死んでもお前を愛さない

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
30 / 33

彼は居直り覗き魔

しおりを挟む






風呂場を覗かれて、舌打ちされた。

窓の隙間から覗く目と目があい、ぎょっとする間もなく「はあ!?」と激昂。

すぐに、すり硝子の人影が消えたのに「ふざけんなよ!」と小窓を開けて、顔を突きだした。

家の裏の狭い暗がり。
通りに向かい、去ろうとする背中は「おい!」との怒鳴りに、悠悠と顔をふり向けた。

幸か不幸か、見え覚えありまくり。
あまり口を利いたことがないが、クラスメイトの沖野だ。

冷めた顔をしたまま、あらためて俺を見やって、ため息をつく始末。
ハズレを引いちまったと、ばかり。

「おうおう上等だ!」と外に跳びだして、とっちめたかったものの、さすがに濡れた裸で追いかけられない。

しかたなく、このときは歯噛みしつつ、背中が通りに消えるのを見送ったが、さあ、翌日。

はやめに登校して、教室で腕を組み仁王立ちスタンバイ。

まわりにヒソヒソされても、友人に冷やかされても、ポーズを保ったまま。

「昨日の今日で学校にこれるもんなら、きてみやがれ!」と鼻息を噴いて、かまえていたのが、果たして、のうのうと犯罪者は教室に。
肩を縮めるでも、うつむくでもなく、胸を張って堂堂と。

半ば予想していたとおりとはいえ、頭の血管をぶち切らせて「こんにゃろうがあ!」と襲いかかった。
といって、勢いまかせに殴ったり蹴ったりせず、首に腕を巻きつけて絞める。

「よお、おはようさん、男の風呂を覗いたホモ犯罪者」と囁いたのは、ほかの人に聞かれないよう、気づかってではない。
「お前の出方次第で、声量をあげろぞ」と脅しを含んでのこと。

「おまえに罰をくだすまえに、聞いてやる。

どうして、昨日、風呂を覗いた?
そして舌打ちをした?」

「・・・舌打ちをしたのを気にするのは変じゃね?」

「ダマレ、このホモ犯罪者にして、人の裸を覗き見したあげく舌打ちしやがった、失礼千万野郎が。
犯罪と無礼を働いておいて、口答えできると思うなよ」

「舌打ちしたの、スゲー根に持つじゃん。
まあ、いいけど・・・。

まず、風呂を覗いたワケな。

だって、おまえ自慢してただろ。
『うちの姉貴は巨乳で人の顔を殴る悪魔だ!』って。

そんな羨ましすぎる自慢、聞かされちゃあ、拝見したくなるだろ?」

自分の発言を思いだし「自慢」と評されたのに、また一本、血管をぶち切らせる。
「これだから思春期の頭お花畑男子はあああ!」と首を絞めつけ、ぎりぎりと。

「女のおっぱいは大きけりゃあ、いいってもんじゃねえんだよ!
いいか!おっぱいにも人格があるんだ!」

「おいおい、頭だいじょー・・・ぐえ!」

「頭がイカレタおまえのために、ていねいに説明してやっと、いくらイイおっぱいでも、持ち主の性格によって、美しくも醜くも見えるってことだ!

風呂上り、パンイチで腰に手を当てて、牛乳飲むの、毎度毎度見せられてみろ!

『脱衣所以外でさらすな』って注意しても聞かねーし、こっちが避けても、うっかり遭遇することがあって、かーちゃんにチクられて叱られて、さらにペナルティが課されるし!

ありゃあ、もうタノシンデいるからな!
『この助平野郎が』って蔑んで、イヤガラセして、俺を弄んでいるとなれば、おっぱいが憎たらしくもなるだろ!

イイおっぱいっていうのはな、恥ずかしがり屋で謙虚な持ち主あってこそなんだよ!」

「ばーか!おっぱいに性格の良さを求めるなんてゼータクだっつうの!

見飽きたなんて云える自分が、どれだけ恵まれているか、分かってねえな!
こちとら、シングルファーザーで男兄弟、女っ気がないし、縁もないんだ!

逆にウチは親父も幼い弟も、なにかとマッパになって、家をうろついているから、男の裸は見飽きてる!
女に比べて、どんだけキタナイもんか、いやというほど知ってたら、舌打ちもしたくなるだろ!」

途中から俺は喚きだし、沖野も叫びだして、まわりに筒抜け。
が、互いに互いしか目がなく、さらなる爆弾発言を投下。

「おまえこそ目が節穴だ、バーカ!
俺は男でも、毛が薄いし、キレイ好きだから、そこらの野郎より清らかな裸してんだからな!

とくに尻の豊満さと、柔らかさ、肌のすべすべ感は女顔負けだ!
すくなくとも姉貴のおっぱいより、カワイゲがある!

なんたって、しょっちゅう電車で痴漢されるくらいだ!
ちなみに、姉貴は痴漢されたことねーし!」

「バーカ!なにネーチャンと張りあってんだよ!
男のケツなんか、女のおっぱいより尊いわけ・・・」

「ああ、そうかよ!だったらその目でタシカめてみろ!」

叫ぶや否や、首の絞めつけを解き、背を向けて、ズボンを下ろした。
まわりは、どよめいたものの、案外、沖野は静かで、ピカイチのおケツを見入っているよう。

「ふっ、どーだ!
まだ、男の体はキタナイとか、ほざくか?」

「く・・・!」と口惜しげに呻いたのに「勝った!」と鼻で笑ったのもつかの間。

思春期の助平根性を舐めていた。
「もう、男でもいい!触らせろ!」とヤケクソになった沖野に、尻をつかまれて揉みしだかれて。

「うぎゃああああああ!」と絶叫して、もちろん逃げたものを「おまえが煽ったんだろうがあ!」と尻に顔を突っこみそうな勢いで追撃。

さすがに、まわりが見かねて、沖野をとりおさえ「おまえ、早退しろ」と俺を避難させた。

思春期の性衝動をこじらせた沖野も沖野だが、結局、俺もなにがしたかったのか・・・。
すっかり我に返って、とぼとぼと家に帰ったものの、騒動はこれで済まず。

その日の夕方、風呂に入って、なにげなく窓を見たら人影が。
すり硝子越しだから、誰なのか分からないとはいえ、沖野としか思えず。

うかつに人前でケツをさらすもんじゃないなと、後悔先に立たず。

これからずっと、風呂場の窓に人影を見ることになるかもしれない・・・。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...