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先生が変態でもいいでしょう
しおりを挟む俺のクラスの担任教師には、よからぬ噂がある。「前の学校で生徒に手をだした」という。しかも、女子ではなく男子にだ。
今の時代、一発アウトじゃね?と思うところ、教師の叔母曰く「基本、公務員はクビにはできないし、教師はとくに」とのこと。なんと、犯罪を起こしても、時間が経ちほとぼりが冷めれば、なに食わぬ顔で復職できるのだとか。
というわけで、教師には前科のある人がすくなくないらしい。担任教師もその一人なのか、真偽は定かでなかったが「やだあ」「キモイ」と一部の女子は寄りつかず。
三十代ながら、夏目漱石のような口髭がトレードマーク。隙あらば親父ギャグをかます担任教師はユニークで、親しみやすく、俺は慕っていたものを、やはり噂をスルーできず。
というのも、先生がどうとかより、まず俺が、そういう趣味の人に狙われやすいタイプだったから。高校生にして身長が百五十五。声のトーンも顔つきも、まだまだあどけなく、私服だとほぼ十割、小学生と見なされる。
まあ好みのタイプは、人それぞれだろうけど、見た目的に幼児に分類される俺のようなのに、関心を持つとすれば、病的な人の可能性が高い。先生のタイプがゴリマッチョだったとして、その可能性があるかないか、はっきりしない以上は、接近しないほうが賢明だろう。
生理的に受けつけない一点張りの女子の一部のように、あからさまに避けずとも、生徒と教師として、必要最低限のやりとりだけをして、なるべく一対一で顔を合わせないよう気をつけたり。とはいえ、ふだんから生徒を平等に扱う先生は、とくに俺をかまい贔屓にするでなく、半年経っても、その態度を変えなかったからに、杞憂だったか。と思った矢先。
ホームルームで「そばの席の人とグループになって話しあってください」と云われたときのこと。「げ」と思ったのは、そばの席の連中は、気の知れた仲だったから。そう、俺を除いては。
案の定、彼らはきゃっきゃわちゃわちゃして、俺は蚊帳の外。なんとなく、机をくっつけられなかったのも、誰にも気にとめられず、そのまま。
「あー、こういう学校でのグループ分けって、地獄だよなあ」と嘆きつつ、筆舌に尽くしがたい居たたまれなさを、ひたすら耐えていたら、先生がとことこと。暇をもてあまし、教室を歩き回っているのかと思いきや、今日、休みの子の机に着席。俺の隣に、だ。
「げ」とまた身がまえたものを「はあー」と机に突っ伏し「なあ、聞いてくれよお。昼、学食でさあ」と上体を倒したまま、顔だけを向けて、学食で起きた珍事と、その愚痴をあーだこーだ。俺がじっと見つめて相槌も打たないのを、かまわないで、駄々をこねる子供のように、まくしたてる先生。
ぼけっとした生徒をつかまえての暇つぶし。でないと俺には分かる。これまでの教師と一線を画す対応だったから。
小学生のころから、こういったグループ分で混じれないことが多く、気づいた教師は諭したものだ。「ほら、こいつも仲間にいれろ」「自分から輪の中に入らないとダメだよ」と。
云い分はもっともなれど、公開処刑をされているようで、死にたいほどの羞恥心を覚えて。しかも、そのあとのグループの気まずさよ。俺に全責任があるように思え、これまた死にたくなって。
強制的にグループ分されて、うまくいくとは限らない。その前提を踏まえて、のけ者になりがちな俺の思いを理解してくれる教師はいない。と諦めていたのだけど。
「なあ、聞いてるう?」と呼びかけられ、応じようとして唇を噛んだ。まともに話すと泣きそうで、でも、一言でも伝えようと「先生」と。
「キスしてもいいですよ」
「変な噂があっても、もし本当だったとしても、俺は先生を先生として慕います」と云うつもりが、はしょり過ぎて、爆弾発言をしたもので。まあ、笑いこけるグループには聞こえなかっただろうけど。
察しのいい先生だから、不名誉な噂があるのを知っているし、その関連の発言と気づいたはず。だとしても「お前、俺を舐めているのか!」と激昂することなく、頭をかいて「お前、俺がキライなのかよ」と苦笑。
口を滑らせたのを恥じつつも、俺はあえて否定せず、先生も問いただしはしなかった。
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