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しおりを挟む「この前、ゆかりおにぎりを、くれたから」ともらった、小山のもぐもぐタイム用、魚肉ソーセージを食べながら、調整用のプールサイドに座っていた。
ちょうど一本、口内におさめたところで、水しぶきをあげて、ゴジラならぬ小山が登場した。
「今日も精がでるな」ともう一本、剥こうとしたところで、息を切らしながら、睨まれる。
「世界大会まで、まだある。
俺は諦めていない」
合同練習試合で溺れて以来、すっかり小山はカナヅチに戻ってしまった。
「詐欺!」「裏切られた!」と期待値を上げまくっていた他校生から、クレームされるかと思ったが、なんだかんだ、ミカケダオシカナヅチは、彼らにも愛されているから、「そっとしておこう」とその痛ましさに同情してくれたらしい。
まあ、今の豪語ぶりからして、本人は傷心と無縁なのだが。
我が水泳部は元々、気長に見ているし、シューゾーにしろ「ぬか喜びさせるな!」と怒りはしないで、「まだまだ、これからだな!」と奮起して、新たな特訓メニューを、考えてくれているとのこと。
「クララが立った!」とばかり浮き足立ちはしたものの、小山が学校のプールに戻ってきて、懲りずに溺れつづける日常風景を、また見られるようになり、部員は安心感を覚えているようだ。
俺もまた、その一人だった。
たった二週間、されど二週間。
居残りをしなかった間、埋めようのない、欠落感を覚えていたので、小山が戻ってきたなら、部活終わり、早速、調整用のプールサイドに居座った。
パンツが消えなくなった、今も。
「そもそも、どうして、パンツを消すようになったんだっけ?」と根本の疑問が未解決なままなのに、今更、気づいて「そういえば」と切りだす。
小山がまた、溺れにいく前に。
「お前、『あんたが、あんなこと言うから』とか、前にこぼしたよな。
ずっと気になっていたんだけど、どういう意味?」
案の定、「今更?」とばかり顔をしかめられたが、十五分ほど繰りかえし溺れつづけて、息が上がっていたこともり、水中リターンせず、プールサイドに寄ってきた。
競泳用の帽子を外し、髪をかきあげる。
「本当、水中でなければ、イアン・○ープ並みの、水も滴るいい男なのにな」と見惚れるような、凛々しい横顔をして「水泳部に入って間もないころだった」と語りだした。
「あんたと部員が、話しているのを聞いた。
『ありゃ、すごい見かけ倒しだな』『あの体でカナヅチって逆に天才だな』ってな。
あんたは、話に混じっていなかったが、こう聞かれたんだ。
『でも、泳げるようになったら、一気に化けるんじゃないか』『もしかしたら、お前より、先にメダルをとるかもしれないぞ』『そしたら、お前はどうする?』。
で、あんたは応えた。
『そうなったら、あいつの言うこと、なんでも聞いてやるよ』」
魚肉ソーセージに齧りつきながら、「で?だから?」と待っていたものの、小山は口を閉ざしたままでいて、そのうち、おもむろに振り向いた。
熱のこもった視線を注がれることしばし、魚肉ソーセージを飲みこんだなら「はあ?」と頬をひきつらせる。
「なに、お前、俺になんか、させたいの」
「ほんと、あんた馬鹿だな。
色々あったというのに」
「馬鹿はお前だろ。
人のパンツを消してまで、したがることなんて、思いつくわけない」
返そうとしてとどまり、見よがしにうな垂れ、ため息を吐いてみせた。
「ああ?」と喧嘩腰に声を荒げるも、「まあ、いい」とこちらを見ないまま、スタート地点へと戻っていく。
「俺が先にメダルを取ればいい話だ」
ぶれない、強気なコメントを残して、プールにもぐって蹴り、またまた溺れにいった。
水面越しのシルエットを見つめつつ、ため息を吐いて、三角座りの足に、火照る顔を埋める。
先は「思いつくわけがない」と訴えたものを、今になって、保健室の一件を思い起こしたのだ。
でもって、「つづきを望むなら、別に、先にメダルを取らなくても」と思ってしまい。
金メダルを獲得して、名実ともに、小山が「和製イアン・○ープ」と国中で祭り上げられるのが先か。
つるぺたなおちびちゃんが「圧倒的体格差がある外国人選手に、ジャイアンとキリングした!」と国中を湧かせるのが先か。
いや、俺のよこしまな思いが、気取られるのが先か。
結構、いい勝負なのかもしれない。
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