鉄筋青春ラビリンス

ルルオカ

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鉄筋青春トライアングル

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つい拳を震わせて、もちろん、テーピングをしている最中のトレーナーに気づかれてしまう。

「金森く」とトレーナーが手を留めて、見上げてきたところで「あー!週末は楽しかったあ!」と聞こえよがしにもほどがある、独り言を喚いて小尾がジムに入ってきた。

僕への当てつけとは知らない周りは「おー、そーだろ。オーナー料理『だけ』は上手いからなー」「試合の映像のコレクション『だけ』はすごいからなー」とちゃんとディするのも忘れず、笑って返している。

小尾を見て、僕と向き直ったトレーナーだけは、何かしら勘付いただろうけど、テーピングを返してもらい、自分で巻き終えたなら「始めましょう」と立ち上がった。

トレーナーが探りをいれてきても、そ知らぬふりを通すつもりでいたものを「なあ、お前も泊まったことがあんだろ!」とよりによって、小尾本人がけしかけてきた。
肩を跳ねつつ「あるよ」とそっけなく応じ、背を向けたままトレーニングの準備に取りかかろうとする。

が、にわかに距離を詰めた小尾に手首を掴まれた。

向き合うのは勘弁だったから、足を留めながらも身動きしないでいれば、引っ張ったりしてこずに、自ら体を寄せてきて耳元で囁いた。
「夜のオーナーは、ジムにいるときとは違うんだな」と。

抽象的な表現からして、はったりをかましているものと、頭では分かっていたとはいえ、顔をぶつける勢いで振り向く。

跳び退った小尾は、「おお、こわ」と茶化すように両手を上げてみせてから、「一つ、提案があんだけどお!」とジムの隅々まで響き渡らせた。
なんだなんだと、周りがトレーニングを中断して、好奇の目を寄せてくる中、独壇場に言い放ったことには。

「つきっきりのトレーニングの時間を減らしてもいいから、その分、お泊りさせてくれねえかなあ?

どうせ、これ以上、トレーニングしなくても、十分にお前に勝てそうだし?
だったら、オーナーと過ごす時間を増やして、モチベーションを高めたいし?」

「お前、それはさすがに・・・!」とトレーナーが割って入る前に、僕は手を振りはらって「いい加減にしろ!」と怒鳴りつけ、小尾の胸ぐらを掴んだ。

先の発言からして僕を舐めきっている小尾は、額を突き合わせて睨みを利かせたところで「別に、お泊りにお前の許可を取る必要なんてないんだけどな?」とさらに舐めた口を叩く。

「だって、オーナー、すごく楽しそうだったからな。

ぼんぼんで気の利かないお前より、俺は要領がいいし空気が読める。
人の心を開かせるのは得意だし、いくらでも相手を笑わせることができると、きたもんだ。

お前なんか、受け身で尻込みしてばかり、市長の息子ってしか取り柄がないっつうか、その肩書もださくて、つまらない奴だからな」

情けなくも、小尾の言うことは否定しきれず、正面切って反論はしにくかった。
が、知ったことかとばかりに「お泊りはもう、させない」と額で額を突く。

にやけながらも「へえ?」目を細めた小尾が、「さすがは優等生。オーナーを困らせるなって、いい子ぶって言いたいわけ?」と額で突き返してきたのに「違う!」とありったけに声を張りあげた。

「僕が嫌だ!お前とセックスしてほしくない!」

小尾のにやけ顔が引きつり、空気も張りつめたようにジム内は静まり返った。

悪夢を見たのを引きずって、まあ、やらかしたものだ。

取り返しのつかない暴言を吐いてしまったとはいえ、小尾とオーナーのエッチな夢を見たことの屈辱をむっつりと抱えこんでいるよりは、健康的かもしれない。
せいせいもしたし。

それは僕だけでなかったらしい。

周りが絶句したままでいる中、僕の胸を突き放した小尾は「はじめから、そう言えばよかったんだ」と目を逸らし舌打ちをした。

思いがけない言葉に「え」と目を見張ったのもつかの間、背を向けて「あれ?皆、どうしたの」とジムに入ってきたオーナーとすれ違いに外へでていってしまった。

足を留めたオーナーは、小尾を目で追いつつ、声をかけることはなく、ジム内に向き直り「小尾君、どうしたの」と傍にいた人に聞いた。

相手が肩をすくめたなら「まあ、年頃だし」と誰かが声を上げ「やっぱ思春期だかんなー」「今はそっとしておいたほうがいいんじゃない?」と各々適当に返しながら、そそくさとトレーニングを再開していった。

「そう」とオーナーも応じただけで、そっけないもので、小尾の代わりに他の人のサポートに回る。
そうして、誰も小尾を追おうとしなければ、僕に見向きもしないで、変わり映えないジムの風景を見せていた。

周りは態度を豹変させるのではないかと、禿そうなほど頭を悩ませていたからに、そりゃあ、拍子抜けさせられた。

オーナーが男に惚れらるのは、周りにすれば大したことではないのか。
もしくは、あからさまに小尾が僕に張り合っていたから、勘づいていたのか。

勘づいていたとして、「おらおら、オーナーが見てっぞ!」と小尾をからかうように、僕は冷やかさなかったのは、どうしてなのか。

今まで少しでもぼろを出せば、身内や親戚にとことん辱められ、あげつらわれてきた。
人はそういうものだと思っていただけに、見て見ぬふりするのが難しい状況にあっても、情けをかけスルーしてくれるジムの人は神か、仏かと、冗談でなく見紛ったもので。

身内や親戚だけが人間でなく、ジムの人たちが特別な人間というわけでもない。

と、理解するのには時間がかかり、「ますます、試合に負けられなくなったな」とトレーナーに肩を叩かれても、呆けたまま肯くことしかできなかった。






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