死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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おれは大人でかれは子供①

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俺はインポらしい。

そう気づいたのは、就職して一年目のこと。

それまで恋人がいなく、童貞だったのを、さほど焦らず気にせずいたところに、会社のマドンナから告白。

容は月並みだし、筋肉も自慢できるほどないし、親が資産家でもない俺のどこがよかったのか。
周りも、俺も、首をひねりまくり。

「まあ、いい加減、色恋のひとつくらい経験しておいたほうがいいのかも」と思い、ツキアウことに。

「経験」と捉えるあたり、初交際にさほど浮き足立っていなかったのだが、マドンナのほうは積極的で、初めてのデートでホテルへと引っぱっていって。

で、俺がタタなかったわけ。

自分でするときはタツが、本番ではタタないらしい。
童貞卒業間近で発覚したのに「あーそうなのかあ」と俺は呑気でいたものの、マドンナはそうもいかず。

彼女のプライドを相当、傷つけてしまったらしい。

翌日、出勤したら、すっかり俺はゲイにされていた。

「あいつはゲイなのを隠すために、注目されやすい、わたしと交際したのよ!

わたしの純粋な恋心を利用して、踏みにじった、風上にも置けないゲイなんだから!」

彼女が喧伝したのが、会社つつうらうらに知られてしまい。

世の中では「多様性」が声高に叫ばれているが、実際につきあうとなると、まわりは困るというもの。

冷たくされたり、イジメられたり、されなかったが、むしろ委縮されたり、やたら気をつかわれたりが面倒くさくて、会社を辞めた。
初デートから三日目で。

「女運がないのかもなあ」とぼきやきつつ、交際したことを後悔せず、会社に未練もなく。

入社して働きづめだったので「しばらく、のんびるするか」とたまっていた家事をやったり、近所をぶらぶらしたり。

働き盛りの若い男が、日中、住宅街をふらつくなんて、さぞワル目立ちしただろうが、かまわず、駄菓子屋に毎日通いづめ。

店主の恵比寿さまのようなバアチャンとは、すぐに親しくなり、そのうち「施設に入ることになったから、店を継いでくれないか」と頼まれた。

だらだら日常をすごすのが板について「会社勤めにもどるの、だるー」と転職先を探す意欲を枯渇させていたから、ちょうどいいと思い二つ返事でOK。

もちろん前職より、収入は減ったとはいえ、一人で食っていくには十分。
駄菓子屋は自宅兼とあって、あまり生活費はかからなかったし。

肝心の商売相手、子供たちのウケもワルくない。

客商売といっても、俺はいつものように愛想がなく気だるげ。

「いつも、眠そー」と子供らは笑いながらも、万引きをするとか、年下の子から金をまきあげるとか、店内で舐めた真似をしない。

子供相手の商売だからこそ、馴れ馴れしすぎず「すこしコワイ」と緊張させるのがキモだ。

年のはなれた弟と妹がいて、親代わりをしていたから、そこらへんのさじ加減は心得ている。

悪ガキの男子には「いざとなったら、ゲンコツを食らわすぞ」と威圧しておく。
女子は男子ほど手がかからず、敵に回したほうが厄介だから、心もち物腰柔らかく。

それらのコツを押さえて、問題なく駄菓子屋を営んでいたのが、ある日のこと。
店に入ってきた男子が、駄菓子に目もくれず、こちらをまっすぐ見据えたまま、告げた。

「ぼくを見て、タチますか?」

その発言内容についてより「天馬くんだ」「天馬くんも、こんな店にくるんだ」と名をあげて、ざわめく周り。

気にせず、彼が俺を見つめたままでいるのに、空気を読んだ子供らは店外へと。

「なんだなんだ」と呆気にとられながらも、子供が全員でていってから応じる。

「タタないけど・・・なんで、そんなこと聞くの」

「男は相手がスキだとタツって、教えてくれたんです。
いっしょに仕事をした大人が」

「仕事?大人?」と眉をしかめて、ああ、と思いだす。

かなり前に、店にきて「うわ、こんなに安くて、商売成り立つの!?」とはしゃいだヤツ。

ほかの子よりバツグンにあか抜けて、その発言にしろ子供らしくなく、ぶっちゃけ「鼻持ちならないガキ」と思ったものの、まあ、一応、大人として弁えて。

大人しく、注文してくるのを待ったところ、ほざきやがったのだ。

「こんなに安いなら、すべて買っても、オコヅカイが余りそうだ!
あ、棚にあるものすべて、もらえますか?」

聞いたとたん「は?」と立ちあがったもので。

「あんまり舐めた口叩くとぶん殴ってやるからな。
駄菓子が欲しいだけなら、ネットでいくらでも買えってんだ、ボケ。

ほかのヤツのタノシミを奪うことになるのも分かんないのか?
躾のなっていないクソガキが」

大人気なしマックスにこきおろしたのを、すぐには飲みこめなかったらしい。

長いこと、ぽかんとして、泣くか怒りだすかする前に、背広の男が店内に駆けこんできた。
「すみません!」と頭を下げて、口を開けたままのソイツを抱えて退店。

「あれ?天馬くん、きてたんだ」

「あの人、マネージャーさん?」

「たしか、今日、ドラマ撮影じゃなかったっけ?」

周りが、わいわい云うのを聞いて「典型的な図にのった天才子役か」と察しがついた。

ふだん、テレビを観ないから、知らんが。
知ったところで、どーでもよかったが。



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