死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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怪獣の俺だって恋されたい

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子供のころから戦隊もののファンの俺は、大学生になってショーのバイトを。そりゃあ、できたら花形の戦隊マンをやりたかったが、ステージに立てるなら、たとえ木の役でもかまわないと、はりきっていた。が。

よりによって、怪獣のゾリアとは。戦隊ものの敵、怪人や魔人、怪獣も、独特の哀愁や愛嬌があって憎めなく思うとはいえ、このゾリアだけは、いただけない。

語感から、お分かりの通りパクリだし。同じ恐竜型の怪獣でも「これじゃない」感満載に不恰好だし、どこがどう良くないのか、はっきりしないものの、生理的に受けつけない感があるし。

神がかった黄金比率といっていい本家のデザインの均衡を、すこし崩す、たとえば、目の位置を一ミリずらすだけで大惨事になるという典型例。本家が破壊神として畏敬の念を抱かせるのとは程遠く、ゾリアをかぶってステージに立つと、俺の膝の高さくらいしかない女の子に「地獄に落ちろ!」と指を差される始末。

ゾリアが忌まわしがられる理由は、戦隊マンがイケメンなせいもあるだろう。

今や「中身を見せるのはご法度」は時代遅れ。戦隊マンにはショーをする人と、ショー後の握手会、サイン会をする、いわゆる「中の人」のイケメンがいる。

ショーとまた異なる、ファンサの訓練を受けたプロ。その成果に遺憾なく、顔もふるまいもイケメンぶりを発揮すれば、そりゃあ「俺も将来、ヒーローになりたい!」と男の子は目を輝かせるし「わたし、お兄さんのこと・・・・」と女の子はもじもじして、はにはむし「いつも元気をくれて、ありがとうございます!」と若いお姉ちゃんは感涙するし「ゴキブリにも負ける旦那から乗り換えたいわあ」とおばさま方は誘惑(?)してくるしモテ期もいいところ。

ラブコールされまくる中の人を、そばに佇むゾリアはたまに、ちょっかいをだしていたものを「邪魔」「目障り」「不快」「キモイ」とクレームが殺到。おかげで今は、ショーのあと、ゾリアだけが即退場。

わいわいきゃっきゃファン交流するのを尻目に、寂しく一人歩きながら「俺も恋されたいなあ」とため息を吐かずにいられず。先日、戦隊マンがもらったラブレター、拙い字で「私が大人になるまで待っててくれますか?」と書かれたのを見せられて、心底、羨ましかったもので。

とはいえ、俺はイケメンでないから「中の人」はできないし、長身だから戦隊マンの衣装も着れない。しかも二メートルある着ぐるみを装着できるのは、身長百九十の俺だけ。

「俺だけしかできない」となると、辞めるに辞めれない。困ったもんだなあと、さらに猫背になってバックヤードを歩いていたら「あれ、ゾリアじゃね!?」「うっわ、間近で見ると、もっとやべーな!」ときんきんとした喚きが。

見やると「関係者立ち入り禁止」の柵を越えて、若いあんちゃん三人が肩をそびやかし到来。目を丸くしているうちに、ゾリアを囲んで「いくら敵役でもキラわれ過ぎて受けるww」「ここまでブサイクだと公害レベルだなw」と笑い者にし、果てには「けっこーちゃちいじゃん」と蹴りを。

その通り、ゾリアの肌はぶよぶよの薄いゴム製。まんまと蹴りはのめりこみ、思いっきりケツを叩きつけられた俺は、倒れそうに。よろけるさまが滑稽だっかのか、大笑いされた挙句「ゾリアのサンドバッグサイコ―w」とかるい殴打の連発。

百九十の長身なれど運動音痴だし、格闘系の習い事をしたことがなければ、喧嘩とも無縁。「ゾリアが一般人を襲ったら逮捕されかねない」と考えたことあり、人が反撃できないのをいいことに、連中は調子にのりまくって「あれ?これ、頭部、とれんじゃね?」と頭をつかみやがって。

戦隊ものファンの俺にしたら、時代の流れに関係なく「中身を見せるのはご法度」の信条は揺るがない。死に物狂いで抗ったものの、二人に押さえつけられ、一人に頭部分をこっこ抜かれて、ついには顔を晒してしまい。

それでも、頑なにうつむいたのを、髪をつかまれ引っぱられそうになったとき。「なにやったんだあああ!」と甲高い声。声の高さや、視界の端に見えたのからして、中学生くらいの男子だろうか。

「やめろ、ヤンキーにぼこぼこにされるぞ」と心配した間もなく「あんだあ?」と舌打ちしたのが「え、あ、わああああ!」と地面にどざり。「一本背負い!?」と叫んだのも「ちょ、や、だあああ!」とどさり。もう一人は投げられる前に「おい!もう!行こうぜ!」と呼びかけ、あっという間に三人の足音は遠ざかっていった。

まさか、小さいヒーローのような子に、巨躯の怪獣ゾリアが助けられようとは・・・。感銘を受けるような、情けないやら。とにかく「あ、ありがとう・・・」と礼を述べつつ、やはり顔を上げることはできず。

察してくれたのか。彼は近寄らないで、起き上がらせようと、手を差し伸べることもなく「いえ、めげずに頑張ってください」とやや気恥ずかしそうに云いつつ、早々、去っていってくれた。

通りすがりのヒーローのように「名乗るほどのものではありませんよ」とばかりに颯爽と。キラワレもののゾリアだろうと、弱ったものを放っておけないヒーローは、現実にもいるものだなと、感心したものの、彼は正義の執行をしただけではないらしい。

翌週のバイトの日。珍しく「呪いの手紙」ではないファンレターが郵送されてきたと、それを受けとった。差出人は、先週、リンチから救ってくれた彼。

自分より体格がいい三人を、一人でのしただけあり、幼いころから柔道を。将来を有望視されていたものの、試合中、大怪我を負ってしまい、選手生命が絶たれた。で、落ちこんでいたところで、ショーでゾリアを見て、勇気をもらえたと。

ここまでは感動話。最後に書かれたお願いが、やや問題。「どうか俺が成人するまで、文通をしてくれませんか」と。

戦隊マンの中の人、イケメンに「大人になるまで待っててね」と少女がアプローチするのとニュアンスは同じだろうが、こちらのほうが、ずっと重い。同性だし。が、俺は返信をして、文通了解の旨を伝えた。

成人するまで、彼が飽きるかもしれないし、俺はゾリアをやりつづけているか分からない。だとしても、誰にも愛されないゾリアに恋をした少年と、今だけでもいいから、ゾリアに恋をさせてやりたかった。






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