の部屋で、男同士がまぐわう雑誌を見つけたから」
間髪入れない返しに、タピオカを噴きそうに。寸でで耐えて、飲みこむも「だからって、どうして男装?」とすぐには腑に落ちず。と思いきや、急にぴんときて「まさか・・・!」と。
「だから、小さいころ女子になる宣言したのか!?」
「は!?いい気になるなよ!ばあっか!」と罵声を浴びせて、タピオカ片手に去っていったものの、結局、否定はしなかったし、涙目で、うなじと耳を真っ赤にしては的中だろう。「俺のために、そんな幼いころから・・・」と胸きゅんポイントのはずが、長くため息を吐いてうな垂れる。
幼馴染に思い慕われるのは満更でもない。が、今、俺には、お互い意識しあう相手がいる。となれば、五才から性別まで変えて、俺を振りむかせようとした一途も一途な幼馴染が、荷の重い存在になってくる。
十年越しの幼馴染の献身に報いるべきなのか。義務として応えるのが、果たして、本当に幼馴染のためなのか。
喉をからからにしつつ、タピオカを吸引する気になれないで、ストローを咥えて、むしろ泡を立てた。現実は小説より奇なりというが、小説のように、きれいさっぱり伏線回収はできないものだ。
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