死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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オフィスラブは突然に・セカンド

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俺の会社には七不思議がある。その一つが会社一の色男、シキマに恋人がいないこと。

目がつぶれそうに輝かしい容姿端麗にして、気品があれば知性もあるシキマは、大学中の人を虜にハーレムにしていたとか。自分の優位性を鼻にかけずとも、自分より劣るそのほか大勢をを見下して、冷淡にふるまうのをはばからず、それでも「シキマさま・・・!」と許されるというか、よろこばれるような性質をしていた。

そりゃあ、会社でも「むしろ蔑まれるのを望む!」「弄んでゴミのように捨てられたい!」と同僚から先輩、上司、幹部まで、男女問わずに心乱したものだが、新入生歓迎会での自己紹介のとき。シキマはマイクを受けとると、意外すぎる宣言を。

「俺は今、片思いしています。おそらく、長いこと結ばれることはないでしょう。

それでも諦めません。なにがなんでも諦めません。この決意は固く、告白やアプローチされても困るだけなので、そこらへん理解してください」

真顔で滑舌よく片思い宣言をしたのが冗談ではなさそうだったものを「まさか」と誰もが真に受けず。それから一か月経っても、シキマ自ら誰かに云いよることも、云いよられて飲むこともなく。

会社では色恋を持ちこまないのか。外でハーレムを作っているのか。と思われたが、朝から晩まで息つく間もなく仕事で走りまわり、休日出勤もするのに、恋愛に現を抜かす暇はなさそう。

それから五年間、自主的な馬車馬のような働きぶりは変わらず、一回も社内恋愛の噂も立たないまま。「新入生歓迎会での宣言はマジ本気らしい」と周りが認めだしたら「じゃあ、お相手は?」と気になるところ。

会社に尽くすような献身的働きからして、社内にいるのには違いない。となれば、上司以上の人物。会社一の美貌てもってして、五年も射落とせないなら、既婚者の可能性高し。

おおよその目星をつけながらも、シキマはしれっとしたもので、頬を赤らめるとか、見惚れるとか、一切ぼろをださず特定までには至らず。「誰だ誰だ」と悶悶としつつ「俺か?」「私かも?」とほんの期待を胸に働く日々。

あるとき、システムがダウン。復旧作業のため会社に居残り、深夜一時になって、ようやく目途が立ち仮眠。

「明日は新商品発表なのにいい!」とてんやわんやに泣きながら作業に勤しんでいたから、ほっと一息つけて、皆ぐっすり。が、俺は眠りが浅く、一時間で跳ね起きて。

どうにもこうにも目が冴えて、二度寝はできそうになく、諦めてコーヒーを飲もうと、自販機がある休憩室へ。近くにきたところで、ぼそぼそと聞こえて、俺のお仲間がいるよう。

一人でぼうっとしたかったから「給湯室にいくか」と引きかえそうとし「夜に家族ではなく、俺と過ごしてくれる日がくるなんて」と耳にして硬直。いや、だって、あのシキマの声だったから。しかも、うっとりしたような。

発言内容からして、五年一途に思い慕っている相手だ、きっと。シキマとは同期ながら、ほかのヤツより、その動向に興味がなかった俺だが、このラッキーチャンスを逃すわけがない。壁に背中をくっつけて、休憩室のほうににじり寄り、耳をダンボに。

「はからずも、あなたと一夜を過ごせてシアワセです。しかも、あなたの誕生日に。

分かっています。あなたが家族に背を向け、俺を選んだわけではないと。でも、家族から、あなたを奪えたようで、たまらないですね。また、会社で大規模なトラブルが起きないかな・・・」

「シキマくん!悪い顔になっているよ!だからって、わざとトラブル起こすようなことしちゃダメだから!ていうか、今回は違うよね!?ちょっと、違うってちゃんと否定して!

このままだと犯罪も犯しかねないように思えるから、いい加減、目を覚ましなよ!窓際族の負け犬のみすぼらしいおっさんに熱を上げるなんて、どうかしているって!

キレーでカワイーくて、若くて才能や魅力あふれるな子は、会社にだって、いくらでもいるんだから!自分を大切にして、将来も考えて、釣り合う相手を選びなさい!」

「・・・あなたが思いに応えてくれるまで、俺は無理強いせず、待つつもりです。でも、前にも云いましたよね?

もっとお似合いの子がいる。自分『なんか』で人生を棒に振るな。そう云われたら寂しくなるから、やめてほしいって。お口をチャックしないなら、俺が塞ぎますよ?」

「わーごめん!ごめんて!そんな捨てられた子犬みたいな顔しないで!」

そりゃあ耳を疑った。まさか、お相手が、自ら卑下していたように、窓際族のしみったれた係長なんて。

ただ、もともとシキマをいけ好かなく思っていたので、驚きはしても、幻滅や落胆はせず。なんなら「おもしれーじゃん」と舌なめずりをしたもので。

ミーハーな恋愛脳なヤツらとちがい、俺はひねてくれているから、会社ハーレムでさんざん遊んだ挙句、才色兼備な女と結ばれて家庭に入るなんて、つまらないクソな展開を望まない。五年口説かれても、なびかない猛者な窓際族に、シキマが人生を棒にふるさまを、俺だけの秘密に愉快痛快に見守ることにしよう。






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