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井の中の蛙の逆襲①
しおりを挟む俺がトレーナーを務める大学陸上部。
全国大会出場、上位に食いこむ選手が多く在籍。
強豪の大学の一つに数えられながらも「駆けこみ寺」と呼ばれている。
というのも、ぶっちゃけ、ほとんどの選手が落ちこぼれだから。
オリンピック選手を輩出するような一流の大学陸上部で、居場所をなくした大学生を受けいれてのこと。
理由や事情はさまざまだが、たいていは己が「井の中の蛙」だと思い知らされ、挫折した選手たちだ。
彼らが転学しやすいよう、敷居を低くし、大々的に「受け皿になるよ」と呼びかけているのが我が大学というわけ。
「人生いろいろ。
一回つまづいただけで『おれは、もうダメだ』と決めつけるのはもったいない」
そう人生論を熱く語る学長なれど、たんに慈悲深い救い主というわけでもない。
あくまで大学運営のため、打算があってのこと。
学生をあつめる看板が欲しいも、資金力や人員が足らない。
たとえば、陸上部なら、目ぼしい高校生をスカウトできない。
ので、競争率が高い他大学から、こぼれ落ちてくるのを、網を張って待っていようと。
それなら、あまり金も手間暇もかからないし、選手には「ありがたやー」と拝まれるし。
「挫折した若者に再チャレンジを」との方針を掲げるに、大学のイメージもよくなるし。
その代わり、全国大会一位には至らず、箱根駅伝への出場も叶わず、跳びぬけての好成績はおさめられなかったが。
「ナンバーワンにならなくてもいいって、元国民的アイドルも歌ってたじゃないか!
入賞するだけで、大学の名前が、人の目につくんだから、それでオッケー!」
大学運営のためと割りきる学長は、でも、ワルイ人ではない。
プロで食っていけるレベルではない選手らが、大学卒業後、べつの道にすすめるよう徹底指導。
おかげで彼らは、世界的有名選手やオリンピアになれなくても、つきそうスタッフとして貢献したり、スポーツ界で幅広く活躍。
そうやって、彼らが就職するまで、とどこおりなく過ごせるよう、面倒を見るのが俺の仕事だ。
俺もまた、元落ちこぼれ。
大学にあがり、まんまと井の中の蛙心境に。
「なんのその!」とガムシャラに励んだ結果、大ケガをして、選手生命が絶たれた。
が、トレーナーに「手伝ってくれ」と頼まれ、サポート役に。
フコウ中のサイワイというか、おかげでトレーナーとしての才能に目覚めたもので。
とくに秀でていたのは、トレーナーの仕事の一環、体調管理。
体調不良や、肉体疲労、筋肉、骨、関節、各所の異常。
選手が無自覚だったり、訳があって隠そうとし、気づきにくいそれを、俺は絶対に見逃さないのだ。
おかげで、はやくケアや調整ができて、なにより、オオゴトにならない。
俺のように選手生命が断たれるか、あとの人生を車いすで過ごすなんて参事になるのを避けられるわけ。
まさに我が大学は、選手の現役より将来を気にかけているから。
そのサポートするのに、俺はうってつけなわけ。
もし、励めば一位になれるかもしれないのを、ブジに競技活動を終えることを優先し、ストップをかける。
極端にいえば、そんなやり甲斐のない仕事だが、俺は気にいっている。
門外漢のお偉いさんに「選手の成績を上げろ!」と尻を叩かれるほうが、メンドウでダルイし。
俺と同類の落ちこぼれ選手は、愛しかったし。
「ぬるま湯につかったままでいいのか?」
「学長にいいように利用されているだけだ!」
まわりに苦言され、忠告されるも、聞き流して、これといって不平不満を抱くこともなく、せっせと落ちこぼれたちの世話を焼いていたのだが。
落ちこぼれの駆けこみ寺にして青天の霹靂。
高校の国体優勝六連覇、世界ジュニア大会優勝をしたスーパー高校生、早馬(そうま)が、なんと我が大学陸上部に。
もちろん、スカウトをしていない。
大学に親せきや知りあいがいて、呼びよせたというわけでもない。
早馬が、我が大学を選んだワケは、まるで分からず。
入部してからも、早馬は打ちあけなかったが、すぐに落ちこぼれチームに溶けこんだ。
「スーパー高校生」「日本代表候補」とさんざん、もてはやされたはずが、天狗にならず、気どりもせず。
快活で人懐こく、同級生と寮でフルチンで走るなど、年並にバカもやる。
一方で練習や大会では、ほとんど笑わず、人一倍トレーニング量をこなし、どんなときでも手をぬかない。
自分にキビシクても、人にはヤサシク、仲間思い。
プライベートではバカ騒ぎをしても、場所や立場をわきまえ、礼儀正しくふるまうから、大人受けもいい。
つまり天才にして努力家で賢くもお茶目と、非の打ちどころがない。
はじめは引け目を覚えて「なんで駆けこみ寺なんかに?」と訝っていた監督も選手も、今やすっかり「家族の一員よ!」とばかり打ちとけて。
たぶん、俺だけが鬱屈としていたと思う。
正直にいえば、嫉妬。
まあ、過去のトラウマもあってのこと。
大学時代、俺を挫折させたのが、まさに早馬のようなヤツだったから。
才能に恵まれつつ、驕り高ぶらないで、ストイックに競技活動に励むという。
感嘆する、スバラシイ人物だったが、歯噛みしないでいられなかった。
「才能に恵まれなくて、努力するしかないヤツはどうしたらいいんだ・・・!」と。
才能と性格のよさ。
どちらも持ちあわせるヤツに、片方しか持たないヤツは、どうしたって追いつけず、追い越せないではないか。
せめて性格がワルければ、片方にも希望があるのに。
ズルい。
いい大人になっても、口惜しいのは変わらないらしい。
まあ、落ちこぼれ選手にかこまれ、たしかに、ぬるま湯につかっていたから、そういう精神的な成長ができなかったのだろう。
それでも、大人だし、トレーナーの立場上、早馬をイジワルく不当に扱ったりはせず。
ほかの選手相手と同じように、仕事をこなしつつ、個人的に接触しないよう気をつけた。
が、監督や選手には悟られなかったものの、スーパー陸上マンの目はゴマカセなかったようで。
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