9 / 17
⑨
しおりを挟む普段の部活は、二人で残って、パンツの譲渡を行えばよかったが、大会出場や他校に練習試合に赴くときは、そうもいかなかった。
いつもより、辺りには人が密集しているは、団体行動を心がけなければならないは。
とくにエースの俺は、そこらをほっつき歩くわけにいかないは。
とにかく、二人きりになれる隙がない。
どうしたものかと、二人で頭をひねって、まだ小山の仕業と発覚する前、一時避難として、土日に俺がスイミングスクールに行き、パンツが消えなかったのを思い起こした。
小山も部活を休み、学校にはこなかったとかで。
この二つの事例から、「傍にいて、お互いの姿が見えているのが必要条件か?」「それとも、距離が関係あるのか?」と推察をして、それを元に実験をした。
土曜に、いつも通り、俺はプールで練習し、小山は施設に一歩も入らず、校内でトレーニングに励んでみた。
近くにいながら、お互い、知覚できない状況に、身を置いたところ、結果、パンツは消えなかった。
近くにいるのを意識しても、お互いを五感で捉えないことには、能力が発動されないと分かり、ついで、スマホで声のやり取りや、テレビ通話を試してみたが、画面越しには無効のようだった。
画面を通して以外で、視界に入るほど、傍にいなければ、パンツは消えない。
と、突きとめたとはいえ、あまり、ためにならなかった。
大会も練習試合も、基本、部員全員参加するから、どうしたって、お互いから、目と耳を塞ぐわけにはいかない。
小山が休んで、別行動しつづけるのも、限界があるし。
パンツが消える能力について、すこし判明したところで、不便なのには変わらず。
まあ、しばらくは、大会も練習試合もないから、水泳部が忙しい時期に差しかかるまで、小山がすこしでも能力の制御ができるように望むしかなく。
それにしたって。
「制御できるようになったら、今度は、水着を消されるかもしれないんだよなあ」
そう独り言ち、ため息を吐いて、ゆかりのおにぎりに齧りついた。
目の前に広がるプールは、学校のより、きらびやかで、でかでかとして、見上げたら倒れそうなほど、天井が高々としている。
間隔を空けて泳ぐ生徒の泳ぎっぷりにしろ、プールサイドから絶えず注がれる、かけ声や笛にしろ、肌がひりつくように、緊張感を漲らせていた。
強豪の水泳部で、日々、ストイックに練習に臨む俺でも、背筋が正されるような光景だ。
ここは都内の最新鋭のプール施設だった。
泳いでいるのは、学校がばらばらの中高生の選手で、日本代表についているコーチが指導に当たっている。
日本代表候補のジュニアの選手が、切磋琢磨しながら、部活動やスイミングスクールでは手が行き届かない、完備された施設での指導を、公平に受けられるよう、たまに連休に、全国から呼び寄せられるのだ。
中学一年から、声をかけてもらっている俺は常連組。
腰に手を当てて、おにぎりを食べているほど、割と大きな顔をしていられるが、何か忘れ物をしてきたように思えてならず、どうも座りが悪かった。
まだ、カナヅチからも脱せていない小山は、もちろん、傍にはいない。
故にパンツは消えないものの、そのことを気兼ねしないでいいのが、張り合いがないようにも思える。
目の前には、メダル獲得を阻む、小山よりずっと強敵がいるはずが。
「いや、だからって、誰でもいいから、パンツを消してほしいと望みはしないが」と思いつつ、なんだかなあと、おにぎりを飲みこんだら、「久しぶり」と声をかけられた。
振り向くと、それこそ人魚姫と見まがうような、女子の水泳選手がおっとりと、歩み寄ってきていた。
カメラを担ぎ、反射板を持ち、マイクを向ける大人を従えるのに、目を丸くしながらも「よお、藤子」と人魚姫のほうには、気安く挨拶をする。
「峯 藤子」は漢字が違えど(親は狙って名づけたのだろうが)、本家本元よりグラマーではないものの、顔立ちは劣らず、見目麗しかった。
この場に居合わせるからに、日本代表入りを期待される若き実力者の一人でありつつ、一際、容姿が目を引くとあって、「人魚姫すぎるスイマー(なにが過ぎるというのか?)」とメディアではもてはやされている。
まあ、水着姿を性的に見られるのが、本人は不本意だろうものを、「セクハラだ」「ロリコンめ」とマスコミを非難しても、損するだけと、割りきって、何食わぬ顔をしてカメラを従えているあたり、性格は男前だ。
数えきれないカメラや、スマホを向けられるようになっても、そうして昔から変わりなく、俺の目には写る。
藤子と俺は、スイミングスクールの「お母さんと、はじめてのプール体験教室」からのつきあいだった。
母親曰く、泣く子供ばかりなのを尻目に、あっという間に水に慣れて、はしゃいでいたとかで、当時から二人して、目を引く存在だったという。
以降、藤子のほうが、背が高かったこともあり、男女関係なく、二人で自由形のタイムを競いつづけた。
中学に上がってからは、さすがに男女差がでてきたとはいえ、身長差はそのままで、今も変わりやしない。藤子は百七十ニ、俺は百六十五。
高校生になると、俺が男子校に行き、さらに疎遠になって、ライバル視しなくなったかといえば、そうでもない。
今は、どちらが先に日本代表入りするかの、対決をしている。
「怪我が治って、リハビリもうまく、いったようだな。
タイムが戻ってきてるって、聞いてる」
「尚樹こそ、高校生になってすぐは、調子が狂っていたようだけど、順調にタイムを縮めて、このごろは、とくに冴えているじゃない。
何か、いいことでもあった?」
どうしてか、パンツを被る小山が脳裏に浮かんだとはいえ、「別に」と目を逸らす。
「彼女でも、できたんじゃないの?」と付け加えられ、ぎくりとしつつ、カメラとマイクが向いているのに気づいて、「なんにしろ、同じタイミングで、二人してスタートに立てたんだから、いいだろ」とはぐらかした。
といって、その言葉に嘘はない。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

星蘭学園、腐男子くん!
Rimia
BL
⚠️⚠️加筆&修正するところが沢山あったので再投稿してますすみません!!!!!!!!⚠️⚠️
他のタグは・・・
腐男子、無自覚美形、巻き込まれ、アルビノetc.....
読めばわかる!巻き込まれ系王道学園!!
とある依頼をこなせば王道BL学園に入学させてもらえることになった為、生BLが見たい腐男子の主人公は依頼を見事こなし、入学する。
王道な生徒会にチワワたん達…。ニヨニヨして見ていたが、ある事件をきっかけに生徒会に目をつけられ…??
自身を平凡だと思っている無自覚美形腐男子受け!!
※誤字脱字、話が矛盾しているなどがありましたら教えて下さると幸いです!
⚠️衝動書きだということもあり、超絶亀更新です。話を思いついたら更新します。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-
悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。
「たまに会う」から「気になる」
「気になる」から「好き?」から……。
成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。
楽しんで頂けますように♡


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる