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俺がいなくなって破滅すればいい

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アイドルになりたくてなったわけではない。家が貧乏で、家計を助けたく、でも、小学生ではまともに働けないから「見てくれは、すこし人よりいいしな」と大手アイドル事務所に履歴書を送り、オーディションに呼ばれて合格。

アイドルの常套句的ベタなエピソードだが、あいにく俺はガチリアル。とあって、稼ぐだけ稼いで、就職できる年になったら、辞めようと思っていたのが「まあ、所詮、アイドルだし。そう気張らないで」と講師に笑いかけられ「はあ?」と頬をひきつらせた。

大手のアイドル事務所ながら「日本のアイドルは、隙があって、すこし舐められるくらいがいい」と講師は寝言をほざくし、仕事にいけば実際、周りは「まあ、アイドルだから、適当にこんなもんで」と露骨にあなどった態度をとる。おかげでアイドルのほうも、世の中を舐めてしまう。

アイドルになりたくてなったわけではないのなら、汗水垂らして労力をかけずとも稼げて「ラッキー」と思うだろうところ。昔から家が貧乏なことで、不当な目に合ってきた俺は、反骨精神にあふれていたものだから「見下されない、心から敬われるアイドルになってやる!」と奮起。

講師が引くほどレッスンに打ちこみ、ダンス歌を教えられた以上の高クオリティに仕上げ、仕事でも求められる以上の意気で臨んで、制作側が持て余すほどの活躍をしてみせた。一方で「手を抜いたって大丈夫だし、ミスしても咎められないし」とすっかり根性が腐ったアイドル仲間のケツを叩くのも忘れず。「この足手まといが!」としょちゅう噛みつき「目障りだから失せろ!」と喧嘩を売りまくって「なにおう!」と闘争心を引きだしてやったもので。

といっても、アイドル見習いの所詮は中学生だから、いくら地団太を踏もうと「所詮、アイドル」との世の土壌は盤石で、ほんのひびも入らない。「俺一人暴れても無駄だ」と限界を覚えたころ「いいじゃなあい!これまでのアイドルのイメージを粉砕できる力が、チミにはあるよお!」と事務所社長の目にとまって、俺を中心に据えたグループ「スペシャリスト」が結成、デビューすることに。

名の通り、歌やダンスを極めたパフォーマンスをする、本格派のアイドルグループ。「脱・所詮アイドル」を目標に掲げ、プロのアーティストやダンサーと同等のスペシャリストになることを目指す。

そのため集められたメンバーは、もともと、歌やダンスのレベルが高いし「アイドルの新時代を築いてやる!」との意気込みも十二分。やっと俺と足並みを揃えられる気高き同志に巡りあえ「これで、所詮アイドルと鼻で笑う世の中を変えられる!」と満を持して芸能界に殴りこんだ。の、だが。

「所詮アイドル」との偏見と冷笑に、俺は長年一人で耐え、踏んばっていたのが、その現実を突きつけられ仲間は早々、心をぽっきり。思ったより、世間が歓迎してくれず「アイドルがいくら頑張ったって(笑)」と白い目を向けたこともあり「あー、もっとふつーのグループに入りたかったあ」と愚痴る始末。

いくら発破をかけても、意気消沈した仲間はろくにレッスンをしなければ、ライブや仕事でもだらけっぱなし。おかげで評判はダダ下がりで、孤軍奮闘する俺は空回りしっぱなし。「リーダーの素質がないのでは?」と不当に評価もされるし。

それでも「俺がぶれずに励めば、仲間の心に響くはず」と自分に聞かせて、一年忍耐したのだが「いくら頑張ったって馬鹿を見るだけだぞ?」とせせら笑われたのに「もう辞めてやらあ!」とぶん殴ってしまい。楽屋を跳びだすと「待って!待ってください!」と泣きながら、追いかけてきたのはマネージャー。

今や社長さえ「チミを買いかぶったかなあ」と見限っているのを「一緒に世の中をひっくり返しましょう!」と志を同じくし、仕事をサポート、ケアして、温度差がある仲間と「まあまあ」ととりなしてくれたりと、どこまでも尽くす俺の信奉者といっていい。信仰が過ぎるせいか、マネージャーながら、俺が寄ると、いちいち顔を真っ赤にかちこちになるので、尚のこと愛らしく、何回か口づけしたことがある。

数少ない支持者であり、キスもした仲とあっては「俺、あなたに辞められたら、生きていけません!」とすがられて、そりゃあ、心が揺らいだ。が、一年の献身的努力があまりに報われず、多少、人間不信になっていたので「どうせ、口だけだろ!」と突きとばして全力疾走。それから二度と事務所の敷居をまたぐことはなかった。

内情は泥沼だったものを、なんだかんだ表向きは、そこそこ知名度も人気があったから「スペシャリストメンバーが突然の退所!」と世間は大騒ぎ。なにせ、社長の肝いりの俺ありきなグループだったから、絶対的中心人物が抜ければ、成り立たない。

残された無能なメンバーはおろおろするばかりで、仕事もライブもままならず。「結局、一人で持っていたグループだったんだな」「一人でなんとか形にしていたのは、すごいな」と再評価されて「どうかもどってくれ!」と土下座されるも、俺は聞く耳持たず。

スペシャリストは解散に追いこまれ「彼が抜けたのは、お前らのせいだ!」「どうして、引きとめなかった!」と責められたメンバーも退所を余儀なくされ、芸能界からも追放。「どうして才能を伸ばし活かさなかった」と同罪扱いの事務所共々、破滅の一途をたどった。なんてことには、ならなかった。

俺が脱退し、すぐに「五歳児でも真似て歌い踊れるパフォーマンスができる、老若男女、国民的に愛されるアイドル」と真逆のような路線変更。第一弾として「ウンコ三兄弟」を世にお披露目し、まんまと爆発的国民的人気を獲得。これをきっかけに、ドラマ、映画、舞台、バラエティでメンバーは幅広く活躍し、さらに国民の支持を得て、スペシャリストは順風満帆に活動中。

「お前がいないと、だめだ!」と泣きついてくるどころか「結局のところ、誰が足を引っ張っていたんだろうなあ?」と嘲笑うように意気揚々としやがって。「なにかの間違いだ」「事務所とメンバーの陰謀だ」ととても現状を受け入れられず、ひそかにマネージャーと接触しようとした。

事務所の後輩を脅し、変装して成り代わって、スペシャリストのバックダンサーとしてテレビ局に侵入。人気のない廊下でマネージャーを見かけ、声をかけようとしたら、ドアからでてきたメンバーとキス。

絶句して、頬に涙を滴らせながら「俺がいないと、生きていけないと云っていたじゃないか」と鞄から、きらめく刃物を取りだした。マネージャーと心中するつもりだったのを予定変更して、包丁を振りかざし、いちゃいちゃする二人のもとへ。

俺がいなくなったら、皆、破滅すべきなのだ。破滅してくれないのなら、俺がこの手で。


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