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俺の友人の弟はポチ
しおりを挟む帰り道、友人宅に寄ったときのこと。
ゲームを貸してくれるというので、門の前で待っていたら「じゃあな!ポチ!」と聞こえた。
ふりむけば、友人の弟、キュウゾウが「うん!じゃあね!」と手をふり、俺のほうへ。
「あ、センダイさん、こんちわ!」
笑顔元気百パーセントに挨拶されて「お、おう、こんちわ」と後ずさって、道をゆずる。
俺の顔がひきつっているのに、気づいているのかいないのか。
愛想百パーセントをふりまき「ただいまあ!」と扉の向こうに跳びこんでいった。
ぽかんとしているうちに「たく、うるせえなあ」と苦笑して友人登場。
俺と向きあい「どうした?」と聞いてくれたので「いや・・・」と口ごもり、でも、真っ向から切りだす。
「キュウゾウ、イジメられているのか・・・?
トモダチに『ポチ』って呼ばれてたぞ」
大真面目に心配したのだが「ああ!あれなあ!」と笑いとばされて。
曰く「あいつ、小柄なのに、すっごい大食いなんだよ!」らしい。
「このごろ、どんだけ食っても、お腹でないし、満腹にならないようでさ。
成長期に入ったせいかとも思ったけど、太らなければ、身長も伸びないから、不思議なんだよ。
まあ、そんな空腹感はなくて、ずっと食べていないと我慢できないってわけじゃないらしい。
だから家じゃあ、家計を気にして、すこし多めに食事するくらい。
ただ、ほら、中学は給食だろ?
余った分や、食べれない子の分とか、全部、どんだけの量でも食っちまうもんだから、周りが騒ぎだしてさ。
そしたらトモダチの一人が『家のポチみたいだ』って云いだしたんだよ。
そいつの家にいる犬のポチは、餌やおやつはもちろん、野菜の切れ端、キャベツの芯でも、なんでも尻尾をふって、がっつくそうでさ。
そのポチにそっくりなんだって。
『味オンチの馬鹿犬』っていうイメージで、キュウゾウのあだ名が『ポチ』になったけ。
俺も弟がポチ呼ばわりされているのを初めて聞いたときは、ぎょっとしたけど、実際アーンしてもらっているとこ見たら、イジメではなさそうだった。
なにせ、女の子にもアーンしてもらってたし。
また、あいつ、うっまそうな顔して食うんだよ。
『味オンチの馬鹿犬』って愛をこめて呼びたくなるのも、分かるっていうか」
最終的にブラコン的に惚気たから、大丈夫なのだろう。
はじめは本当に深刻に受けとめていたのが、ただ、聞くうちに興味が湧いてきた。
俺もポチに餌づけをしてみたいと。
とはいえ、キュウゾウとは親しいわけではない。
顔を合わせれば、挨拶をするくらいで、それ以上、会話したり遊んだことはないし。
餌づけしたいとの下心ありきで、友人を介して、近づくのもなあ・・・。
ポチに恋焦がれる一方で、手をこまねいていたのが、ある日、絶好のチャンスが訪れたもので。
友人宅の居間でゲームをしていたとき。
急に腹を抱えて、駆けこんだトイレから、なかなか友人がもどってこず。
大画面を一時停止させたまま、ぼうっとしていたら「たっだいまあ!」とキュウゾウがやかましく帰宅。
居間に入ってきて「あ、センダイさん、ちわあ!」と無邪気百パーセントに挨拶し、あたりを見回したので「お母さんは買い物、ニーチャンはトイレに籠り中」と説明。
「そっかあ!トイレ臭くなるなあ!」と笑いながら台所にいき、冷蔵庫を開けた。
ため息をついて、すぐに閉めて、棚も覗いたようだが、またため息。
肩を落として居間をでていこうとしたからに、食料探しは惨敗だったらしい。
「ポチ」のあだ名を知っているせいか。
耳と尻尾を下げて、とぼとぼ歩く哀れな犬のように見え、胸がきゅん。
とはいえ、テーブルにある入れ物の中は空っぽ。
すこし前まで、ほかほかのコンビニのから揚げが詰まっていたのが。
「いや、これチャンスなんじゃね?」と思い直した俺は「キュウゾウ」と呼びかけ、入れ物を持ちあげてみせた。
とたんに、ご主人様見つけた!とばかり目を輝かせるキュウゾウこと、ポチ。
入れ物に指を突っこみ、掲げたのに、すかさずソファの背もたれから身を乗りだし、ぱくり。
が、指を噛んだのに驚いたらしく、硬直。
舌で探るようにしてから、目を見開き、跳び退った。
口元を手でおおって、みるみる顔を赤くしていって。
耳まで染めあげたら「ご、ご、ごめんなさーい!」と居間を跳びだし、すこしもせず二階から、ばあん!とけたたましい音を。
頭上で扉が叩きつけられたのに、肩を跳ねつつ、手を掲げたまま、呆ける俺。
しばらくして、やっとトイレから脱出した友人に「どうしたの、何があった?」と聞かれても、なかなか応じられず。
代わりに頓珍漢な注意をしたもので。
「・・・よく知らない人から、食べ物をもらっちゃだめだって、きつく云っておけよ」
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