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子を亡くした母のあやかし
二十八
しおりを挟む舌と手を止めた、こんこんは、顔を上げ、目を見張りつつ、中々、口を利かなかった。
なにか考え込んでいたようなのが、不意にはっとしたように「庄司、お前、まさか・・・」と告げる。
「そんな、すかした顔して、童貞どころか、精通もまだなんか」
顔は関係ないと思ったが、息を切らしながら、肯く。
規律を重んじる菊陽さんと、なにかと行動を共にすることが多いからか、禁欲的な体質になったのだろう。
欲の塊のようなのが、義理の父親とはいえ、外を遊びほっつき歩く我聞とは、三日ほど顔を合わせないことは、ざらだし。
そうして、家では年ごろの男子らしからぬ、慎ましい生活をし、学校生活にしろ、男友達と猥談することも、女子と接することもない。
もちろん、保健体育で一通りは習ったが、元々、性欲が強いほうではないのか、もよおしたことがなかった。
そう、知識があって、こんこんと性行為をしているのを自覚していても、それを尿意と勘違いしたほど、これまで、性的なものと縁遠かったのだ。
「やから、お前、朝起こしにいっても、精液臭いこと、なかったんやな」
こんこんは、イタチとあって鼻が利く。
といって、本当に精液まで嗅ぎとれるのか、からかっているだけではないかと、疑ったものを「今、めっちゃ匂ってきとるで」と舌舐めずりして、股間を擦られては、かっと顔が熱くなる。
漏れそうなのを自覚しつつ、「精通、してないの、荷が重いなら別に」と目を伏せれば、「阿呆か」と上体を起こして、火照った頬をすり寄せた。
「わしのほうが先なんて、気分めっちゃ、いいわ」
誰より先になのか、聞かないし、考えないようにする。
いや、余所見する間もなく、強く両手で股間を扱かれ、思った以上に、甘やかな痺れを覚えて、「は、ああ、ん!」腰を抜かしそうになった。
これまた思ったより、高い声をあげたのが、我ながら聞くに耐えなく、でも、布を噛もうにも、首に力が入らず、頭を動かせなかったから、仕方なく、舌を噛む。
声を抑えるのが不服なのだろう、こんこんは顔をしかめつつ、文句は口にしないで、首にしゃぶりつき、股間に這わせる手つきを早めた。
玉を揉みながら、指で先をほじくるようにして、滲む先走りを、かき混ぜ水音を立たせる。
初心者相手に、いっそいたぶるように、いやらしい手つきで追いつめてきたが、それでも、涙を流し、頑なに舌を噛む俺に、痺れを切らして「声、だせや庄司」と耳に熱い吐息を吹きかけた。
「聞こえるからか?」
そう、俺は寝るときも、あやかしの気配に神経質になるのだ。
ましてや、あやかしとまぐわっているのを、あやかしに聞き耳を立てられては、やりきれなさすぎて、あけすけに善がって喘ぐなんて、できるわけがない。
と、口にできない代わりに、肯いたのが、こんこんとの解釈とは違ったようで。
「我聞の部屋は近いしな」
思いがけなかったのに「っは、あ・・・」とすこし、漏らしてしまう。
が、勘違いでも、その名を口にされたなら、意識をせずにはいられないで、さらに力を込めて舌を噛み、気を紛らわすように、顔を振った。
その反応も不服だったようで、首に噛みつかれる。
イタチの尖った歯を食い込ませ、肌を破って流血させはしないでも、幾度も噛みついた。
噛まれるたび、俺も舌を噛み、むしろ声を漏らさなかったものを、しつこく、同じ箇所に尖った歯を食いこませる。
その間も股間をぐちゃぐちゃにされ、少しもすれば、噛まれるのが倒錯的な快楽になって、首の痛みにも急き立てられるようになった。
まだ尿意のような錯覚がしつつ、もう躊躇っていられず、膨れ上がった快感を弾けさせようとしたとき。
こんこんが噛むのをやめて、顔を上げ、あらためて向き合った。
お預けを食らって、みっともない顔をしているからか、ほくそ笑み「庄司」と荒い息混じりに呼びかける。
「お前どっちかていうと、女顔やけど、抱かれるとき、もっと女みたいに見えるんやな」
女顔とは、いいかえれば、俺は母親に似ているということだ。
だから、どうしたと一蹴しないで、つい先に、「我聞に声を聞かれたくないのか」と問いかけられたのを思い起こす。
それとは関係があるようで、ないような、ふとした疑問が浮かんだ。
我聞は俺の母親を抱いたのだろうかと。
「抱いていたとしたら?」と自問自答しようとしたところで、緩めていた手つきを、荒っぽくし、一気に責め立ててきた。
物思いにとらわれ、呆けていたから、だし抜けに再開され、舌を噛むのが間に合わず、「ふ、あ、はっ、ああ、あ、ん」と喘ぎが駄々漏れになる。
精通の儀式もまだの不慣れな身とあって、声量の制御ができずに、あんあん鳴き散らせば、さすがに見兼ねてか、口を塞いでくれた。
直接的な快感は元より、逃げ場がないように、下からも上からも水音に耳を犯されて、抗いきれないで、精液を噴出させる。
頭では分かっていても、感覚的には、やはり尿意と区別がつかないで、人前でおしっこを漏らした恥ずかしさもする。
甘やかな痺れの余韻に浸りながら、こんこんと顔を合わせられず、頬を上気させ俯いていたら、舌打ちが聞こえた。
「聞こえるからか」と問うてきたように、おしっこを漏らしたようで所在ない俺と、からかってこずに苛立つ、こんこんでは、また解釈が違っているようだった。
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