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鉄筋青春トライアングル
⑦
しおりを挟む次回の待ち合わせの約束しつつも、小尾の反応を窺ってから、実行するか否か、決めることになった。
最悪の場合、小尾なら「ずるい!俺もデートする!」と床をのた打ち回りかねない。
そうなったら周りにも迷惑をかけることになるので、残念だけど、ジム終わりの逢引はお預けた。
翌日、いつも通りの時間に「こんにちは」といつも通りの具合で顔を覗かせたところ、たまたま目を向けたほうに小尾がいた。
できるだけ僕はそ知らぬふりでやり過ごそうとしたのだけど、小尾はとたんに歌舞伎のように顔をひん曲げて、早歩きで迫ってきたもので。
ああ、これはお預けかなと、早々に諦めかけたものを、鼻をぶつけそうな勢いで顔を寄せた小尾は、血走った目で睨みつけるばかりで、いつものように駄々をこねも、地団太を踏んでもこなかった。
周りは気にしつつも、成り行きを窺っているのだろう。
各々トレーニングをしている物音がやむことがない中、怒れる闘牛のように鼻息荒い小尾と至近距離で対峙することしばし、聞こえよがしに舌打ちされたなら、勢いよく背を向けられ、去られてしまった。
僕に怒鳴り散らしも、手をだしてもこなかったとはいえ、昨晩、だしぬかれたのに腹を据えかねているのは明らかだった。
その後も、ふてくされた顔をして「お?癇の虫か?」とジムの人にかまわれても「別に」とそっぽを向いていた。
オーナーがジムに戻ってくると、いつもの調子に戻って、はしゃいでいたものを、いつもより言葉数は少なく、物言いたげにオーナーを見つめることもしばしあった。
僕らが逢い引きしていたのを、確信しつつ、どうして言いがかりをつけてこないのか。
さすがの小尾でも、現場を目撃するなどの確証を得てでないと、話が通らないと考えているのだろう。
もしくは、尾行を巻かれて逢瀬されたのが悔しく、言いがかりをつけるのも屈辱なのかもしれない。
おそらく、小尾は僕らの逢瀬を目の当たりにしないことには、糾弾をしてこない。
二回目の逢い引きのときに、 そう推測したのをオーナーに話し「明日の反応を見て、そのことを確かめてみましょう」と提案した。
果たして、翌日、やはりジムにきたなり、真っ先に目が合った小尾は、見える部分の肌を真っ赤に染め上げたものを、今度は迫ってもこなかった。
二度目となれば「人をこけにしやがって」と怒り心頭になりそうなところ、それでも周りに気取られたくなかったのだと思う。
僕もオーナーに惚れていることが、ばれてしまうから。
意外にも、オーナーへの好意が僕の弱みだとは、小尾は考えていないらしい。
実際、ばらされても、僕は困りはしないけど、だからというよりは、小尾自身が周知されるのを都合悪く思っているようだ。
その理由は分からないとはいえ、傍若無人な小尾を黙らせられるのなら、それに越したことはない。
小尾がトイレに行っている隙に「いけそうだ」とオーナーにアイコンタクトをしてみせ、以来、僕らは会瀬を重ねていった。
毎日だと小尾には酷だろうし、尾行を撹乱するためにも二三日置きに。
どれだけ分かりにくい場所に隠れても、小尾がしつこく探し回って、時間があれば嗅ぎつけそうに思えるので、長居はしないようにし、二人きりで過ごすのは、せいぜい十分くらい。
それでも、逢い引きをしだしてから、前ほど小尾に神経を尖らせなくなり、やるせなさや虚しさから気が滅入ることもなくなった。
オーナーは気がいい人だから、騙すようなことをして胸を痛めているかもしれないけど、表向きは小尾に接する態度を変えることなく、逢い引きをやめようともしなかった。
オーナーがどう思っているにしろ、僕はすっかり逢い引きにのめりこんでしまい、小尾に見つかる危険が高くなっても、やめる気になれなかった。
障害が多いほど恋は燃え上がるというのは本当らしい。
(義巳は別にして)邪魔立てしているのは小尾だけとはいえ、躍起になって、追いかけっことかんくれぼに挑んでくるのに、逃げおおせてオーナーと顔を見合わせたときの会心の思いったらない。
ジムでむしゃくしゃしている小尾を見て見ぬふりし、その不機嫌ぶりの元が僕とオーナーにあるとは露知らず、不思議がっている周りにとぼけてみせるのも、内心ひやひやしながら、気分は悪くなかった。
チープな発想なれど、ロミオとジュリエット気取りになったもので。
まあ、本家のように一線を越えるつもりはなかったけど、その発想を教訓ととらえなかったあたり、僕の頭は相当にわいていたのかもしれない。
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