死んでもお前を愛さない

ルルオカ

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死んでもお前を愛さない

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高校に入学し、隣の席にいたカズヤと友人に。趣味が合うとか、同じスポーツをしているとか、とくに理由はなく、たまたまだったのだが、あらためて友人づきあいしだして、気づいた。こいつは稀代の詐欺師のようにいいヤツだと。

いつも、にこやかで情緒が安定。どこまでも理性的で公平中立にふるまい、人懐こくても八方美人ではなく、ときに不正義に物申して教師に盾つき、誰かを守るため自分事のように怒る、まっすぐな心根。

絵に描いたようなデキスギ君に、反感を持つ輩もいるとはいえ、大半の人は「いいヤツ過ぎて泣ける」と崇めるように慕っていた。地味にあたりさわりなく学校生活を送りたかった俺は「ある意味、やべーヤツと友人になったな」と困ったし「比べて自分は」と卑屈になりがちだったものを、友人でいる利をとった。

そりゃあ、意地悪をされるより、親切にされたほうがよく、男子特有の悪ノリをしないのは、不得手な俺には、ありがたかったから。周りの目が気になったり、たまに自己嫌悪する以外、カズヤ自身、害がないとなれば、うまくやっていけそうと思っていた。が。

カズヤの家に招かれたのが運のつき。手放しに俺を歓迎してくれ、手作りクッキーに、満点の家庭料理をふるってくれた母親。丁寧に挨拶して自己紹介し、俺たちの勉強の邪魔をしないよう静かにしつつ、懐いてくれた弟と妹。ともに食卓について、控えめにしていた俺に、なにかと笑いかけ話しかけてくれた父親。

特級いいヤツなカズヤにして、この家族ありき。目がつぶれそうなほど、シアワセオーラ眩い家庭。理想的な家族が、所詮、理想でしかないと思っていたのが、目の当たりにさせられた悪夢のような現実。

比べて、いかに俺の家族や家庭が異常か思い知らされた。いや、ドラマやネットとかで、一般的な家族、家庭のあり方は把握していたものの「つっても、この世に実在しないだろう」と真に受けず。

皆、世間体を気にして装っているだけで、中身は俺の家族や家庭と変わらない。故に、一見、俺は異端者のようで、普通なのだ。

と思いこみ、くそみそな日々を、どうにかこうにか目を瞑ってやり過ごしていたのが「俺は不当な扱いを受けている」と自覚させられたら、やりきれなくなる。カズヤの家にお邪魔してからというもの、ひたすら耐えるしか、ほぼ選択肢がない生活が、ままならくなってきて。

分かっている。カズヤが悪いわけではない。それでも、一般的家庭のお手本とばかり、シアワセキラキラ家族を見せびらかしたことが許せなく、キライに。

そばにいると、自分を哀れまずにいられなく、すぐにでも友人をやめたかった。とはいえ、容易なことではない。

本音を打ちあければ、むしろカズヤは放っておかないだろう。といって、理由もなく友人解消すると、周りが快く見なさない。人の好感度は気にしなくても、卒業まで平穏無事に過ごしたいなら、下手は打てない。

まあ、急がないでいいのかもしれない。カズヤと友人になりたがるヤツは山ほどいる。時間をかけて、距離をとっていけば、さりげなくフェードアウトできるだろう。

気長に友人自然消滅計画をすすめようと考えだした矢先。カズヤが教室で公開告白された。

前から、ある女子とくっつけようとクラスの連中が画策していて、すっかりお膳立てされたうえでの告白。周りを固められては断りにくく、俺にしろ「恋愛にうつつを抜かせば、ちょうどいい」と内心、応援したものだが、果たして、カズヤがだした答えは。

まさかの、俺への公開告白。告白してきた彼女に「こいつがスキだから、ごめん」と謝り「断る口実に使った冗談ではないから」と熱視線を送ってきたからに、完全に退路を断たれた。

「こうなったら、強硬手段をとらないと、こいつとの縁は断ちきれない」と腹をくくり、公開告白ならぬ、公開処刑された翌日「俺んち、こないか」とお誘い。告白に応じていない俺に、大胆に誘われ、でも、目を丸くしつつ頬を染め「い、いいのか」と。恋愛では手堅く手順を踏みそうなコイツも、目の前に吊るされた餌には跳びつかずにいられないよう。

「いっそ襲ってきたら、俺も救われるのにな」と思いつつ、アパートに案内。部屋の前にいきながらも、扉を開けずに立ったままでいて「どう」と聞こうとしたカズヤは硬直。扉の向こうから、真っ最中の声と物音が聞こえてきたから。

カズヤの反応を目にしてからすぐ「いこう」と顎をしゃくって、近くの公園へ移動。二人でベンチに座り「俺はこういう家庭で育ったから」と説得開始。

「何人かいる恋人が、毎日、家にくる。で、俺が帰る時間帯に、母親はよろしくやっている。たまに夜中までやっていて、俺はこの公園のトイレで一晩過ごしたこともある。

お前の家族が、こんなことするなんて想像できないだろ?」

うつむいて「想像できない」と弱弱しく応じたと思いきや、顔を上げて「想像して家族を侮辱したくない」と向けてきた澄んだ瞳。

「お前も、お母さんの行いを悪いほうに捉えてはいけないよ。お母さんにもきっと事情があるんだ。かわいそうに・・・」

息を飲んだ俺は、たまらず目元を手でおおい、うな垂れた。ありがたきお言葉に胸打たれて、泣いているものと思ってだろう。

肩を抱いて自分に寄りかかせ「親は俺たちを生んでくれた尊い存在だからな」と囁いてきたのに、こらえきれずに「ぶふぅっ」と。手をどかし、目を細めてにんまりとすれば、さすがのカズヤもぎょっとし、上体を退ける。気をよくして、片方の口端を吊りあげ「あらためて分かった」と宣告を。

「俺、お前のこと死んでもスキにならねーよ」

「想像できない」と潔く降参すれば、まだ望みはあったものを。

家族が自分を虐めるのを、想像するのさえ侮辱だと云いきれるカズヤは、とんだ果報者だ。とはいえ、子は親を選べない。いってしまえば、カズヤは運がよかっただけ。

家族に愛されるのはカズヤの手柄でないし、家族に愛されないのは俺の責任でない。そのくせドヤ顔で俺を責める善人の皮をかぶった善人を、死んでも許してはいけないように思えた。




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