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彼は居直り覗き魔
しおりを挟む風呂場を覗かれて、舌打ちされた。
窓の隙間から覗く目と目があい、ぎょっとする間もなく「はあ!?」と激昂。
すぐに、すり硝子の人影が消えたのに「ふざけんなよ!」と小窓を開けて、顔を突きだした。
家の裏の狭い暗がり。
通りに向かい、去ろうとする背中は「おい!」との怒鳴りに、悠悠と顔をふり向けた。
幸か不幸か、見え覚えありまくり。
あまり口を利いたことがないが、クラスメイトの沖野だ。
冷めた顔をしたまま、あらためて俺を見やって、ため息をつく始末。
ハズレを引いちまったと、ばかり。
「おうおう上等だ!」と外に跳びだして、とっちめたかったものの、さすがに濡れた裸で追いかけられない。
しかたなく、このときは歯噛みしつつ、背中が通りに消えるのを見送ったが、さあ、翌日。
はやめに登校して、教室で腕を組み仁王立ちスタンバイ。
まわりにヒソヒソされても、友人に冷やかされても、ポーズを保ったまま。
「昨日の今日で学校にこれるもんなら、きてみやがれ!」と鼻息を噴いて、かまえていたのが、果たして、のうのうと犯罪者は教室に。
肩を縮めるでも、うつむくでもなく、胸を張って堂堂と。
半ば予想していたとおりとはいえ、頭の血管をぶち切らせて「こんにゃろうがあ!」と襲いかかった。
といって、勢いまかせに殴ったり蹴ったりせず、首に腕を巻きつけて絞める。
「よお、おはようさん、男の風呂を覗いたホモ犯罪者」と囁いたのは、ほかの人に聞かれないよう、気づかってではない。
「お前の出方次第で、声量をあげろぞ」と脅しを含んでのこと。
「おまえに罰をくだすまえに、聞いてやる。
どうして、昨日、風呂を覗いた?
そして舌打ちをした?」
「・・・舌打ちをしたのを気にするのは変じゃね?」
「ダマレ、このホモ犯罪者にして、人の裸を覗き見したあげく舌打ちしやがった、失礼千万野郎が。
犯罪と無礼を働いておいて、口答えできると思うなよ」
「舌打ちしたの、スゲー根に持つじゃん。
まあ、いいけど・・・。
まず、風呂を覗いたワケな。
だって、おまえ自慢してただろ。
『うちの姉貴は巨乳で人の顔を殴る悪魔だ!』って。
そんな羨ましすぎる自慢、聞かされちゃあ、拝見したくなるだろ?」
自分の発言を思いだし「自慢」と評されたのに、また一本、血管をぶち切らせる。
「これだから思春期の頭お花畑男子はあああ!」と首を絞めつけ、ぎりぎりと。
「女のおっぱいは大きけりゃあ、いいってもんじゃねえんだよ!
いいか!おっぱいにも人格があるんだ!」
「おいおい、頭だいじょー・・・ぐえ!」
「頭がイカレタおまえのために、ていねいに説明してやっと、いくらイイおっぱいでも、持ち主の性格によって、美しくも醜くも見えるってことだ!
風呂上り、パンイチで腰に手を当てて、牛乳飲むの、毎度毎度見せられてみろ!
『脱衣所以外でさらすな』って注意しても聞かねーし、こっちが避けても、うっかり遭遇することがあって、かーちゃんにチクられて叱られて、さらにペナルティが課されるし!
ありゃあ、もうタノシンデいるからな!
『この助平野郎が』って蔑んで、イヤガラセして、俺を弄んでいるとなれば、おっぱいが憎たらしくもなるだろ!
イイおっぱいっていうのはな、恥ずかしがり屋で謙虚な持ち主あってこそなんだよ!」
「ばーか!おっぱいに性格の良さを求めるなんてゼータクだっつうの!
見飽きたなんて云える自分が、どれだけ恵まれているか、分かってねえな!
こちとら、シングルファーザーで男兄弟、女っ気がないし、縁もないんだ!
逆にウチは親父も幼い弟も、なにかとマッパになって、家をうろついているから、男の裸は見飽きてる!
女に比べて、どんだけキタナイもんか、いやというほど知ってたら、舌打ちもしたくなるだろ!」
途中から俺は喚きだし、沖野も叫びだして、まわりに筒抜け。
が、互いに互いしか目がなく、さらなる爆弾発言を投下。
「おまえこそ目が節穴だ、バーカ!
俺は男でも、毛が薄いし、キレイ好きだから、そこらの野郎より清らかな裸してんだからな!
とくに尻の豊満さと、柔らかさ、肌のすべすべ感は女顔負けだ!
すくなくとも姉貴のおっぱいより、カワイゲがある!
なんたって、しょっちゅう電車で痴漢されるくらいだ!
ちなみに、姉貴は痴漢されたことねーし!」
「バーカ!なにネーチャンと張りあってんだよ!
男のケツなんか、女のおっぱいより尊いわけ・・・」
「ああ、そうかよ!だったらその目でタシカめてみろ!」
叫ぶや否や、首の絞めつけを解き、背を向けて、ズボンを下ろした。
まわりは、どよめいたものの、案外、沖野は静かで、ピカイチのおケツを見入っているよう。
「ふっ、どーだ!
まだ、男の体はキタナイとか、ほざくか?」
「く・・・!」と口惜しげに呻いたのに「勝った!」と鼻で笑ったのもつかの間。
思春期の助平根性を舐めていた。
「もう、男でもいい!触らせろ!」とヤケクソになった沖野に、尻をつかまれて揉みしだかれて。
「うぎゃああああああ!」と絶叫して、もちろん逃げたものを「おまえが煽ったんだろうがあ!」と尻に顔を突っこみそうな勢いで追撃。
さすがに、まわりが見かねて、沖野をとりおさえ「おまえ、早退しろ」と俺を避難させた。
思春期の性衝動をこじらせた沖野も沖野だが、結局、俺もなにがしたかったのか・・・。
すっかり我に返って、とぼとぼと家に帰ったものの、騒動はこれで済まず。
その日の夕方、風呂に入って、なにげなく窓を見たら人影が。
すり硝子越しだから、誰なのか分からないとはいえ、沖野としか思えず。
うかつに人前でケツをさらすもんじゃないなと、後悔先に立たず。
これからずっと、風呂場の窓に人影を見ることになるかもしれない・・・。
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