死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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横恋慕に横恋慕

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母は十九で出産したから、俺が高校生になった今もまだ、三十半ば。年も若ければ、均整のとれた容姿をしているから、見目も若若しく「もお、女子大生にまちがわれて困っちゃってえ」と愚痴っぽくしながら、鼻にかけるのが口癖。

俺の母ながら、いけ好かない人なのだが、同性は「どうせ自慢だろ」と見破るところ、異性は真に受けて「そうなの、大変だね」と鼻の下を伸ばしがち。人妻なのは重々承知、子供である立派に育った俺がそばにいても、色目を使う野郎はすくなくない。

俺の家庭教師もその一人。俺と二人だと気さくで頼りがいのあるオニーサンなのが、母の前では思春期の男子のように初心に。

ろくに口を利けず、目を伏せがちで、頬を赤らめっぱなし。前に指先が触れたときなんて「うへ△●×@▽$#!」と跳びあがってカップをひっくり返したもので。

ほかの野郎がすましながらも、母を性的に見るのが、俺は虫唾が走るほどキライ。でも、恋に恋をしているような、天然記念物的な彼の初々しさは不快ではなく、なんなら見ていて愉快であり、ちょっかいをだすようになった。

「この前、かーさんが風呂上がりにパンイチでリビングにきたんだよ。ほんともー勘弁してほしいって。この年になってかーさんの裸なんて見たくないし、すんげえパンツはいてるしよ」

会話の流れで、さりげなく母のエピソードをぶっこみ「そ、そうなんだ」と顔を真っ赤に目を泳がせるのを、そ知らぬふりで眺めて堪能。だんだん顔の赤みがひいていっても、最後まで耳の血色がいいのが、可笑しいったらなく。

受験が迫って気が重たくなるのを、年上のオニーサンをおもちゃにして憂さ晴らしをする日々。と高笑いをしていたつもりが、思わぬ逆襲にあうことに。

その日は休憩中、俺の学校で催した学園祭の写真を見せていた。まだ、母のことで冷やかしてはいなく「今日はどうやって、しかけよう」と考えていたら「あ、これ」とスマホに滑らせていた指をぴたりと。

画面を覗きこみ「ああそれね。俺のクラス女装男装喫茶やったから」と教えてやり「俺、なかなか似合うだろ?」とにやりとするも、彼は写真に釘づけ。どうしてか、微笑ましそうに見やって「こうやって見ると」と呟いたことには。

「お母さんに似ているね」

その瞬間、身が焦がれるような苛立ちが。とはいえ、表情や態度にはださず、逆に爽やかにこやかに「昨日、かーさんが云っていたんだけど」と唐突に切りだして。

「かーさん、先生のこと気に入っているよねえ、スキなの?って聞いたんだよ。そしたら『恋されるのは気分がいいけど、絶対にスキにならないわよ』って。

カヌーなんて競技、マイナーでダサくて人に自慢できないし、スポーツ一筋丸だしで、やぼったくて、ビンボーくさい格好しているんだもん。肩を並べて歩くの恥ずかしいわ、だってさ」

スマホから視線を上げて、俺をガン見する先生。すこしして、いつものように「そ、そっか」と気まずそうに顔をそらしながらも、肌を赤くではなく青白くして、伏目に涙をにじませて、噛む唇をぶるぶると。

気さくで頼り甲斐のあるオニーサンでも、初心な思春期の男子のようでもない。傷心して打ちひしがれる先生を知っているのは俺だけかもしれない。すくなくとも、母は見たことないし、これから見ることはないだろう。

これまで母に見惚れる野郎に苛つくのは、マザコンによるものと思っていたのが、本当は母に嫉妬していたのだろうか。そのことに気づいてしまった以上、術中にはまった先生を、なにがなんでも手放したくはなかった。

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