33 / 33
人ぎらい童貞教師
しおりを挟む高校二年で、あらたに数学教師として転任してきた彼は、自己紹介でぶちかました。
「俺は人ギライの童貞だ。
教師として職務をまっとうするが、それ以上のことは望まないように」
有言実行というか、勉強については会話をしたり質問に応えてくれるものの、生徒と親交を深める気ゼロ。
私的に生徒に話しかけなければ、生徒が笑いかけても、からかってきても眉ひとつ動かさず、ガン無視。
それにしても高校で「童貞」宣言すれば、とくに男子が鬼の首をとったように、とことん笑いものにするところ。
あまりに我が道をいき、飄飄としているからに、イジメられもしなかった。
まあ不良気質なヤツには「いけ好かない野郎だ」と目をつけられたが。
友人グループに、そういうイキガッタのがいて、俺は巻きこまれることに。
罰ゲームで、人ギライの童貞教師に告白をしろと命令をされて。
そりゃあ、イヤだったし、俺もまだ童貞なのに、教師の童貞を卒業させたくなかったが、まあ「あの人類愛皆無の教師だからな」とさほど心配はせず。
思ったとおり、人気のない廊下で告白したら、侮蔑されたのも一瞬のこと、ノーリアクション、一言もなく通りすぎていったし。
そのあとにしろ、鉄壁の人ギライぶりにブレを見せず、俺にだけに態度を変えるなんて、恋する乙女心モードにならなかったし。
半ば分かりきっていたことながら、友人らは「つまんねー」とブーたれて「一週間、先生大好きアピールしつづけろ!」と命令。
「罰ゲームに追加注文なんてアリかよ」と呆れたものの、ノリにあわせないと「おまえも、つまんねーな」と烙印を押されかねない。
不感症っぽい教師にラブコールしても危険や害はないだろうと、高をくくったのもあり、従うことに。
用もなく職員室を覗きこんで「あー!先生と目があっちゃたあ!」と友人らときゃっきゃしたり。
廊下ですれちがったとき、友人に「ほら、なんか声かけなさいよ!」と肘でつつかれて「やだあ!もう!」と恥じらってくねくねしたり。
隙あらば、職員室の机にラブレターを置いて「先生、この子の情熱、伝わりましたかあ!?」と友人がけしかけるのに「このお節介!聞かなくていいの!」と頬を膨らませて、ぷんぷんしたり。
ミーハーな女子のノリで、本気というより、コントをやっているように大袈裟に騒ぎたてて。
はじめは、ぶりっ子をするのに抵抗があったものを、だんだんオモシロくなってきて「先生を落とす」というホンライの目的を見失い、友人とごっこ遊びに夢中。
「こりずにスキスキアタックする男子に、容赦なくツレナイ人ギライ童貞教師」というネタに、まわりも可笑しがって、思いがけず俺らは有名人になり、それもそれで満更でなく。
期限の一週間が近づき「どうせなら、卒業まで遊ぶか」とすっかり俺らは調子づいて、すっかり失念していた。
ムシしつづけるだけで、まったく読めない先生の胸中を。
まあ、人ギライだから、注目されるのは不本意だろうが、まさか俺の告白を真に受けているとは思ってもみなく。
一週間目の放課後のこと。
友人と帰るまえに「ワリ、トイレ」と一人、抜けだして。
用を足し、手を洗っていたら、勢いよく出入り口のドアが開かれた。
思わず鏡越しに見やったなら、人ギライ童貞教師が。
グウゼンではなさそう。
と危機を直感する間もなく、目のまえに迫って壁ドン。
洗面台にもたれて、身動きできない俺に「よくも、俺の思いを弄びやがって」と低く唸りながらも、あげた顔をひしゃげて。
「もともと、おまえがスキだったのに・・・」
泣きそうに、突然の告白をされてウカツにも胸きゅん。
が、ぐっと顔を近づけつつ、股間に太ももを押し当てたのに、ときめきとチガウ、ずっきゅんどっきゅんが。
「・・・ネタにされたまま、いっそ、童貞も捧げてやろうか?」
鼻に鼻を擦りつけ、かすれた声で囁かれ、体温急上昇、一気に頭が沸騰。
拒否できなければ「ごめんなさい!勘弁してください!」と土下座もできず「ひえ・・・」と間のぬけた声を漏らすことしか。
目がくらみ、腰がぬけたように、その場にへたりこむ。
追い討ちをかけてこないのに、やおや顔をあげれば、腰をかがめた先生が一言。
「ばあっーか!」
思いっきり罵っただけで、すぐに背を向け、風のように去っていった。
意表を突かれまくって呆然とし、しばしトイレの床に座りこんだまま。
かなり時間がかかって「ああ、先生の意趣返しか」と気づいたものの、全身の火照りも、胸の高鳴りもおさまらず。
「もともと、おまえがスキだった」を本気にしたからでも、セックスアピールをされて興奮しているからでもない。
目に焼きついて放れないのは、眉を逆立たせ、目ん玉をひん剥いて、腹の底から声をとどろかせ「ばあっーか!」とツバをちらした、大人気なさすぎる形相。
ムキなの丸わかりに「ばあっーか!」なんて、高校生だって、恥ずかしくてできやしやい。
「幼児か!」とツッコミたいところ、でも、笑ったり馬鹿にできないで、鼻血がでそう。
「俺こそ、童貞をくれてやって、ばかって云わせてえー!」
俺のもどりが遅いのに、トイレに見にきヤツが、だだ漏れの心の声をがっつり聞いてしまい。
「俺らが煽りすぎたせいで、感覚が狂ったのかも」と反省したらしく、難攻不落の教師に恋する男子高生ごっこをやめることに。
ただ、急斜面をころがりだした俺の恋心は、とどまりそうになく。
卒業まで、人ギライ童貞教師とどうなるのか。
いや、どうしてしまうか、自分でも分からなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる