俺のパンツが消えた

ルルオカ

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五限目の授業を終え、昼飯を食べたばかりのはずが、早速、腹を鳴らして、ゆかりのおにぎりを頬張った。

俺に限らず、水泳部員は昼飯以外に、手っ取り早くエネルギー補給ができる食料を常備している。なんたって、スポーツの中でも、水泳は断トツにカロリー消費をするのだ。

少しでも食べるのを、おろそかにすれば、あっという間に痩せこけるし、泳いでいるときは、休憩するたびに、もぐもぐタイムを設けないと、一歩も動けなくなる。

部活では泳いでは食べて、泳いでは食べてを繰り返しているせいか、日常でも区切りごと、休み時間ごとなどに、腹を鳴らしてしまう体質になってしまった。

そのため、泳ぐときの、もぐもぐタイムに要る以上に、毎日、大量のおにぎりを持ってきていた。

もぐもぐ用巾着袋には、バナナと、饅頭などの和菓子も入っているとはいえ、八割は、ゆかりのおにぎりが占めている。

水泳部の俺といえば、「エース」だけでなく「ゆかりのおにぎり」が代名詞になっているほど、いつ何時でも、それを頬張っている印象があるらしい。

否定できない自覚はあり、今もしきりに咀嚼していた。

「お前、ゆかりって飽きねえの」

もごもごしながら、声をかけられたのに、振り向けば、太田がささみに齧りついていた。

自分だって、ささみと、ゆで卵を、飽食しているくせにと思いつつ、「ゆかりは裏切らない」と返して、おにぎりを飲みこむ。

太田もささみを腹におさめて、もう片手に持る、紙パックの野菜ジュースを吸いながら、向かいの席に座った。

ストローから口を放したなら、机に肘をついて「どうよ」と身を乗りだしてくる。

「ミカケダオシカナヅチは?」

「どうって、あの天性のカナヅチは、俺の手にも負えないって」

「なに、カナヅチも才能ってか?」と笑ったのに応えず、下に視線を向ける。

「もう一つ、おにぎり食べようかな」と迷いながら、机の脇にかけたある鞄を見ているうちに、「にしてもさあ」とくっちゃべる太田。

「ミカケダオシカナヅチ、なんで急にまた、お前に見てもらいたいなんて、言いだしたんだろうな。

こう言っちゃなんだけど、万年カナヅチ君のくせに、日本代表候補様の教えを請おうなんて、いい度胸してるよ、ほんと」

「なんでも、俺に勝ちたいんだと。
しかも、俺がメダルを取る前に、自分がメダルを取りたいって」

おにぎりに意識がとらわれて、つい口を滑らせてしまい、「このことは口外してよかったのか?」とすぐに省みる。

前から、そう宣言していたら、俺の耳にも届くだろうから、おそらく、小山はその高き志を人に言いふらしてはいないのだろう。

今や、誰も「今日も絶好調だな、ミカケダオシカナヅチ!」と冷やかしたり、しないとはいえ、「俺は金メダリストになる!」とどこぞの海賊のように、大風呂敷を広げれば、白い目で見られるかもしれない。

だから、堂々とカナヅチでいる小山も、さすがに、胸の内にとどめているのか。

と、考えて、あらためて「しまった」と思い、口止めするか、冗談っぽくして、有耶無耶にしようとしたのだが、頬杖をついた太田は「なるほどなあ」と感心するように、肯いている。

「小山、ほんと、お前のこと、好きなんだな」

「はああ?好きい?」

「俺のパンツを消して、頭に被っておいて?」と口にはせずとも、苦虫を噛み潰したような顔をしてみせる。

照れ隠しと思われたらしく、「だってさあ」と苦笑して、つづけられる。

「水の神様の呪いを受けたみたいな、カナヅチが、逆に水の神様に愛されたみたいな、お前に教えを請うなんて、相当な屈辱だぞ?

一緒にいれば、実力差が思い知らされて、もっと嫌になるだろうし、いちいち比べられて、カナヅチのみっともなさが、強調されてしまうし。

かなり精神的にきついだろうに、お前の傍にいようとして、こそこそもしないんだからよ」

「また馬鹿をやっている」と水泳部では、指を差して笑うような人がいないせいか、小山の面子とか世間体とか、気にかけたことがなかった。

太田に指摘され、なるほどと、肯かされつつも、「いや、そういうの、平気な性格なんじゃないの」と反論する。

俺の目の前で、俺のパンツを被りながら、すぐに脱ごうとしなかったどころか、「ノーパンなのか?」と股間をまさぐってきたくらいだし。

皆の知らない一面を、目の当たりにした俺には好きとかどうとか、やはり、ぴんとこないのだが。
太田も太田で違う一面を知っているらしく「聞いた話、中学のころの小山は、ああじゃなかったってよ」と。

「スポーツ万能で成績優秀。
器用で要領がいいもんだから、何でも、こなせたって。

ま、なんでも簡単にできるから、周りがもてはやしても、すぐに飽きて、ほとんど三日坊主だったらしいけど」

「三日坊主?」とは、毎日休まず、部活に溺れにきている小山には似つかわしくない言葉だ。

ただ、先日、「水泳をやめて、競輪選手を目指せ!」と説得したくなるような、自転車の漕ぎっぷりを見たからに、「やっぱり、そうか」と得心する。
一方で「じゃあ、なんで、水泳なんだ」と疑問を深めたが。





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