死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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きらいすぎて無視できない

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「はやくカワイイお嫁さんと、カワイイ孫が見たいわあ」

そう母親は息子にプレッシャーをかけがちとはいえ、男子高生に毎日、聞かせることではないと思う。

まあ、しかなたいかと、半ばあきらめているが。

なにせ父は歌舞伎役者、母は元女優にして、俺は一人息子。
俺が生まれるのが遅かったうえ、幼いころは病弱だったことから、かなり周りから脅され、責められ、蔑まれたらしいので。

すっかり強迫観念にとらわれ、世継ぎについては「よ」と聞いただけで、ヒステリックになるかノイローゼになる。

だからって、まだ高校生の俺に「カワイイお嫁さん、カワイイ孫」口癖攻撃をしてくるのは、いかがなものか・・・。

うんざりしつつも「将来のことは、分からないよ」と返そうものなら自殺しかねなく、顔色をうかがうしかなく。
母の口癖がひどくなってきた中学二年ごろから、絶えず交際を。

さすがに母もガチで、未成年の結婚を望んではいない。
業界的にスキャンダルはけしからんし、お家としては、未成年でデキ婚なんて体裁がよくないし。

じゃあ、どうして、気がはやくプレッシャーをかけてくるのか。

異性に関心があり、そこそこモテて、人並みに助平という、健全な男子なのをカクニンしたいからだろう。
そのまま成長すれば、とどこおりなく結婚し、順調に子持ちの家庭を築けるだろうと思って。

「同性がスキ」「恋愛に興味がない」なんて態度を示そうものなら、発狂もの。
ただ、母の満足基準はさほど高くない。

彼女をつくり、一回、紹介して、そのあと定期的に報告するだけでオーケー。
「あの子、どうなの?」とぐちぐち、ケチをつけないし「今からお嫁修行を」などと干渉をせず。

とあって、偽装交際しやすかったものの、問題が二つ。

一つは俺が惚れやすいこと。

母の目をゴマカスため「高校三年間だけ」と割りきろうとするも、交際一か月で早くも「このまま、将来、結婚してもいいかも」とお熱になる。

それだけなら「高校から交際して五年後くらいに結婚」なんて母にとっては理想的だから、いいとして、問題は二つ目。

大体、三か月で別れることになる。

俺がフルわけでも、彼女がフルわけでもない。
いや、形としては彼女にフラれるのだが、原因は「ほかにスキな人ができた」といつも同じ。

ほかにできたスキな人も、じつは毎回、同じ。
一つ下の俺の幼馴染、タケトだ。

近所の大豪邸に住む、大手製薬会社の息子。

といって、俺とちがい、三人兄弟の末っ子とオキラクな立場。
でもなくて、どうも家に居場所がないらしく、幼いころは、俺の家にいり浸っていた。

一人っ子にして、兄弟姉妹がいる家庭に憧れていた俺は大歓迎。
弟のようにカワイがっていたのが、俺が高校にあがったとたん、タケトは寄りつかなくなり。

寂しがっていた矢先、初交際の相手にフラれて。
落ちこんでいた矢先、街で元交際相手がタケトの腕を組んでいるのを目撃して。

そのときは「ああ、世間は狭いんだな」と嘆いただけなのが、以降、同じことが起きつづけ、偶然と片づけられなくなった。

タケトは、俺の彼女を奪っている。

憎しみや恨みのためと考えるのが妥当だろう。

「ええ?俺、タケトと恋愛でトラブったことないけど?」とまるで心当たりがなく、そりゃあ、タケトの内心を知りたかったとはいえ、臆病な俺は聞けずじまいで、彼女を奪われっぱなし。

すこしまえまで、目に入れてもイタクないとばかり、愛でていた弟のような存在だ。
完全に縁を切りたくなくて、はっきりさせるのに、どうしても踏みきれない。

かといって、怒りや不服がないでもなかった。
年下に彼女をほいほい奪われては、男としてプライドが傷つくというもの。

そうして、鬱屈をためこみ、とうとう堪忍袋を緒をきらす事態に。

あたらしく彼女をつくり、交際三か月目に差しかかろうとしたとき。
「そろそろかなあ」と思ったところ、まさに彼女から電話。

が、ワカレバナシを切りだされることはなく、彼女が泣く泣く訴えたことには。

「タケトくんって子に、告白されて断ったのに、すごく、つきまとわれたの・・・。
いい加減にして!って怒ったら、襲われて・・・!

なんとか逃げたけど、わたしコワくて、コワくて・・・」

彼女のブジをたしかめ、なだめて慰めて、電話をきってから、家を跳びだした。
もちろん、行き先はタケトの住む大豪邸。

玄関を通りすぎ、家と家の狭い隙間にイン。
奥にいけば、高くそびえる壁に穴、幼いころに使っていた抜け穴があるに、くぐって、タケトの部屋へと。

部屋には明かりが。
石をぶん投げたいところ、こらえて、昔のように窓に三回ノック。

「俺がきたぞ」との合図なれど、果たして、二年の空白があって、応じてくれるのか。

すこし不安がりつつ「ダメだったら窓を石で割ってやる!」と鼻息荒くしつつ、そう待たないで、窓は開けられて。

あっけなく顔をだしたのに、拍子抜けしたものの、いざ向きあえば「どのツラさげて!」と逆上して、すかさず両手で胸ぐらをつかんだ。
引きよせながら、跳びあがって、顔面に頭突き。

すぐに胸ぐらを放し「ぐがあ!」と倒れさせる。
だけで済まさせるわけなく、窓から部屋に跳びこむと、仰向けのタケトに馬乗りし、再度、頭突きするように迫った。

「俺がキライで、俺にイヤガラセするだけなら、まだいいけど、彼女を傷つけるな!

それが我慢できないほど、俺がキライってんなら、いっそ、面とむかって、ぶちまけろよ!」

手加減なく怒り心頭に叫んだのに、タケトは目を丸くしたまま。

人の彼女を奪って食いちらかす、悪趣味な下衆野郎らしからず、あどけなくも見えるに、つい言葉をつまらせる。

「あの無邪気な犬コロみたいなタケトが、まさか・・・」とこの期におよんで、心揺らすうちに「どうして」と問われて。

「二年近く、やられ放題だったのに、今になって怒るの?」

「へ?」と意表を突かれたところで、さらに隙を突かれ、ごろんと形勢逆転。
押し倒され、タケトに迫られる形に。

「怒っている理由は、ほんとうに彼女が泣かされたこと?」

至近距離で目をあわせ、問いつめられては、生唾を飲みこむことしかできず。

いや「当たり前だ!」と即答できないワケでもあるのか?

自問するばかりで、答えはだせず、頭を混乱させるばかり。

返り討ちにあい、縮みあがっているようなのを、タケトは笑うことなく、問を畳みかけもしないで、手を伸ばした。
俺の頬に、そっとテノヒラをあてて、そっと撫でてて。

またも予想外の出方に、ぎょっとしつつ、思わず「タ」と口を開こうとしたら、とたんに手をひっこめて立ちあがり。

腰がぬけたようで、俺は倒れたまま、目で追いかけるも、背を向けられた。

長くため息をついてから「あんたのことは、キライでない」と云い、すこし間を空けて、告げたもので。

「でも、彼女を奪うのはヤメナイ」

やっとタケトに抗議しにいったというのに、そのあとも相変わらず。

被害を受けたはずの彼女とは「心配かけてごめんね。やっぱタケトくんとつきあうことになったから」と結局、オサラバ。

「どういうことだ!」とそりゃあ、嘆いたし、タケトとのケンカ(というのか、あれは)で心乱されとなれば、偽装交際するのに疲れて、一旦やめようかと思ったが、母のプレッシャーに抗えず。

すぐに彼女をつくったものの、やっぱり三か月後、タケトに奪われて。

シカエシや復讐をしているなら、悲しくツラくも、まだ心情が理解できる分、悩まなくていい。

「キライではない」なんて宣言して、とことん俺を惑わしやがって。
逆にイジワルではないか?

そこまで年下にコケにされ、弄ばれては、我慢ならず許せない。
が、皮肉なもので。

「あんなヤツ、キライだ!」と頭をかっかとさせるようになり、まえより、タケトを意識するようになって。
そのたびに思いだしてしまう。

押し倒されたとき、頬に触れたテノヒラの、異常な熱さを。

これまで彼女を触り、彼女に触られたこともあるが、味わったことのない熱。

「タケトなんか・・・!」と歯噛みしつつ、頬に染みついたようなそれを、疼かせてやまなかった。




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