3 / 17
③
しおりを挟む小山はまさに、ザ・水泳部といった風格で、百九十前後の長身にして、均整の取れた肉体を誇っている。
が、「ミカケダオシカナヅチ」と仇名がつけられているように、泳ぐどころか、水に沈んだまま浮き上げれないという、特異な体質をしていた。
泳ぐどころか、まともに浮くこともできない素人以下の小山だが、おこがましくも、我が名門水泳部の部員名簿に名を連ねている。
というのも、我が水泳部は、小山のようなミカケダオシカナヅチだろうと、入部を歓迎をしているからだ。
俺を含め推薦で入ってきた本格的なのだけでなく、一から泳ぎを習いたいと入部した、習い事感覚の生徒もいて、混在しているのが、我が水泳部の特色だった。
名門だ伝統があるだ、日本代表を輩出しているだの、謳われていては、入部するには敷居が高そうに思えるところ。
「泳ぎたい生徒すべてに門戸を開ける」が昔からの部の方針だし「誰でも一人前に泳がせてやる!」と熱血コーチ(その名もシューゾー)が息巻いて待ち受けているから、高校から水泳を習いはじめる生徒も、少なくなかった。
小山もその一人で、ただ、半年が過ぎても、水に浮けないのは前代未聞だった。
「ある意味、逸材だ!」とむしろ、シューゾーは指導に熱を入れて、本人も意欲満々で、一日も欠かさず部活にきて、練習に励んでいるとはいえ、一向に浮いてこない。
立ち姿は、日本代表の競泳選手と肩を並べて、見劣りしないほどなのが、水に入ると、自慢の肉体が見るも無残に、底に沈んだまま。
「小山」の名前も含め、ギャップがあり過ぎて、キャラが立っていては、高記録を叩きだす以上に注目されるというもの。
今やすっかり、小山は水泳部の名物になり、部外や学校外までにも、その名を轟かせていて、もちろん、俺も見知っている。
とはいえ、ミカケダオシカナヅチと、大会を目標に日々鍛錬を重ねる俺らと、練習内容もスケジュールも、一切、被るはずがないから、顔を合わせたことはない。
「講義室にいこう」と声を聞いたのも、初めてだ。
推薦組の俺様に、ミカケダオシカナヅチが気安く口を利くんじゃゃねえと、お高くとまっているつもりはない。
つもりはないが、今まで接点がなかった上に、前置きなしで、にわかに呼びだしをされては、怪訝に思わないでいられなかった。右手に持つ紙袋も気になったし。
「これ、お前のだろ」
「講義室Ⅰ」に入り、鍵を閉めてから、その紙袋をまず、差しだしてきた。
「口下手か」「また前置きなしか」と思いつつ、ずっと中身が気になっていたから、口を挟まないで、紙袋を受け取り、早速、覗きこんだ。
なんとなく、良い予感はしなかったとはいえ、覗きこむまで、まったく中身に察しはついていなかった。
が、真っ先に、見覚えのある柄が目にとびこみ、名前が書かれたゴム部分がちょうっど見えたとなれば、「お前か!」と間髪いれず、ツッコミたくもなるだろう。
怒りもありつつ、先に施錠したのを思い起こし、寒気を覚えつつ、体をわななかせて「お、お前が・・・」と顔を上げる。
変質者のくせに、獲物を目の前にして、本性を露にせず、小山はしれっとした顔をしている。
居直っているようにも見えるのが、忌々しくあり、恐ろしい。
「よくも、俺のパンツを・・・・!」
「違う、聞け」
紙袋を抱きしめて、後ずさろうとしたのに、手をかざしてみせる。
掌の大きさからして、小柄な自分との体格差が思い知らされ、悔しいかな、俺は口をつぐみ、足も留めた。
四日連続でパンツを盗んだ変質者の言い分なんかに、聞く耳を持ちたくなかったが、施錠された部屋で、圧倒的に筋肉量が勝る相手に、力ずくで迫られては、お手上げだ。
ここは、あえて話させて、隙を窺うほうがいい。
と考えて、悲鳴を上げて逃げだしたいのを、どうにか堪えている人の気も知らないで、「俺は盗んでいない」とぬけぬけと、ぬかしてきた。
「アリバイがある。なにせ、俺にはシューゾーがつきっきりだからな。
トイレに行くのに、離れたのにしろ、五分もない。
その間に更衣室にいって戻ってくるのは無理だろ。
なんなら、シューゾーに聞いてもらっていい。
他の部員にも聞いてみろ。
途中で更衣室にいく奴は、あんまりいないからな。とくに俺が行けば、目立って、必ず、誰かが覚えているだろうよ」
なるほど、説得力はある。
とも、思いきれない。
水泳部で聞きこみをすれば、「どうして、そんなこと聞くの?」と疑われる。その疑いから「パンツ泥棒特定のため」と知られるに至るのを恐れ、どうせ、まともに調べることはできないだろうと、高をくくって、うそぶいているのかもしれない。
いや、小山の思惑以前に、そもそもが、だ。
「盗んでいないなら、どうして、お前がパンツを持っているんだ?」と。俺が疑ってかかるのを、心外とでもいうように、ため息を吐いて首を振り、「俺も驚いたんだ」とぼざきやがる小山、いや、変質者。
「着替えようとしてロッカーを開いたら、お前の名前が書かれたパンツが、着替えの上に乗っていたんだよ。
どうしようかと思った。
人に相談したら、盗んだと疑われるし。
大体、お前が盗まれたと、騒ぎ立てなかったからな(俺と小山の着替える時間は違うので、小山はあの場に居合わせなかった)。
なにかの間違いで、一度きりかもしれないって、思いたかったが、翌日も翌々日も翌々々日もパンツが乗っていた。
さすがに恐くなったから、土日は部活を休んで、考えた。
で、こうなったらもう、本人にパンツを返すついでに、打ち明けるしかないと思って」
「あの皆勤のミカケダオシカナヅチが、二日も休んだんだぞ!」「シューゾーが心配しまくって、泣いていて、そっちのほうが心配!」と太田がラインで騒いでいたのは、そういうことか。
説明を聞いて、合点がいったのは、そのことだけで、やはり根本については、はぐらかしているようにしか、思えなかった。
痺れを切らして「お前に盗んだ覚えがないなら、どう考えればいいってんだ!」と人差し指を向ければ、まだ、かざしていた手で、ピースを返された。
はあ?とやさぐれた声を上げそうになった間もなく、「考えられるのは二つだ」と物々しげに語りかけてくる。
「誰かが、お前のパンツを盗み、俺のロッカーにいれた。
もう一つは、俺が超能力に目覚めて、お前のパンツを消すことができるようになった」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!
かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。
幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る
Dom/Subユニバースボーイズラブです。
初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。
Dom/Subユニバースの用語説明なしです。
【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 -ゆっくり恋する毎日-
悠里
BL
コミュ力高めな司×人と話すのが苦手な湊。
「たまに会う」から「気になる」
「気になる」から「好き?」から……。
成長しながら、ゆっくりすすむ、恋心。
楽しんで頂けますように♡

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる