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転生してスローライフを送っていた俺は、愛しいあなたのために銀郎の遠吠えを響かせる

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ヒトのいる世界では、科学、技術発展の真っ最中。

その流れで、遠洋にでれる大型船の開発に初成功。
はるか遠い海の向こう、未開の地の発見を果たすべく、大型船第一号にこの男、生物学者の彼が乗りこんだという。

で、はじめて自国以外の有人大陸を探し当てたのが、このピース ワールド。

ヒトと似て非なる、多種多様な生物が、食物連鎖、それ以外の上下関係もなく、平等な立場で共生する、彼にしたら桃源郷のような国だったらしい。

「僕たちの国では、盗みから大量殺人まで、犯罪が横行し、縄張り争いが絶えなかったからね。

比べて、この大陸では、聞いた限り、殺し合いはもちろん、ビンタくらいの暴力さえ、存在しないというから。
事故以外の、万引き、強盗、誘拐といった、犯罪も起こったことがないなんて・・・」

わざと相手の血を流させることはなく、肉食も必要としない。

口にするものにしろ、調べてみると、ヒトが食べる野菜や果物と見た目は同じでも、成分は霞のようなもの。
つまり、この大陸では命を食さないのだ。

「僕らの世界と、海を挟みながら、ながっていると思えないほど、現実的でない理想が詰めこまれた世界。
さしずめ、きみらは霞を食べて、悟りを開き生きる仙人のようだ。

そんなヒトを超越した、神にも近い存在に遭遇できたのに、すっかり舞い上がってしまってね。

奇跡的に言葉も通じたから、居ても立ってもいられず、海の町にとどまる旅団から一人抜けて、大陸を回ろうとした。
種族は皆、友好的で、お金がなくてもご馳走したり家に泊めてくれたし」

そうして、虫を追う幼子のようにはしゃぐまま、村や町を転々とし、海の町から出立して二週間後。
町で滞在して、調査していたときのこと。

「狼族は危険だ!」とヒトが訴えて協力を仰いでいると、その町の種族に知らされ、どうするべきかと相談をされた。

「単独行動をするな!」と連れもどされたくなく、旅団と連絡を絶っていた男はぽかん。
根耳に水な情報なのはもちろん、すくなくとも彼が接触した狼族に、なんの異変も兆候も見られなかったから。

旅団が狼の捕獲をしながら、こちらのほうに距離を縮めているというに、伝書鳩ではなく、直接、問いただそうと馬族におんぶしてもらって急行。

団長に面会を求めると、快く応じてくれ、でも、胸糞悪い真相を突きつけられた。

上陸して、さまざまな種族と交流し、とくにヒトが惹かれたのが狼族。
正確には、輝かしい光沢、絹のような滑らかさがある、その極上の毛並だ。

ヒトの住む世にいる、どの動物よりも見目が美しく、通気性、保温性、撥水性など、機能が万能的。

この超超超特級品を、ヒトの住む世に持っていけば、億万長者になれるのは間違いなし。

とはいえ、狼族は人型とあって、ふさふさなのは耳と髪、尻尾だけ。
あとは眉毛、髭、産毛など、全身を剃っても、採取できるのは一握りほど。

とても生え変わりの毛を提供してもらうだけでは、足りない。

といって、全身刈り上げるのを、いくら友好的な狼族も了解してくれず、ほかの種族も快く思わないだろう。
強制すれば、尻尾を逆立て、牙を剥き、首を噛み破るかもしれない。

犯罪や暴力とは無縁という種族は、でも、どれほどのポテンシャルがあるか知れず、いざ戦となれば、超人的な能力を発揮しそうにも思える。

人数的にも一旅団では対抗できない。
とはいえ、支援の船がきてしまえば、黄金も見劣りするほどの価値がある狼族の毛が、独り占めできない。

ということで団長が練りだした策は「狼族に凶暴化する危険性がある」と風評を流し、自分たちがその封じこめに手助けするとの正当性でもって、拉致、監禁をするというもの。

交番も裁判所もない、この世界では、狼族の扱いを持て余し、案の定、ほかの種族はあたふたするばかりで、惰性的にヒトに頼ることに。

狼族を心配する種族がいても「ヒトのようにテッポウを使えなくては、檻越しに近づくのも危険だ」と適当にあしらって、面会謝絶。

そうして完全隔離をし、狼族を捕まえてきては殺して、隅々まで毛を刈り上げ、禿げあがった死体はさばいて、食べているのだと。

「食べる!?どうしてですか!
この大陸の食べ物は、実態は霞のようなものですが、僕たちの栄養になり腹を満たしてくれるのに!

食べる必要なんてないでしょう!」

「きみは生物学者ともあって、さほど肉食に積極的ではないのだろう。

だが、肉体労働をするものや、兵士たちにすれば、栄養が足りたとして、肉食なしでは活力が湧かない。
気分的なものだとしても、割りきれないことだ。

とくに船乗りの士気が落ちると、きみも帰れなくなるのだぞ?

きみが望むように、この未開の地を調べつくすのにも、万が一のときに逃げるのにも、肉食は必要不可欠だし、狼族の死体が処理できて、ちょうどいいではないか」

ほんの悪びれもなく、良心の呵責、罪悪感あっての葛藤もなさそうに「一石二鳥」と口にしてはばからない、正気な団長の狂言。

「俺がルールだ」とばかり、神も法も糞くらえな意見が旅団に浸透しきっていること。

自分一人が異を唱えてもどうにもならない事態に陥っているのを悟った彼は、軟禁されるのを見越し、その前に隙をついて逃亡。



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