生臭坊主と不肖の息子

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
16 / 36
子を亡くした母のあやかし

十六

しおりを挟む
 通路を数回曲がり、行き止まりまでくると、俺の腕試しが始まる。

「僕が向こうから来るモンスターは全部倒すから、コルネくんはそのオルトロス一体に集中して」

 俺はオルトロスは行き止まりの部分にいて、通路の方からやってくるモンスターを師匠が防ぐようなかたちだ。

 次々と他のモンスターを倒していたのを見ていたせいか師匠には目もくれず、ウウウと唸りながら離れて俺だけを睨みつけるオルトロス。

 オルトロスは今回の旅で倒してはいるが、ダンジョンのモンスターはAランク以上がごろごろいるというからそれよりも強い可能性が高い。何より、実際と同じ強さなら俺の腕試しの相手として師匠が選ぶわけがない。

相手の実力が分からない以上、こちらからは下手に動けない──そう思って様子を見ていると、痺れを切らしたのかオルトロスがこちらへ一直線に向かってくる。

 ──速い。ターニュで見たものとは比べものにならないスピードでオルトロスが迫ってくる。俺から突っ込んでいかなくて正解だったが、ここからどうするべきか……すぐに思いついたのは二つ。

 一つはこちらからも向かっていき、斬りつける。お互いに加速している状態のため、俺の剣の殺傷力は跳ね上がる。しかし、それは向こうの攻撃の威力も増すということであるのtお、お互いに勢いをつけすぎているせいで剣への負担が大きい。よほど真っ直ぐ刃を入れないと剣が折れてしまう危険がある。

 そうなると二つ目だな。俺は集中してオルトロスの動きを目で追う。今も少しずつ加速していっているオルトロスが次の瞬間どこにいるかを推測していく。

「ここだ!」

 俺は素早く土魔法でダンジョンの床を盛り上げ、土壁をつくる。ボコボコと盛り上がってくる地面にすぐに気付いたオルトロスの顔には驚きが浮かぶが、勢いがつきすぎていて急には停まれない。

「キャウ──」

 目を逸らすように頭を横に向けながらひと鳴きをしようとしたところで、オルトロスは俺の出した土壁に激突する。大きな音とともに頸椎がボキリと折れ、オルトロスの首が本来曲がらない方向に曲がる。

 もともとダンジョンの床や壁は異常に硬い。それに勢いよくぶつかれば多少はダメージが入るかと思ったが、予想よりも衝撃が大きかったようだ。

 直後、そのむくろはサラサラとなって消えていき魔力結晶となる。首の骨が折れて即死だったのだろう。

 そして残った魔力結晶はかなりの大きさだ。記憶が正しければラムハのダンジョンの奥で採れたものよりも大きい気がする。

「早かったね。意外と楽勝だった?」
「そんなことはないですね。オルトロスが突っ込んできてくれたおかげですよ」

 のんきに自分が倒したモンスターの魔力結晶を袋に入れながら師匠が訊いてくる。 からんと袋の中で魔力結晶がぶつかり合う音を聞いて顔が緩んだ師匠に、俺はずっと気になっていたことを訊ねる。

「……全部の袋がいっぱいになるまでこの腕試しは続くんですか?」
「いや、コルネくんが続けたいならそうすればいいし、満足したならやめればいいよ。僕は魔力結晶ほしいからたくさん狩るけど」

 俺が一人で大量のモンスターを倒さなくていいと知って一安心だ。

「持ってきた袋全部がいっぱいいっぱいになるまで倒すんですか?」
「え……さすがにそこまではしないよ──あれは予備。袋が破れたりなくなったりしたときのために一応持ってるんだ」

 笑って答える師匠。たしかにモンスターの攻撃や魔力結晶の重みで袋が破れることはあり得る。よく忘れ物はしそうになるのに、そういうところだけ用意周到なんだ──と心の裡で思った。
しおりを挟む
アルファポリスで公開していないアダルトなBL小説を電子書籍で販売中。
ブログで小説の紹介と試し読みを公開中↓
https://ci-en.dlsite.com/creator/12061
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

ココログラフィティ

御厨 匙
BL
【完結】難関高に合格した佐伯(さえき)は、荻原(おぎわら)に出会う。荻原の顔にはアザがあった。誰も寄せつけようとしない荻原のことが、佐伯は気になって仕方なく……? 平成青春グラフィティ。 (※なお表紙画はChatGPTです🤖)

魔王のお気にのパンツを探せ!〜犯人はたぶんこの中にいる?〜

ミクリ21
BL
魔王と勇者の戦いが始ま………らない! 理由は、魔王のお気にのパンツがないからだ。 魔王討伐に来た勇者は、仕方がないから魔王のお気にのパンツ探しを手伝うことにした。 一体、魔王のお気にのパンツはどこにいってしまったのか………。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

処理中です...