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⓸
しおりを挟むあくまで、パンツを盗んだのを認めない体で、通すつもりでいるにしろ、設定が阿呆すぎるだろう。
ここまで、全力でしらを切ろうとされると、怒るより、呆れるし、困りもした。
「寝言は寝てから言え!」と諌めたいのは山々なれど、いっそ恐くなるほど、とぼけきっている小山の、ぼろをださせられる気がしない。
それに、残念ながら、聞く耳を持ちだしている自分もいる。
小山の戯言は、とても聞き入れられないものの、フィクションと考えれば、「どこまで設定を考えているのか」と興味がないでもなく「・・・一応、聞くけど」とつい、乗っかってしまう。
「もし、俺のパンツを消す超能力に目覚めたってんなら、きっかけとか、理由とかに、心当たりがあるわけ」
これも芝居なのか。
はっとした顔つきになり、顎に手を当てて、しばし考えこんだような小山は「俺はカナヅチだ」と自明すぎることを、あらためて、口にした。
面と向かって、本人の口から聞かされると、居たたまれないものがあるが、「ただ、この恵まれた体なら、一旦、泳げるようになれば、オリンピックで金メダルを取れると思う」とつづいて、とたんに興醒めさせられた。
「金メダルを取りたいだけじゃない。お前に勝って、金メダルをとりたい。
なのに、俺は中々、覚醒できないでいる。
このままでは、俺が覚醒できないうちに、お前に金メダルを取られてしまう。
それをどうにか、阻止したい。
合法的に、自分の手を汚さないで。
で、思った。大会のときに、お前の水着が脱げないかなって。
そんなハプニングが起こったら、しばらくは表舞台にでられなくなるだろ。
それで、時間稼ができる」
泳ぐどころか、水に浮きもできない体たらくで、俺に勝って、金メダルを取りたい、とな。
その点については、俺は馬鹿にしなかった。
経験が浅い長い、練習量が少ない多いに関係なく、新記録を打ちだす選手はいるし、ぱっと出に追い越されるなんてことは、ざらにあるからだ。
客観的に考えても、同じ土俵に立てば、体格に恵まれた小山が有利なのも、違いない。
ただ、自分がまだ土俵に上がれないからといって、人が土俵から、ころげ落ちるのを望むとは、いかがなものか。
いや、望むだけなら、罪にはならないとはいえ、願うあまりに、パンツを消す超能力を手に入れたというなら、割と性質が悪い。
フィクションだとしても、人を貶めようとする、その発想ぶりが間抜けだといっても、「なんだ、がっかりした」とため息を吐かないでいられなかった。
「お前はいつまでも浮くことができなくて、それでも、部活を辞めないで、練習も手を抜かないで、偉いなあって思ってたんだぞ。
誰よりも早くプールにきて、誰よりも遅くまで練習してて、俺も見習わなきゃって、感心もしてたのに。
俺に勝ちたいからって、パンツを消すなんて」
パンツを盗んだにしろ、超能力でパンツを消したにしろ、落胆したのには違いなかった。
大会などで勝負を挑まないで、回りくどく、卑怯な手を使い、足を引っ張ろうとする奴は、これまでも、少なからず、いた。
パンツを消されたのは、はじめてとはいえ、同程度の嫌がらせを受けたことはあるから、今更、「人ってなんて、汚いの!」と潔癖ぶるほどでもない。
ただ、真っ向から立ち向かってこない人間の汚さを、嫌というほど、知っていたからこそ、溺れつづけながらも、「泳ぎたい」と正面突破をはかろうとする小山の愚直さを、高く買っていたのだ。
習いはじめて、半年経っても、水に浮けないとなれば、焦るのもしかたないものの、裏切られたような思いがしたもので。
「超能力でパンツを消したかもしれない」と真顔で口にする奴だから、「がっかりした」とため息を吐かれたところで、屁でもなかろうと思ったのだが、案外、顔色を悪くしていた。
顔をひしゃげて、悔しがるように、唇を噛み、ぼそりと告げる。
「あんたが、あんなこと言うから」
「あんなこと?」
なんのことだと、問おうとして俺は言葉を詰まらせ、小山は息を飲んだようだった。
一瞬のうちに、小山の頭にパンツが被さっていたからだ。
見覚えのある模様の、ゴムの部分に俺の名前が書かれたパンツ。
おまけに、股間がすうすうとしている。
「なんで今よ!?
今のどこにパンツを消す必要性があった!?」
目の前にいながら、ズボンも脱がさないで、どうやってパンツを脱がしたのかと、聞くのも馬鹿らしく、理由のほうを問いつめる。
頭に被った感覚がありつつ、それの正体は、分かっていなかったらしい。
パンツを伸ばし、上目遣いに見てから、俺の問いに、肩をすくめてみせた。
「よく分からないが、これで、超能力のせいだって、判明したろ」
「そういう問題じゃない!俺のパンツを返せ!」
内股になりながらも、俄然、手を伸ばす。
が、小柄な俺では、百九十の頭には手が届かず、その前に手首を捕まえられてしまった。
「うぐー!」と呻くも、長身の筋肉野朗に掴まれた手首はびくともせず、こうなったら足で応戦するかと、かまえたところで、肩を掴まれ押された。
教壇にもたれたら、足の間に膝を入れて、パンツを被った小山が間近に迫ってくる。
人が頭にパンツを被ったら、笑わずにはいられないはずが、基本、イケメンの小山が凛々しい顔つきになっては、笑えない。
というか、ホラーだ。
「なに、お前、今、ノーパンなの」
「へ」と声を上げる間もなく、股間をつかまれた。
形をなぞるように、手を這わせて「本当だ」と呟きつつ、撫でるのをやめてくれない。
ノーパンなのを確かめられたら、もういいだろうに。
なんだこれ?と頭を混乱させながら、「やめろ!」といかがわしい手を掴むも、水泳選手にすれば、筋肉量の少ない俺では、見かけ倒し上等な筋肉隆々の小山には、とても敵わない。
力が及ばないなら、言葉で制止させたいところ、「やめろ!」と訴えることしかできなかった。
そりゃあ「何がしたいんだ」と問いたいとはいえ、はっきりさせるのも、恐いようだったから。
といって、躊躇っていては、しつこく股間を揉んでくるのに、反応しそうで。
パンツを被った男に勃起させられては、一生の汚点になりかねなかったので。
ええい、しかたないと、声を張りあげる。
「ほんと、やめろって!漏れる!」
通常、固くもなっていないで、漏れることはないものを、もしくは尿意のほうと捉えたのか、びくりと手を跳ねて、小山は留まってくれた。
ほっと息を吐きつつ、「漏れる!」と腹から声をだして喚いたのを、恥じ入り、頬を熱くして、うつむく。
しばし、口を利かずに、身動きしなかった小山は、「ふう」と深く息を吐いたなら、股間から手を退けた。
屈んでいた上体を起して、膝も退けたところで、すかさず逃げようとしたものの、手首が捕まったままでいて、失敗。
まだ何かするつもりかと、股間を隠すように、シャツを引っ張ってから、睨みつける。
パンツを被りながら、憂いのある表情をしているのが、やっぱりホラーだったが、ストレスを負いすぎて、とうとう頭を噴火させ、「お前、まじな!」と怒鳴りつけてやった。
「もう、信じられない!ほんと、やめろ!
俺のパンツを消すな!
俺のパンツを被るな!
俺のパンツを被って途方に暮れるな!」
「そう訴えられても、俺だって今、自分の超能力だと分かったんだ。
どうやったら、発動するか知らないし、制御もできるか、どうか」
パンツを被った小山の御託を、どこまで鵜呑みにしていいか分からない。
分かったところで、超能力者でない俺にはパンツを消されるのを、阻止できない。
クレームは尽きなかったが、いいようのない敗北感がして、返す言葉が浮かばなかった。
やりきれない思いを噛みしめる人の気も知らないで、「まあ、目の前でパンツを消せたのは悪くない」と悪びれなく、小山はもったいぶったように肯いてみせる。
「このままいけば、水着も消せるかもしれない」
「ふざけるなああああ!」
「がっかりした」と俺に告げられて、胸を痛めたのではなかったのか。
だったら「パンツを消さないよう、我慢する」と宣言してほしいものの、逆に、パンツを消す能力を高める意欲を示される始末。
どういう神経をしているのかと、大いに疑うところだが、実質、俺には止めようがなかった。
こうなったらもう、先から俺のパンツを被りつづけ、脱ごうとしない小山を、殺すしかないのではないかと、冗談でなく思ったものだ。
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