上 下
28 / 30

こじらせた男装男子

しおりを挟む



俺の幼馴染は五才のときに「僕は女の子だ!」と宣言。早すぎるカミングアウトだったのと「そうだったのか!父さんの目は節穴だったよ!」「生み方が変だったのかしら!ごめんね!」とユニークな親だったことから、宣言したその日を境に、幼馴染は女の子になった。

といって、手術をするでなく、一人称は「僕」のまま、極端にふるまいや口調を変えることはなく。もとの容姿を活かし、さりげないよう女らしさを取りいれ、まだ、さほど男女差がない時期には、違和感なく「お転婆な女子」と見なされたもので。

といって、とくに女顔だったり、中性的ではなかったから、思春期に差しかかると、体つきや顔つきが男らしくなり、また学校でどちらの扱いにするか?など、もろもろの問題が浮上。まあ、なにせカミングアウトが早く、親や周りが認識、対応するのに時間をかけられたとあり、そうトラブルや揉め事は起こらず。

五才から女子をやっていれば、すっかり板について、多少、見た目に難があろうと「逞しい女子だな」と知らない人は、気づかない。事情を知る人にしろ、同じ見方をして「おかま」「おかま」と囃したてたり、いじめたりはしなかった。

そんなこんなで、ついてないものがついていようと、本人は女子になりきって、周りの理解も得られて、すくすくと育ち高校生に。平均身長を上回る背丈になり、いよいよ見てくれが厳つくなってきたものを、周りは「女装男子」扱いせず「このゴリラ女あ!」とあくまで女子扱いして冷やかすのだから、相変わらず、環境に恵まれていたもので。

大体「女装男子」ではなく「男装女子」だったが。いや「男装男子」なのか。

高校生になってから、たまに幼馴染は男装するように。いや、もとが男とはいえ、五才から女子になって十年目にして男の格好をすると宝塚感がする。

男装するのは、俺と町にでかけるとき。男の俺から見ても、十分にかっこいいが、辺りにいる女性たちの心を鷲掴みにする男装の麗人っぷりたるや。

そりゃあ、たびたび、年下から大人の女の人まで声をかけられる。写真を断りつつも、握手に応じれば、黄色い悲鳴が上がるばかり。

また一人、絶叫して跳びあがらせたのを見送り、タピオカをすすってから「モテモテだなあ」と呟くと、ちらりと見て「まあね」とそっぽを向く。不服そうなのに首をかしげつつ「そういえば、あらためて聞くけど」とストローから口を放した。

「どうして、男装しだしたんだ?」

「お前の部屋で、男同士がまぐわう雑誌を見つけたから」

間髪入れない返しに、タピオカを噴きそうに。寸でで耐えて、飲みこむも「だからって、どうして男装?」とすぐには腑に落ちず。と思いきや、急にぴんときて「まさか・・・!」と。

「だから、小さいころ女子になる宣言したのか!?」

「は!?いい気になるなよ!ばあっか!」と罵声を浴びせて、タピオカ片手に去っていったものの、結局、否定はしなかったし、涙目で、うなじと耳を真っ赤にしては的中だろう。「俺のために、そんな幼いころから・・・」と胸きゅんポイントのはずが、長くため息を吐いてうな垂れる。

幼馴染に思い慕われるのは満更でもない。が、今、俺には、お互い意識しあう相手がいる。となれば、五才から性別まで変えて、俺を振りむかせようとした一途も一途な幼馴染が、荷の重い存在になってくる。

十年越しの幼馴染の献身に報いるべきなのか。義務として応えるのが、果たして、本当に幼馴染のためなのか。

喉をからからにしつつ、タピオカを吸引する気になれないで、ストローを咥えて、むしろ泡を立てた。現実は小説より奇なりというが、小説のように、きれいさっぱり伏線回収はできないものだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル

こじらせた処女
BL
 とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。 若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?

怖い話がダメな子が無理やり怪談を聞かされて、夜上手く眠れなくなる話

こじらせた処女
BL
大学で無理やり聞かされた怪談話のせいで、夜怖い夢を見ておねしょしちゃう話

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

孤独な戦い(6)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

ユーチューバーの家でトイレを借りようとしたら迷惑リスナーに間違えられて…?

こじらせた処女
BL
大学生になり下宿を始めた晴翔(はると)は、近くを散策しているうちに道に迷ってしまう。そんな中、トイレに行きたくなってしまうけれど、近くに公衆トイレは無い。切羽詰まった状態になってしまった彼は、たまたま目についた家にトイレを借りようとインターホンを押したが、そこはとあるユーチューバーの家だった。迷惑リスナーに間違えられてしまった彼は…?

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

孤独な戦い(8b)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

処理中です...