死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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バナナジュースは下心

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友人は流行りものに、まんまと跳びつく軟派者。すこし前はタピオカ店でバイトをして、毎日タピオカをちゅーちゅーしていたが、今はバナナジュース屋でバイトをして、毎日、バナナジュースをチューチューしている。

高校の昼休み。中庭のテーブルで友人と向きあっての昼食。お茶代わりにバナナジュースを吸って、ご飯ものの弁当を食うのは、もう見慣れた光景。「食欲失せるわ!」とツッコむのにも飽きて、ちゅーちゅーをもぐもぐしながら眺めていたら、ストローから口を外し「なあなあ」と身を乗りだし。

「バナナジュースって、なんかエッチじゃね?」

眉をしかめたのは、発言が不可解だったからではなく、察したのに自己嫌悪してのこと。卵焼きを飲みこんでから「やめろよ」と睨みつける。

「毎日毎日、お前がジュースを吸っているのを見せられている身になれ。それ以上、無駄口叩いたら、もう一緒に昼飯、食ってやらないぞ」

「やだあ!なに想像してんのエッチイ!・・・・って、たしかに俺も、そういう目でお前が吸うのを見たくないや。

やっぱ、女の子にちゅーちゅーしてもらわなくちゃあ!こっちの下心なんか、ぜんっぜん気づいてなくてさ『おいしそー!』って無邪気にちゅーちゅーして、口から溢れたのを『やだあ!』って拭ってさ!フゥーーー!」

「お前、絶対、教室で口滑らせるなよ。その日にゃあ、絶交だからな」

いやな予感満点に忠告したのも虚しく、翌日、あんにゃろう、教室にバナナジュースを持ちこみやがった。「男の子だから、恥ずかしい☆」といつも、隠していたくせに。

絶交するかどうかは、これから次第。とにかく今は、女子に共犯と見なされないよう、あいつがバナナジュースを見せびらかせている間は、寄りつかないことに。

それにしても、なんだかんだ奥手だから、思いきりが足りない友人。机に座ってバナナジュースのカップを握りしめつづけ、いっこうに女子に声をかけやしない。

がんがんアプローチし、女子に不審がられたり、鬱陶しがられたとして、そのほうがまだワンチャンあるというに。バナナジュースを片手に引きつった顔をし、かちこちになって座ったままでいれば「うんこでも漏らしそうなのか?」と男子さえ、避けるというもの。

「まあ、あいつ、口だけだからな」と絶交を免れそうで、ほっとしたのもつかの間、教室に入ってきた女子が、背後から友人に接近。これまでの経緯や事情を知らず、クラスの雰囲気も察しなかったのだろう。友人の机を通り過ぎようとしたとき「あれ?それバナナジュース?」と釣り針の餌に引っかかってしまった。

「きたーーー!」と内心ガッツポーズしているだろうとはいえ、案外、友人は焦ってがっつがすに、一呼吸置いて、にっこり。(目的は糞だが)やるときはやる男だから「俺、店でバイトしてて。これ新作なんだけど、店長に学校の子に飲んでもらって、感想聞いてきてほしいって頼まれてさ」と嘘八百をすらすら。

「よかったら、飲んでくれにゃい?」と最後の最後で噛みやがったが、まさに、うってつけに無邪気らしい彼女は「ええ!いいのお!」と掲げられたバナナジュースを取ろうとして。その直前に「うおおおおおおお!」と鼓膜を破裂させんばかりの雄たけびが。

ドッシャーン!と扉に肩を叩きつけつつ、教室に走りこんできたのは、あだ名が「ボンビー」のクラスメイト。貧乏すぎるので、ジュースを賭けた鬼ごっこに命を張る覚悟で臨むことで有名。

つまずいて、四つん這いになりながらも「よっしゃあああああ!」と床に拳を叩きつけ、廊下から「くっそおおおお!」と聞こえたからに、制限時間ぎりぎりで捕まりそうになったのを、ふりきったのだろう。勝ち誇ってライオンが咆哮するかのような迫力に、教室は祝福モードではなく、委縮モードに。

たかがジュース一つを獲得した、勝利に酔いしれるボンビーはかまわず、やおら立ち上がったなら、タックルしんばかりに友人と女子のもとに。バナナジュースをふんだくって、ちゅーちゅーというよりは、ちゅうううううううううと。

バナナジュースは粘っこいうえに、ストローでは吸いにくい。はずが、○イソンばりの吸引力で牛乳一気飲みするように、あっという間にすっからかん。

ただ、飲みこむのは間に合わなかったらしく、溢れたバナナジュースが顎につうと。勝利の余韻に浸るように細められた目、上気した頬、汗で艶めく肌、熱っぽい吐息、濡れて蒸した唇から、こぼれる白く粘着質な液体。

友人のせいで、つい色眼鏡で、ボンビーがバナナジュースを吸いつくしたさまを眺め、生唾を飲みこんでしまい。となれば、下心ありもありでありな友人が目の当たりにしたら、そりゃあ、もう。

案の定、翌日から、友人はボンビーにバナナジュースを献上するように。ボンビーがちゅううううううとするたび、内股になって震えるからに、俺だけでなく、クラスメイトもぴんときていることだろう。

下心丸見えに、頬を赤らめ、うっとしする友人に気づいていないのか。気づいていても、貧乏で背に腹は代えられないと、そ知らぬふりをしているのか。

それにしても「いい飲みっぷりだね!」「お前がつくるバナナジュースが旨いからだよ!」といちゃついているように見えるに「俺たちは、なにを見せられているんだ・・・」と途方に暮れつつ、こういうのは犬も食わないというに「お幸せに」とクラスメイトは生温かく見守ったものだ。







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