俺のパンツが消えた

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
14 / 17

しおりを挟む




パンツが消されて「おっしゃ!」と張り切る俺は、パンツを被って襲ってくる小山に劣らず、変態なのではないか。

「んなわけ、あるか」と自分にツッコミつつ、調整用のプールの水面を見るともなく見ていた。

小山が学校のプールにこなくなってから、十日。

もちろん今日も、目の前で溺れてはいない。
と知りつつも、三日前から、前のように部活終わり、プールサイドに三角座りをして、ぼんやりとしている。

どこぞに雲隠れした、先祖の魚の尻尾をつかめないまま、水中でみっともなく、もがくのは相変わらず。

学校のプールにこないどころか、登校をしているはずが、俺に会いにこないのも相変わらず。

避けられているのか、ばったり、でくわすことがないのも相変わらず。

先方が、アプローチしてくるのが筋だろうと、今や意地もへったくれもなかった。
そのくせ、俺から声をかけにはいかない。

「安心しろ。もうパンツを消さないから」と引導を渡されたくなかったから。

「パンツを消されないのを望まない俺とは、なんなんだ」と埒なく考えていたら、どよめきが耳についた。

プールの水が抜けるのを待つ掃除当番が、大方、ふざけているのだろう。
と、見向きもしなかったのが、少しして視界が影がかり、顔を上げれば、キングコングならぬ、小山が佇んでいた。

思いがけなさ過ぎる来訪に、声を失いつつ、横目に見たところ、掃除当番らが、そそくさとプールを後にしている。

人払いしたようなのに、正直、ほっとしながらも、そっぽを向いた。

「帰るぞ」と先より、声が近くからするに、屈んだらしい。

接近に動悸を早めたとはいえ、頑なに身動きしないでいたら、生唾を飲みこむ音がして、告げられたことには。

「あいつなんかに、負けないでくれ」

「あいつ」とは藤子だろう。

やはり、小山の耳にも入っていたのか。
前に気になっていのが、今更とはいえ、判明して、すっきりした一方で、新たな疑問が浮かんでくる。

何故、負けてほしくないのか。

いや、小山は藤子に興味がないものと見なす前提が、間違っているのだ。
所詮、小山も、下半身の都合で情緒的になる猿共と変わりはしない。

「はっ!お前も藤子のことが好きってか!」

先まで寂しさに打ちひしがれていたのが嘘のように、激昂して吠え立てた。

プールには俺ら以外、誰もいなかったが、小山に対してだけでなく、憶測から、人を散々、踏みにじってきた妬みそねみ野朗共にも届くよう、「ふははは!」と高笑いをする。

「残念だったな!
藤子には、一途に思いつづける彼女がいるんだよ!

この前、告白のようなことをしたのは、喧嘩しての、当てつけだったって、本人が教えてくれたし、謝ってもくれた!
今は仲直りして、ラブラブだと!」

「ちなみに、藤子は男じゃ勃たないんだってよ!さまあみろ!」ととどめに、プールに小波がたちそうに絶叫すれば、思わずというように、屈んでいた小山が、上体をあげた。

目を見開いているとはいえ、恋心を木っ端微塵にされた割に、傷心しているように見えない。
むしろ。

長く動向がなく、「やば、藤子に怒られる」と我に返って、慌てだしたころになって、「ぶっ」と噴出された。

すぐに口元を手で覆ったものの、笑っているのは明らかで、それこそ、とどめとばかり、パンツを頭に被りもした。

「ざまあみろって、あんた・・・」

パンツを被りながら、笑いをこもらせ、小刻みに肩を跳ねつづけるビックフット。
ならぬ小山。

「懲りないな!お前!」と立ち上がるついでに、顎に頭突きでもかましてやるべきところ、脱臼しそうに、肩の力が抜けきった俺は、安堵したのを否定する意気もなく、ただただ呆けていた。

そうして訳が分からないまま。
謎だらけのビックフットの生態ならぬ、小山の思考が解明できないまま。

パンツを返してもらい、爆走自転車で駅まで送ってもらい、なんだか、一件落着をしてしまい。

翌日、先祖の魚の魂が再び宿った体は、まさに水を得た魚のような泳ぎをしてみせ、非公式ながら、新記録を叩きだした。

突然の復活劇以降、パンツが消えなくても、その調子を維持できて、藤子の件で八つ当たりをされることもなくなった。

俺にその気がないと分かったから、というより、印籠のように好記録を振りかざされたら、同じ水泳選手として、文句をつけられない、といったところか。

太田曰く「俺をだしに使って、あいつを叩くな」とどこぞのスカイツリーが釘を刺したらしいので、そのおかげかもしれない。

当のスカイツリーの、好調ぶりも変わらず。
合同練習試合の前日になって、半ば溺れつつ、足をつかないで、ついに五十メートル泳ぎきることができた。

シューゾーからの知らせを受け、「クララが立った!立った!」とばかり、我が水泳部はやんややんやと喝采し、そのまま活気づいて合同練習試合に臨んだ。

「ミカケダオシカナヅチがついに!」と触れ回らずとも、あっという間に他校にも知れ渡り、気がつけば、小山が泳ぐことが、お披露目会とばかり、一大イベントのような扱いにされてしまっていた。

お披露目といっても、試合には出場せず、合同練習に混ざるだけなのだが、いつもサポートに回っている小山を見ていた人にしたら、感慨深いのだろう。

日本代表選手のような、文句なしの肉体美を誇りながら、水に足の指先もつけられず、指をくわえて、プールを見つめるしかできなかった背中が、さぞ哀れを誘っただろうから。

いよいよ練習がはじまり、一定間隔に笛の音が鳴るのに合わせ、入り混じった、それぞれの学校の部員が、プールに飛びこみ、泳いでいった。

一応、監督やコーチがいる手前、どんちゃん騒ぎはしなかったものを、小山が飛びこみ台に上ると、皆が皆、固唾を飲んで注視し、一斉にカメラを向けた。

別練習メニューの俺のグループは、プールサイドでストレッチをしていて、「うわ、飛びこみ台に立つ姿、もう日本代表じゃん」と太田が屈伸をしながら、苦笑したものだ。

そう、小山は佇むさまだけではなく、飛びこむ跳躍が百点満点なら、フォームも美しく、さまになっている。

が、着水後に起こったそれを、目の当たりにしたことがある我が水泳部は、太田のように、斜にかまえていたものの、他校生は胸を高鳴らせるまま、期待に満ち満ちた眼差しを向けていた。

笛の音が鳴り、満を持したように、イアン・○ープの再来とまで、称えられた飛びこみでもって、施設内にどよめきを起して。

さほど、水しぶきを上げず、水音も立てず、吸いこまれるようにプールに潜りこんだ小山は、中々、浮かんでこなかった。
潜水泳法をしているでもない。

飛びこんだ、その底にとどまっているのが、波たつ水面越しに、いつまでも、ゆらゆらとアメーバのように見えていたもので。




しおりを挟む
アルファポリスで公開していないアダルトなBL小説を電子書籍で販売中。
ブログで小説の紹介と試し読みを公開中↓
https://ci-en.dlsite.com/creator/12061
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!

かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。 幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る Dom/Subユニバースボーイズラブです。 初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。 Dom/Subユニバースの用語説明なしです。

【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-

悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。 「たまに会う」から「気になる」 「気になる」から「好き?」から……。  成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。  楽しんで頂けますように♡

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

処理中です...