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⑫
しおりを挟む明らかに、うろたえてみせたものを、眉をしかめる小山の、手をとどめることはできた。
ただ、気を逸らすためとは、勘付かなかったのか。
勘付いたとしても、その内容が聞き捨てならなかったらしく、「器用貧乏ってわけじゃないが」と語りだす。
「たまたま、近くに泳げる施設や、川、海がなかったし、小学校にプールもなかったから、中学三年になるまで、泳いだことがなかった。
で、あるとき、テレビを見ていたら、お前が写って。
俺より小さくて華奢なお前が、ぶっちぎりで優勝をした」
脇腹にある手を、どう退かせるか。
と、考えるのに頭を割いて、話半分に聞く。
「へえ」と興味深そうに反応するのを忘れないで。
「テレビにでたのが、隣町の中学の奴って分かって、クラスで騒がれた。
そのとき、友達にけしかけられた。
あんなチビが、あれだけ早く泳げるんだから、巨神兵のお前が泳いだら、もっとやばいんじゃないかって。
おだてられて、乗ったのもあるが、そういや、これまで一度も泳いだことがなかったなって、思ったからな。
結構、わくわくしながら、泳いでみたら、浮いてこれなくて、監視員に救出されたってわけだ。
友達十人が、それを見ていたから、翌日には早速、クラスで笑い者になった。
恥ずかしいとか、傷ついたというよりは、『こいつら、ずっと俺を誉めながら、けなしたくてしかたなかったんだな』って呆れたし、いっそ、せいせいとした。
ただ、好きだった女子に『ださい』って白い目で見られたのは、堪えた。
おまけに、『小さくても、早く泳げる尚樹くんのほうが、かっこいい』なんて笑われて、それで」
「へえ」「そう」と上っ面に肯いていたのが、最後になって「はあ!?」と目をかっ開いた。
黒歴史的な過去を語っていた小山にすれば、予想外の反応だったようで、びくりとして、やや上体を退かせる。
その隙に、暴れようとしたが、すかさず、また前のめって押さえつけられたので、代わりに自由の利く口で、「ふざけんなよ!」とぶちかましてやった。
「あれだけ、溺れてても頑張っているからには、よほどのトラウマがあるか、水泳に思い入れがあるのかと思ったら!
ああ?女かよ!
所詮お前も、そこらの男子と変わらず、盛りのついた犬か!
すこしでも見直して、損しただろうが、阿呆!
なんだ、女だ!?
女のために頑張ってんのかよ!
この所詮、ちんこ思考野郎が!」
なんだかんだ、パンツが消えてから、ずっと溜めこんでいたのが、今になって、噴出したらしい。
それにしたって、何が引き金になったのか、自分でもよく分からなかったが、とにかく、際限なく「女って!」と罵倒が口から跳びだしてくる。
子供が癇癪を起したようなのに、「いや、最後まで、話を・・・」とさすがのスーパーマイベース小山も、困り顔になっている。
が、そのうち、脇腹に当てていた手で、口を塞ごうとしてきて、気づいた俺は、喉を破裂させんばかりに、怒鳴りつけた。
「パンツを消したのも、女のためだってか!
なんて、つまんない奴!」
怒鳴った傍からはっとして、腰を跳ねる。
「あ、パンツを被っている」とそのさまを目にした間もなく、手ではなく、口で口を塞がれた。
驚きつつも、すぐに放れたのに、俄然、抗議しようとしたのを、再度、かぶりつくように口付けされ、舌を入れられた。
手足が拘束されているといって、抗わないわけがなく、侵入してきたのを噛もうとしたが、予想以上に舌が肉厚で大きく、実質、歯が立たなかった。
比べて、俺のほうが顔が小さいこともあり、隙間なく口内を舌で埋め尽くされる。
逃げようのない舌をもみくちゃにされ、狭苦しそうに蠢いて、絶えず口内の表面が擦られ、そのたび、こもった水音が立つのに、背筋を震わせた。
息が絶え絶えになれば、舌を退けてくれたとはいえ、口内からは、でていってくれず、舌先で唇の内側を舐めてくる。舌先に噛みつくも、跳ね返され、またもや、口の奥まで捻じこまれ犯される。
抜きそうで抜かないで突っこんでを繰り返され、さっき「女」「女」と喚いていたせいもあってか、口付けを挿入のように錯覚する。
「舌と同じように、下も大きいのかな」とつい考え、「阿呆か俺!」と自分を叱咤したも遅く、体を火照らせ「ふ、あ・・・」と喘ぎを漏らした。
聞き逃してはくれなかったようで、口内の舌が止まる。が、攻勢をかけてはこないで、舌を抜いて、頬に口付けた。
俺の喘ぎに、むしろ頭が冷えたかと思い、一息つこうとしたところで、股間に足をすり寄せられた。
思いがけなかっせいと、布が薄い体操着の短パン、しかもノーパン越しに、固い大髄四頭筋で擦られては堪らず、「あっ、はあ・・・!」と鳴き悶える。
故意に、股間に足を押しつけ擦り上げられたことはないし、ノーパン越しに扱かれるなんて、未知の感覚だ。
まるで体の制御ができないで、歯を食いしばりもできず、「あ、は、あっ、くっ、う・・・は、ああ!」と突き上げてくる快感に、鳴かされるまま、だらだらと涎を垂らしてまう。
ノーパンの股間をいたぶられながら、耳をしゃぶられ、首を舐め上げられ、シャツに浮きでたそれを食まれて、ひたすら、あんあんと善がる。
「俺は小山の好きな女子ではないのに」と泣きつつ、腰を揺らしたら、股間から足が退いた。
「小山!」とすがるように声を上げるも、体を下にずらして、さらに遠のく。
それに合わせて、舌を胸から腹に滑らせ、しばし、へそをえぐるように舌先を捻じこんだ。
「あ、ああ、や、あ、ん!」と甘い痺れを覚えつつ、物足りなくて、腰をくねらせる。
「こ、やま、あ・・・!」と切羽詰って呼びかければ、へそから舌を抜き、同時に膝の裏を持って、もう片方の足も持ち上げ、開脚をさせた。
へそから滑っていった舌が、短パンのウェスト部分に至って、生唾を飲み込んだものを、ゴムをずらすことなく、布の上を通過していく。
落胆したのもつかの間、「ちょ、あ、だ・・・・!」と背中をしならせて、股間のほうに顔を向けた。
膨らみに届くか届かないのところで、舌を止めた小山と視線がかち合う。
足の間から、パンツを被った顔を覗かせるさまは、滑稽というか、おぞましかったが、てらてらと濡れる肉厚の舌を目にしたなら、どうしようもなく、固くなったのが打ち震える。
「いや、ノーパンしゃぶしゃぶじゃなくて!」と頭を振って、垂れそうになった涎を飲み、口を開けようとしたとき。「せんせー!頭いたーい!」と扉が開く音と、喚きが耳を打った。
カーテンを閉めてあったので、真っ先に発見されることはなかった。
とはいえ、「せんせー?」と室内を歩き回りだしたようとなれば、時間の問題だったが、泡を吹きそな俺が使い物にならない一方で、小山はしれっとしたもので、まず、めくれたシャツを直して、パンツを脱ぎ、枕元に置いた。
そして、かちこちに固まった俺を抱きしめるようにして、手首を縛っていたネクタイをほどくと、上体を起こす前に「ベッドの端に体を寄せろ」と囁いてきた。
ネクタイを首にかけて早々に、ベッドから立ち上がって、カーテンを開ける。
慌てて起き上がり、体育座りして縮こまれば、「おー、悪い。起してしまったかあ」と相手からは見えなかったようで、「平気。それより、どうした?」と何気ないように小山が応じて、カーテンを閉めてくれたおかげで、覗きこまれることもなかった。
「頭痛がひどくって、授業どころじゃなくってさ。
すこし、寝させてくれねえかなって」
「あー、そりゃ、タイミング悪かったな。
怪我した奴に病院まで付き添うってんで、俺に鍵を預けて、さっき、行ってしまったんだ。
ベッドを直したら、鍵かけて、扉にかけてあるやつを、『保険医不在中』にひっくり返しといてくれって、言われてさ。
今、でてくところ」
「マジ?どーしよー。
倒れるってほどじゃないけど、机で大人しく座ってられないくらいの、頭痛なんだよ」
「俺、頭痛薬持ってるから、分けてやるよ。
それ飲んで、しばらく、静かなところにいたらどうだ?」
「いいのか?ラッキー!
じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ!」
つい先まで、パンツを被って人の股間に顔を埋めていた奴とは思えないほど、そつなく応対して、まんまと相手を口車に乗せてみせた。
いや、丸々、ほらを吹いたわけではないらしく、鍵が閉まる音がしたからに、保険医に指示されたのは事実なのだろう。
それでいて、指示にすぐに従わず、「先生が戻ってくるまで、寝てていいだろう」と居座っていたに違いない。
相手に薬を渡したら、戻ってくるだろうか。
まさか、先のつづきをするとは思えないが、一応、保険医に鍵を託された以上、確認しにくるかもしれない。
そのときに、顔を合わせたくなかった。
ノーパンしゃぶしゃぶをされる前に、伝えたいことがあったように思うものを、今となっては、ただただ羞恥心を掻きたてられ、消入りたくあるだけだ。
早く保健室を後にしたいならば、固さを保っているのを、処理しないといけない。
中々、萎えそうにないし。
いくら授業中で、辺りに人気がないといって、短パンで膨らせたまま、外をほっつき歩く勇気もないし。
ズボンを下ろし、申し訳なくも、ティッシュを拝借して、尻の下に敷く。
普段から、お盛んなほうでなく、これといった鉄板のおかずがなかったものを、どうにか、作業的に扱いて済まそうとした。
が、気がつけば、ずらした短パンをはき直し、その上から揉みこんでいた。
そう経たずに「あ、や、そん、あ、ああ、舐め、んあ、こ、やま、あ、あん、ああっ!」と果てる始末で、ますます顔向けできなくなった俺は、その日、部活を休んだ。
藤子の件について、問いつめられたり、糾弾されるのから、逃げたものと、周りからは見られ、物笑いの種にされただろうが、おかげで、急に休んだのを、勘ぐられもしないから、むしろ、助かった。
ただ、藤子の件を、そう引きずることはできない。
そう、いつかは、再会しなればならない。そのときパンツを消されて、「堂々過ぎるパンツ泥棒め!」となんだかんだ、どこか遊んでいたようなのを、継続できるか、心配でならなかった。
下手したら、微妙に均衡を保っていたその関係が、ダム決壊のように、壊滅的終わりを迎えるのではないか。
そうして、小山は水泳部を辞めてしまうかもしれない。
どんな理屈なのか、分からなかったが、そう思えてならなかった。
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