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スキャンダラスで破滅的な恋を
二人のスキャンダルで破滅的な恋①
しおりを挟む週刊誌によると、匿名で音声と画像のデーターが送られてきたらしい。
録音されていたのは、僕の喘ぎ声と「○○君(名前はピーで消されていた)」という悩ましげに男の名を呼ぶ声、加工した正体の知れない相手の声。
写っていたのは達した後、気を失った僕。
着衣のまま股間を濡らしている、そのさまが、週刊誌の一ページに丸々掲載された。
ついでに前に、焼き鳥屋で大川に肩を抱き寄せられた写真も載っていた(大川は「光栄だ」と笑い飛ばいしていた)。
時代はジェンダーフリーの流れで、芸能界ではオネエが活躍していたり、カミングアウトしている人がいるけど、俳優の業界では未だ、タブー的なところがある。
同性愛の作品が増えてきたといっても、基本的には異性愛が主流だから、性的傾向を明かしてしまうと、そのイメージがついてしまって仕事が減ってしまうのだろう。
まあ、ジェンダーフリーの流れにならない理由は、そういった俳優個々の事情によらず、業界全体に問題がありそうだ。
噂では、前時代的な体制を維持したがる根強い勢力がいるのだとか。
その勢力が幅を利かせている以上、今の時代にあって俳優の同性愛が知れて、今更、騒がれることになるらしい。
まあ、業界の問題は別にして、これまで多くの女優と絶えずに交際が報じられてきた僕が、突然、男に目覚めたというので、青天の霹靂のようだったと思う。
ただ、降って湧いたようなスキャンダルに世の人は驚愕しながらも、「今の時代だし」「別に罪を犯したわけではないでしょ?」と割とさばさばと受け止めてくれ、なんなら「ていうか、マスコミや情報売った奴のほうが、どうかしているんじゃない?」と疑念を持つ人や「逆に萌える」と興奮する人もいるのだとか。
もちろん、落ちこむファン、嫌悪する人も少なくなかったけど、「男が好きで何が悪いの?」「嫌なら見なきゃいいだけで、差別しないで」と時代遅れ的だとばかり擁護する声もあがったという。
意外にも犬飼君のスキャンダルのような「裏切られた」とのバッシングを受けることはなかった。
時代も変わったものだと思わされる現象が起こった一方で、ヒステリーを起こしたのは業界のほうだ。
週刊誌報道がされる前日から仕事のキャンセルが入り(事前に情報をキャッチしたのだろう)、翌日には三年先まで埋まっていたのが、すべて、おじゃんになった。
事務所が悲鳴を上げる間もなく、一般人からマスコミまで、あらゆる人からの問い合わせが殺到して、通常業務がままならない事態に。
芸歴二十年目を節目に、長期の休暇をもらうつもりでいたのと、CMなど違約金が発生する仕事をしていなかったおかげで、金銭的なトラブルが起きなかったのが、せめての救いだった。
それにしたって、大手でない事務所にとって大スキャンダルは手に余るもので、その対応に苦慮するのもさながら、ただでさえ強くない業界での立場が苦しくなったと思う。
スキャンダルのせいで、事務所に与えた損害ははかり知れなかったけど、社長はすぐに切り捨てはしなかった。
「大手でないのに、身の丈の合わない、大きな仕事をさせてもらったんだ。
その恩は返せないほどだと思っている。
だから、むしろ、マスコミから守ってやれないのが、申し訳ない」
義理人情を重んじる社長らしい解釈だった。
が、長年、大手と張り合っていただけの社長でもあり、笑って受け流そうとした僕に、肩に手を置いてこう言いもした。
「早まって、事務所を自ら辞めようとしないでくれ。後生だから」。
十五歳から面倒を見てくれた社長にはお見通しらしい。
面と向かって人に頼まれると、断り切れないのが僕の悪いところだ。
「マスコミは騒いでいても、世間は思いのほか、静観している。この状況がどう転ぶか分からないから、しばらく待ってみよう」と社長に説得され、用意されたマンションの一室で大人しく過ごすことになった。
海外に逃げられるのを社長は心配していたようだけど、そのつもりはなかった。
必要性を覚えなかったからだ。
元より、俳優のくせにオーラがなさ過ぎと茶化されていた身だ。
女性関係で報道されたときも、女優のオーラにかき消されて、恋人としての存在感がなさ過ぎと揶揄されてきた。
今回にしろ、連日ワイドショーが映像や画像を流そうとも、鉄壁のなさ過ぎるオーラが人目を弾き、これまでのように気ままに過ごせるものと、高をくくっていた。
胸を張って高をくくるようなことではないけど、残念ながら、その当ては外れた。
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