俺のパンツが消えた

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
11 / 17

しおりを挟む






体育で長距離走をしているときに、肘鉄を食らった。

一瞬、藤子の件の腹いせかと思ったが、踏ん張って堪えた俺の傍で、肘鉄を食らわしたほうが、倒れこみ、四つん這いになった。

呼吸困難になって、青ざめていたからに、体力が底をついてか、体調が悪くてか、へたりこんだらしい。

「朝食を抜くからだぞ!」と叱られつつ、セリーの栄養補助食を与えられた相手は、教師にボードで煽られながら、木陰で休み、なんだかんだ、いたせりつくせり。

「お前は、一応、保健室で診てもらえ」と邪険にするように、俺のほうこそ追い立てられた。

打撲した脇腹に痛みや違和感はなく、腫れたり、内出血もしていなかったとはいえ、傍にいると、相手が気兼ねするようだったので、しかたなく、保健室へと向かった。

扉を前にして、ノックをし「先生、体育でぶつけたのを、見てほしいんですが」と声をかけたが、無反応。

手洗いか何かで、席を立っているのか?と「せんせー?」と扉を開けたところで、やはり見当たらず、主不在の保健室に踏みこんでいいものかと、迷っていたら、ベッドの仕切りのカーテンが開いた。

不意をつかれたせいもあって、「あ」と口にしたきり、声を失った。

朝から「帰るときどうしよう」と考えていたとはいえ、まさか、部活前に小山と遭遇するとは、思ってみなかったから。

あらためて、顔を合わせて、「藤子の件を知っているのか?」「どう思っているのか?」と気になったが、小山のほうが先に「どうした」と口を切った。

寝起きだからか、深く眉間に皺を刻んで、物言いにも棘がある。

睡眠を妨げた以外、機嫌を損ねるようなことをした覚えはなかったものの、なんとなく決まりが悪くて、「いや、その」と目を伏せた。

「走っていたときに、肘鉄を食らって」

勢いよく布団をのける音がしたのに、「いや、相手がばてて、ふらふらして、ぶつかっただけで、わざとではないし!」とつい、弁明をしてしまう。

どうして、こうも慌てふためくのか、我ながら分からなかったが、実際、小山が血相を変えていたからに、すかさず宥めにかかって正解だったのだろう。

先の一言で、かっとなったらしい小山は、深く息をついてから、「見せてみろ」と顎をしゃくり、ベッドの傍にあった、キャスター付きの丸椅子を滑らせた。

保険医用の、背もたれがある椅子を蹴って、空いたそのスペースに、丸椅子を据えて座ったなら、向かいの丸椅子を手で叩いてみせる。

眉間の皺を浅くしたとはいえ、口をへの字にしているあたり、まだご機嫌斜めでいるらしい。

触らぬ神に祟りなしとばかり、どうにも、関わると、ろくなことがないように直感したし、そもそも「先生は?」とその所在が知れなければ、敷居を跨ぐのが躊躇われる。

「骨折した奴が、さっき運ばれてきてな。

親がこれないってんで、先生が代わりに、病院に連れて行った。
ついさっき、でていったばかりだ」

「しばらくは、戻ってこないぞ」とまた、丸椅子を叩く。

こちらの怪我の具合が気になって、焦れているのか。理由が何にしろ、やや苛立っているような小山に、藤子の件を口にしないほうはよさそうだった。

ただ、小山のほうから、聞いてくるかもしれない。
と、考えたら、尚更、二人きりになりたくなく、いっそ逃げだしたかったものを、「見せろ」とねばる小山、短距離走の学年トップタイム様に、早々御用になるだろう。

いや、悪いことをしたわけでなし。
何も逃げなくてもと、思い直し、「湿布をだすから、貼ってくれるか?」と室内に踏み入る。

聞き分けよく、こくこくと肯いた小山は、腹の虫の居所が悪くても、俺を目の仇にしているわけではないらしい。

湿布の貼り方を教えて、シャツをめくれば、「すこし、青痣になってけど、大したことなさそうだな」とほっとしたように告げ、慎重な手つきで処置をしてくれた。

だけ、ではなく「両方の腕の裏にも痣のようなものがある」と教えてくれ「見せてくれ」というのに従い、手を背中に回した。
はじめは、二の腕をかるく揉んで「うーん」と唸ってたものを、「どう?」には応えてくれず、一旦、放れる。

腕も処置をしてくれるのかと思いきや、布擦れの音がして、腕ではなく両手首を掴まれた。
「ん?」と振り返る前に、手首をまとめて縛られて。

「な!?」と見上げれば、ネクタイを外し、襟元をはだけた小山が、むっつりとしていた。

いやいやいや、せめて「なんてな」と笑ってくれよ!との心の叫びも虚しく、後ろから太く長い腕に抱かれて、「どっこら」と持ち上げられる。

易々と足が浮いてしまう、大人と子供のような体格差が、今はとくに恨めしい。
からかったり、遊んでいるのではないから、尚のことだ。

足をばたつかせても、筋肉馬鹿のカナヅチには、屁でもないようで、体を反転させたなら、ベッドに歩み寄った。

そのまま倒れこむようにして、ベッドに俺を押しつける。

百九十の厚みのある肉体にプレスされて、圧死しそうになり、加えて「なぜにベッド!?」と心理的にも打ち砕かれて、声もだせず、身を固めた。

つぶれた蛙よろしく、放心しているうちに、仰向けられて、小山の名にふさわしくない、エベレスト級の巨体に覆いかぶさられた。

小山相手で、俺が対象だと、男子同士のじゃれあいではなく、大人が子供を押し倒しているような、犯罪臭がする。

まさに、パンツを消して頭に被る小山は、変質者じみていたから、迫られては笑えるはずがなく、「なにすんだよ!」と悲鳴を上げるように、訴えた。

と同時に、足を蹴り上げ、金的を狙ったのが、あっさりと脛を掴まれた。
もう片方の足には、乗っかって体重をかけられ、さらに身動きがとれなくなる。

いよいよやばいと、わななく人の気も知らないで、目を細めた小山は、ため息を吐いた。
「ホテルに入っておいて、今更?」と鬱陶しがるようなそぶりで、告げる。

「お前の筋肉がどうなっているか、知りたいだけだ。
参考にして、筋肉改造をしてみたいし」

「だ、だったら、そう口で頼めばいいだろ!
これじゃあ、まるで!」

「前に、股間を掴んだから、了承を得られないと思って」

「了承なしに、押し倒すほうが問題だろ!」と返したかったものを、シャツをめくられ、腹に手を置かれて、息を飲む。

息を乱したり、声を漏らしたら、もっと、らしくなりそうだから、抗議するのを諦め、腹に力をこめて、ひたすら唇を噛んだ。

マウントをとる小山の顔を直視できずに、顔を背けて、身構えたのだが、医師が触診するような手つきからして、「参考にしたい」と口にした通り、下心はないらしい。

いやいや、それにしたって、筋肉チェックをしたいがために、保健室でなんとやらと、アダルトビデオまがいな展開に持っていくとは、下心がないほうが、正気でないだろう。

「本当、見た目どおり、筋肉ががっつり、ついているわけじゃないんだな。
なんなら、女子みたいだ」

経験豊富さが窺える一言に、引っかかりつつ、「人魚姫」につづき「女子」と表現されたのに、首を傾げたくなりつつ、まともに取り合っては、どつぼにはまりそうに思え、聞き流す。

といって、無言でいるのも気まずく、つめていた息を吐いて「筋肉がついていれば、いいってもんじゃないだろ」と応じた。

「スポーツの種類や人によって、適性の筋肉量や質は違う。

まあ、とくに俺は変わっているかもしれないけど。
筋肉をつけるとかえって、泳ぎにくくなるんだよ」

「にしたって、よく、この筋肉量で泳ぎきれるな。
俺は泳げないが、水中にいて、もがいているだけで、へとへとになるのに」

「前にも言ったろ。
俺には、水の流れを矢印になって、肌で感じ取れるって。

で、どう腕を振って、体をひねって、足を蹴れば、体を刺すように、向かってくる矢印を、押してくれる方向に変えられるのかも、分かる。

ぶっちゃけ、泳ぐとき、水圧を覚えることは、ほぼ、ないんだ。

だから、水圧を押し返したり、払いのけたりする筋力が、いらない。
がむしゃらに水をかき分けて泳ぐ選手よりは、な。

逆に、筋肉をつけると、肌感覚が弱まるというか。水の流れの矢印を、捉えられなくなる」

「ふうん」と相槌を打ちつつ、腹を掌で揉んだり、押したり、指で突いたり、指圧するようにしたり、忙しくして、ついには口を閉ざした。

相変わらず、ふむふむと研究しているような手つきとはいえ、しつこく丹念に撫でられては、居たたまれなくなってくる。
見惚れるようなものでない、一つも割れてない腹を、注視されるのにさえ、そわそわするというものを。

体操着で短パンでいるとあっては、どうにも心細いし。
左右の布が引っ張られた短パンは、ただでさえ、もっこり感があるのが、万が一、反応したら、丸見えだ。

太ももを閉じたくても、片足は掴まれ、もう片足は体重をかけられたまま、びくともしない。

内心、焦りながら、努めて顔にはださずに「もういいだろ」と呼びかけようとしたとき、脇腹を撫でていた手が、上へと滑った。
「胸!?」と居ても立ってもいられなくなり、「ああ、そうだ!」と声を張りあげる。

「中学のころのお前について、聞いたよ!
器用貧乏だったてな!

なんだって、できるっていうのに、またなんで、数少ない、できないものの一つの、水泳にのめりこんでいるんだ?」

しおりを挟む
アルファポリスで公開していないアダルトなBL小説を電子書籍で販売中。
ブログで小説の紹介と試し読みを公開中↓
https://ci-en.dlsite.com/creator/12061
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...