死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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人ぎらい童貞教師

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高校二年で、あらたに数学教師として転任してきた彼は、自己紹介でぶちかました。

「俺は人ギライの童貞だ。

教師として職務をまっとうするが、それ以上のことは望まないように」

有言実行というか、勉強については会話をしたり質問に応えてくれるものの、生徒と親交を深める気ゼロ。

私的に生徒に話しかけなければ、生徒が笑いかけても、からかってきても眉ひとつ動かさず、ガン無視。

それにしても高校で「童貞」宣言すれば、とくに男子が鬼の首をとったように、とことん笑いものにするところ。
あまりに我が道をいき、飄飄としているからに、イジメられもしなかった。

まあ不良気質なヤツには「いけ好かない野郎だ」と目をつけられたが。

友人グループに、そういうイキガッタのがいて、俺は巻きこまれることに。

罰ゲームで、人ギライの童貞教師に告白をしろと命令をされて。

そりゃあ、イヤだったし、俺もまだ童貞なのに、教師の童貞を卒業させたくなかったが、まあ「あの人類愛皆無の教師だからな」とさほど心配はせず。

思ったとおり、人気のない廊下で告白したら、侮蔑されたのも一瞬のこと、ノーリアクション、一言もなく通りすぎていったし。

そのあとにしろ、鉄壁の人ギライぶりにブレを見せず、俺にだけに態度を変えるなんて、恋する乙女心モードにならなかったし。

半ば分かりきっていたことながら、友人らは「つまんねー」とブーたれて「一週間、先生大好きアピールしつづけろ!」と命令。

「罰ゲームに追加注文なんてアリかよ」と呆れたものの、ノリにあわせないと「おまえも、つまんねーな」と烙印を押されかねない。
不感症っぽい教師にラブコールしても危険や害はないだろうと、高をくくったのもあり、従うことに。

用もなく職員室を覗きこんで「あー!先生と目があっちゃたあ!」と友人らときゃっきゃしたり。

廊下ですれちがったとき、友人に「ほら、なんか声かけなさいよ!」と肘でつつかれて「やだあ!もう!」と恥じらってくねくねしたり。

隙あらば、職員室の机にラブレターを置いて「先生、この子の情熱、伝わりましたかあ!?」と友人がけしかけるのに「このお節介!聞かなくていいの!」と頬を膨らませて、ぷんぷんしたり。

ミーハーな女子のノリで、本気というより、コントをやっているように大袈裟に騒ぎたてて。

はじめは、ぶりっ子をするのに抵抗があったものを、だんだんオモシロくなってきて「先生を落とす」というホンライの目的を見失い、友人とごっこ遊びに夢中。

「こりずにスキスキアタックする男子に、容赦なくツレナイ人ギライ童貞教師」というネタに、まわりも可笑しがって、思いがけず俺らは有名人になり、それもそれで満更でなく。

期限の一週間が近づき「どうせなら、卒業まで遊ぶか」とすっかり俺らは調子づいて、すっかり失念していた。

ムシしつづけるだけで、まったく読めない先生の胸中を。

まあ、人ギライだから、注目されるのは不本意だろうが、まさか俺の告白を真に受けているとは思ってもみなく。

一週間目の放課後のこと。
友人と帰るまえに「ワリ、トイレ」と一人、抜けだして。

用を足し、手を洗っていたら、勢いよく出入り口のドアが開かれた。
思わず鏡越しに見やったなら、人ギライ童貞教師が。

グウゼンではなさそう。
と危機を直感する間もなく、目のまえに迫って壁ドン。

洗面台にもたれて、身動きできない俺に「よくも、俺の思いを弄びやがって」と低く唸りながらも、あげた顔をひしゃげて。

「もともと、おまえがスキだったのに・・・」

泣きそうに、突然の告白をされてウカツにも胸きゅん。
が、ぐっと顔を近づけつつ、股間に太ももを押し当てたのに、ときめきとチガウ、ずっきゅんどっきゅんが。

「・・・ネタにされたまま、いっそ、童貞も捧げてやろうか?」

鼻に鼻を擦りつけ、かすれた声で囁かれ、体温急上昇、一気に頭が沸騰。

拒否できなければ「ごめんなさい!勘弁してください!」と土下座もできず「ひえ・・・」と間のぬけた声を漏らすことしか。

目がくらみ、腰がぬけたように、その場にへたりこむ。
追い討ちをかけてこないのに、やおや顔をあげれば、腰をかがめた先生が一言。

「ばあっーか!」

思いっきり罵っただけで、すぐに背を向け、風のように去っていった。

意表を突かれまくって呆然とし、しばしトイレの床に座りこんだまま。

かなり時間がかかって「ああ、先生の意趣返しか」と気づいたものの、全身の火照りも、胸の高鳴りもおさまらず。

「もともと、おまえがスキだった」を本気にしたからでも、セックスアピールをされて興奮しているからでもない。

目に焼きついて放れないのは、眉を逆立たせ、目ん玉をひん剥いて、腹の底から声をとどろかせ「ばあっーか!」とツバをちらした、大人気なさすぎる形相。

ムキなの丸わかりに「ばあっーか!」なんて、高校生だって、恥ずかしくてできやしやい。

「幼児か!」とツッコミたいところ、でも、笑ったり馬鹿にできないで、鼻血がでそう。

「俺こそ、童貞をくれてやって、ばかって云わせてえー!」

俺のもどりが遅いのに、トイレに見にきヤツが、だだ漏れの心の声をがっつり聞いてしまい。

「俺らが煽りすぎたせいで、感覚が狂ったのかも」と反省したらしく、難攻不落の教師に恋する男子高生ごっこをやめることに。

ただ、急斜面をころがりだした俺の恋心は、とどまりそうになく。

卒業まで、人ギライ童貞教師とどうなるのか。
いや、どうしてしまうか、自分でも分からなかった。







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