俺のパンツが消えた

ルルオカ

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小山はまさに、ザ・水泳部といった風格で、百九十前後の長身にして、均整の取れた肉体を誇っている。

が、「ミカケダオシカナヅチ」と仇名がつけられているように、泳ぐどころか、水に沈んだまま浮き上げれないという、特異な体質をしていた。

泳ぐどころか、まともに浮くこともできない素人以下の小山だが、おこがましくも、我が名門水泳部の部員名簿に名を連ねている。
というのも、我が水泳部は、小山のようなミカケダオシカナヅチだろうと、入部を歓迎をしているからだ。

俺を含め推薦で入ってきた本格的なのだけでなく、一から泳ぎを習いたいと入部した、習い事感覚の生徒もいて、混在しているのが、我が水泳部の特色だった。

名門だ伝統があるだ、日本代表を輩出しているだの、謳われていては、入部するには敷居が高そうに思えるところ。

「泳ぎたい生徒すべてに門戸を開ける」が昔からの部の方針だし「誰でも一人前に泳がせてやる!」と熱血コーチ(その名もシューゾー)が息巻いて待ち受けているから、高校から水泳を習いはじめる生徒も、少なくなかった。

小山もその一人で、ただ、半年が過ぎても、水に浮けないのは前代未聞だった。

「ある意味、逸材だ!」とむしろ、シューゾーは指導に熱を入れて、本人も意欲満々で、一日も欠かさず部活にきて、練習に励んでいるとはいえ、一向に浮いてこない。

立ち姿は、日本代表の競泳選手と肩を並べて、見劣りしないほどなのが、水に入ると、自慢の肉体が見るも無残に、底に沈んだまま。
「小山」の名前も含め、ギャップがあり過ぎて、キャラが立っていては、高記録を叩きだす以上に注目されるというもの。

今やすっかり、小山は水泳部の名物になり、部外や学校外までにも、その名を轟かせていて、もちろん、俺も見知っている。

とはいえ、ミカケダオシカナヅチと、大会を目標に日々鍛錬を重ねる俺らと、練習内容もスケジュールも、一切、被るはずがないから、顔を合わせたことはない。
「講義室にいこう」と声を聞いたのも、初めてだ。

推薦組の俺様に、ミカケダオシカナヅチが気安く口を利くんじゃゃねえと、お高くとまっているつもりはない。

つもりはないが、今まで接点がなかった上に、前置きなしで、にわかに呼びだしをされては、怪訝に思わないでいられなかった。右手に持つ紙袋も気になったし。

「これ、お前のだろ」

「講義室Ⅰ」に入り、鍵を閉めてから、その紙袋をまず、差しだしてきた。

「口下手か」「また前置きなしか」と思いつつ、ずっと中身が気になっていたから、口を挟まないで、紙袋を受け取り、早速、覗きこんだ。

なんとなく、良い予感はしなかったとはいえ、覗きこむまで、まったく中身に察しはついていなかった。

が、真っ先に、見覚えのある柄が目にとびこみ、名前が書かれたゴム部分がちょうっど見えたとなれば、「お前か!」と間髪いれず、ツッコミたくもなるだろう。

怒りもありつつ、先に施錠したのを思い起こし、寒気を覚えつつ、体をわななかせて「お、お前が・・・」と顔を上げる。

変質者のくせに、獲物を目の前にして、本性を露にせず、小山はしれっとした顔をしている。
居直っているようにも見えるのが、忌々しくあり、恐ろしい。

「よくも、俺のパンツを・・・・!」

「違う、聞け」

紙袋を抱きしめて、後ずさろうとしたのに、手をかざしてみせる。

掌の大きさからして、小柄な自分との体格差が思い知らされ、悔しいかな、俺は口をつぐみ、足も留めた。

四日連続でパンツを盗んだ変質者の言い分なんかに、聞く耳を持ちたくなかったが、施錠された部屋で、圧倒的に筋肉量が勝る相手に、力ずくで迫られては、お手上げだ。

ここは、あえて話させて、隙を窺うほうがいい。
と考えて、悲鳴を上げて逃げだしたいのを、どうにか堪えている人の気も知らないで、「俺は盗んでいない」とぬけぬけと、ぬかしてきた。

「アリバイがある。なにせ、俺にはシューゾーがつきっきりだからな。
トイレに行くのに、離れたのにしろ、五分もない。

その間に更衣室にいって戻ってくるのは無理だろ。

なんなら、シューゾーに聞いてもらっていい。
他の部員にも聞いてみろ。

途中で更衣室にいく奴は、あんまりいないからな。とくに俺が行けば、目立って、必ず、誰かが覚えているだろうよ」

なるほど、説得力はある。
とも、思いきれない。

水泳部で聞きこみをすれば、「どうして、そんなこと聞くの?」と疑われる。その疑いから「パンツ泥棒特定のため」と知られるに至るのを恐れ、どうせ、まともに調べることはできないだろうと、高をくくって、うそぶいているのかもしれない。

いや、小山の思惑以前に、そもそもが、だ。

「盗んでいないなら、どうして、お前がパンツを持っているんだ?」と。俺が疑ってかかるのを、心外とでもいうように、ため息を吐いて首を振り、「俺も驚いたんだ」とぼざきやがる小山、いや、変質者。

「着替えようとしてロッカーを開いたら、お前の名前が書かれたパンツが、着替えの上に乗っていたんだよ。

どうしようかと思った。

人に相談したら、盗んだと疑われるし。
大体、お前が盗まれたと、騒ぎ立てなかったからな(俺と小山の着替える時間は違うので、小山はあの場に居合わせなかった)。

なにかの間違いで、一度きりかもしれないって、思いたかったが、翌日も翌々日も翌々々日もパンツが乗っていた。

さすがに恐くなったから、土日は部活を休んで、考えた。
で、こうなったらもう、本人にパンツを返すついでに、打ち明けるしかないと思って」

「あの皆勤のミカケダオシカナヅチが、二日も休んだんだぞ!」「シューゾーが心配しまくって、泣いていて、そっちのほうが心配!」と太田がラインで騒いでいたのは、そういうことか。

説明を聞いて、合点がいったのは、そのことだけで、やはり根本については、はぐらかしているようにしか、思えなかった。

痺れを切らして「お前に盗んだ覚えがないなら、どう考えればいいってんだ!」と人差し指を向ければ、まだ、かざしていた手で、ピースを返された。

はあ?とやさぐれた声を上げそうになった間もなく、「考えられるのは二つだ」と物々しげに語りかけてくる。

「誰かが、お前のパンツを盗み、俺のロッカーにいれた。
もう一つは、俺が超能力に目覚めて、お前のパンツを消すことができるようになった」



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