死んでもお前を愛さない

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
19 / 33

俺の友人の弟はポチ

しおりを挟む




帰り道、友人宅に寄ったときのこと。

ゲームを貸してくれるというので、門の前で待っていたら「じゃあな!ポチ!」と聞こえた。
ふりむけば、友人の弟、キュウゾウが「うん!じゃあね!」と手をふり、俺のほうへ。

「あ、センダイさん、こんちわ!」

笑顔元気百パーセントに挨拶されて「お、おう、こんちわ」と後ずさって、道をゆずる。

俺の顔がひきつっているのに、気づいているのかいないのか。
愛想百パーセントをふりまき「ただいまあ!」と扉の向こうに跳びこんでいった。

ぽかんとしているうちに「たく、うるせえなあ」と苦笑して友人登場。

俺と向きあい「どうした?」と聞いてくれたので「いや・・・」と口ごもり、でも、真っ向から切りだす。

「キュウゾウ、イジメられているのか・・・?
トモダチに『ポチ』って呼ばれてたぞ」

大真面目に心配したのだが「ああ!あれなあ!」と笑いとばされて。
曰く「あいつ、小柄なのに、すっごい大食いなんだよ!」らしい。

「このごろ、どんだけ食っても、お腹でないし、満腹にならないようでさ。
成長期に入ったせいかとも思ったけど、太らなければ、身長も伸びないから、不思議なんだよ。

まあ、そんな空腹感はなくて、ずっと食べていないと我慢できないってわけじゃないらしい。
だから家じゃあ、家計を気にして、すこし多めに食事するくらい。

ただ、ほら、中学は給食だろ?
余った分や、食べれない子の分とか、全部、どんだけの量でも食っちまうもんだから、周りが騒ぎだしてさ。

そしたらトモダチの一人が『家のポチみたいだ』って云いだしたんだよ。

そいつの家にいる犬のポチは、餌やおやつはもちろん、野菜の切れ端、キャベツの芯でも、なんでも尻尾をふって、がっつくそうでさ。
そのポチにそっくりなんだって。

『味オンチの馬鹿犬』っていうイメージで、キュウゾウのあだ名が『ポチ』になったけ。

俺も弟がポチ呼ばわりされているのを初めて聞いたときは、ぎょっとしたけど、実際アーンしてもらっているとこ見たら、イジメではなさそうだった。
なにせ、女の子にもアーンしてもらってたし。

また、あいつ、うっまそうな顔して食うんだよ。
『味オンチの馬鹿犬』って愛をこめて呼びたくなるのも、分かるっていうか」

最終的にブラコン的に惚気たから、大丈夫なのだろう。

はじめは本当に深刻に受けとめていたのが、ただ、聞くうちに興味が湧いてきた。

俺もポチに餌づけをしてみたいと。

とはいえ、キュウゾウとは親しいわけではない。
顔を合わせれば、挨拶をするくらいで、それ以上、会話したり遊んだことはないし。

餌づけしたいとの下心ありきで、友人を介して、近づくのもなあ・・・。

ポチに恋焦がれる一方で、手をこまねいていたのが、ある日、絶好のチャンスが訪れたもので。

友人宅の居間でゲームをしていたとき。
急に腹を抱えて、駆けこんだトイレから、なかなか友人がもどってこず。

大画面を一時停止させたまま、ぼうっとしていたら「たっだいまあ!」とキュウゾウがやかましく帰宅。

居間に入ってきて「あ、センダイさん、ちわあ!」と無邪気百パーセントに挨拶し、あたりを見回したので「お母さんは買い物、ニーチャンはトイレに籠り中」と説明。

「そっかあ!トイレ臭くなるなあ!」と笑いながら台所にいき、冷蔵庫を開けた。
ため息をついて、すぐに閉めて、棚も覗いたようだが、またため息。

肩を落として居間をでていこうとしたからに、食料探しは惨敗だったらしい。

「ポチ」のあだ名を知っているせいか。
耳と尻尾を下げて、とぼとぼ歩く哀れな犬のように見え、胸がきゅん。

とはいえ、テーブルにある入れ物の中は空っぽ。
すこし前まで、ほかほかのコンビニのから揚げが詰まっていたのが。

「いや、これチャンスなんじゃね?」と思い直した俺は「キュウゾウ」と呼びかけ、入れ物を持ちあげてみせた。

とたんに、ご主人様見つけた!とばかり目を輝かせるキュウゾウこと、ポチ。

入れ物に指を突っこみ、掲げたのに、すかさずソファの背もたれから身を乗りだし、ぱくり。

が、指を噛んだのに驚いたらしく、硬直。
舌で探るようにしてから、目を見開き、跳び退った。

口元を手でおおって、みるみる顔を赤くしていって。
耳まで染めあげたら「ご、ご、ごめんなさーい!」と居間を跳びだし、すこしもせず二階から、ばあん!とけたたましい音を。

頭上で扉が叩きつけられたのに、肩を跳ねつつ、手を掲げたまま、呆ける俺。

しばらくして、やっとトイレから脱出した友人に「どうしたの、何があった?」と聞かれても、なかなか応じられず。

代わりに頓珍漢な注意をしたもので。

「・・・よく知らない人から、食べ物をもらっちゃだめだって、きつく云っておけよ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

202号室の雨

甲池幸
BL
そばにいるからすり減って、あなたがいるから幸せだった

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

陽キャの廣川くんは策士かもしれない

井之ナカ
BL
高校二年生の香村健臣はクラス委員の優等生だ。 二年で初めて同じクラスになった陽キャの廣川七瀬に何故か毎日口説かれ続けている。 そのせいでいつの間にか外堀が埋められつつあるような気がして……。 明るいラブコメ短文集。 ※修学旅行編完結!9月に同人誌で頒布予定

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

【BL】記憶のカケラ

樺純
BL
あらすじ とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。 そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。 キイチが忘れてしまった記憶とは? タカラの抱える過去の傷痕とは? 散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。 キイチ(男) 中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。 タカラ(男) 過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。 ノイル(男) キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。 ミズキ(男) 幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。 ユウリ(女) 幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。 ヒノハ(女) 幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。 リヒト(男) 幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。 謎の男性 街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

処理中です...