死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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猫に懐かれないあなたが好き

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友人の飼い猫、トラオは野性味にあふれている。人に近寄らない、触らせない、触ろうとすれば、牙を剥いて威嚇をし、パーソナルスペースに侵入した不届きものには、切っ先きらめく刃物をふるうよう、強烈な猫パンチを。

友人の証言によると、隙ができそうなとき、餌を食べる、水を飲む、トイレをする、毛づくろいは、家人が見ていると、決してしないのだとか。CMでおやつをペロペロするなんてもってのほか、寝顔も見せないのだとか。

そこそこの動物ズキな俺も、初対面でライオンが凄むように睨みつけられ、怯んだものだが「なあ、この殺気立つ顔がかわいいだろお!」と盲目的猫ラブな友人はめろめろ。高い棚から、蔑むように見下ろされても、跳び退って大袈裟に避けられても、うんちをまき散らされても、Tシャツをずたずたに裂かれても「もう、まいっちゃうなあ!」と目じりを下げて、へらへらしぱなし。

怪我をしたのを助けて三年、すこしも懐かず、恩を仇で返すように攻撃的な態度をあらためず。鬼のような形相で身がまえられても「かわいいかわいい」と溺愛する友人は、でも、不意をついて抱きしめて頬ずりするような、強引なアプローチをしなかった。

トラオが神経を尖らせ、過剰に警戒をするのを、できるだけ尊重してあげ、廊下のど真ん中を歩くのに、壁に張りついて道を開けるなど、どちらが飼い主なんだとツッコみたくなるほどの気の使いよう。とはいえ、いくら気をつけていても、事故は起こる。

友人の部屋で酒を飲んでいたとき。すっかりできあがって「もうやってらんねえよ!」と高笑いしながら、大きな身ぶりをして。

ちょうど、足音を立てずに部屋に入ってきたトラオの髭先に、その指がかすめたらしい。「シャー!」と聞こえて「え?」と思ったのもつかの間、友人が俺に跳びついて、そのまま共共、床に倒れた。

突然、狼に豹変した男に襲われた女子のような気分になったのも一瞬のこと。つい先の威嚇の声を思い起こして見やれば、そばでトラオが猫パンチをくりだした格好のまま硬直。近くには半そでで剥きだしの腕があって、三本の爪痕と滴る血が。

友人の腕に消毒液を塗り、ガーゼを当てながら「ワルイ。酔っていたとはいえ、トラオの配慮を忘れちゃいけなかったな」と謝ると、首を振られた。

「トラオは人への恐怖が拭えないようだけど、人を傷つけたくはないんだ。猫パンチをしたり、噛んでくることはあっても、こちらが避けるのを見計らってのタイミング、距離感、速さでやるから、俺らが傷を負ったことは一回もなかった。

今回はしかたなかったとはいえ、それでも、トラオが望まないことを、させたくはなかったから。余計なお節介なだけだし、俺のエゴだよ」

「トラオを庇うためで、俺のためではないのか」と引っかかりを覚えたものの、身代わりに負傷した友人を前にして、抱いていい感情でなく思え、一旦保留。そのあとはしんみりと酒を飲みかわし、そのまま炬燵で二人ともお寝んね。

ふと目が覚めると、部屋は暗かった。照明をつけっぱなしだったはずが、部屋を覗いた家人が呆れつつ、声をかけないでスイッチを切ってくれたのだろう。

まだ夜明けでなないようで、寝て一、二時間くらいか。時間をたしかめたく、スマホをさがして、気だるく顔の向きを変えたところ、またもや思いがけず、トラオが。

俺から背を向けて座るトラオ。炬燵に突っ伏す友人の背中に尻をくっつけ、腰のあたりを撫でるように尻尾をゆらゆら。

「なんだ相思相愛じゃねーの」と笑うより、むっとしたのは嫉妬してのこと。あらためて、そう自覚をしつつ、一人と一匹の夜ふけのひそやかな逢瀬を邪魔せずに、ぼうっと眺めながら、安らかに眠りについたのだった。




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