鉄筋青春ラビリンス

ルルオカ

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鉄筋青春トライアングル

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電話の件があって、前以上に義巳やオーナーの懐の深さ、そして比べての、自分のみみっちさが思い知らされた。

だったら、尚更、前の悪事を清算しなければとも思った。

せめて、人並みにまともになって、二人の傍に居たかったから。

ということで、早速、翌日からイジメに関わった、がり勉ホビットをはじめ幼馴染を含めた不良たち、工事現場の大男へ頭を下げにいくことにした。

まずは、同じ学校に通う、がり勉ホビット。
屋上の件があってから、僕が人目を避けていたので、隣のクラスにいながら顔を合わせるのは久しぶりだった。

惨い仕打ちをしただけに、顔を見るなり悲鳴を上げたり逃げられても仕方ないと覚悟していたものを、彼は怒りもずに「学校でずっと見かけなかったから、どうしたかと思った」と何事もなく応じてくれた。

心配していたと聞こえなくもない物言いに、呆気にとられつつ「これまでのこと、すまなかった」と謝ったところで「もう、いい。というか、逆に殴れと言われても困る」という始末。

普通なら、ありったけの怒りをぶつけ、尽きないほどの詫びをいれさせたがるだろうに。
義巳にしろ彼にしろ、そういう欲が欠けているらしい。

人生を損をしているように思えるも、そもそも、二人とも損得で物事を考えないのかもしれない。
だとしても、僕の気が済まなかったから「殴られる以外に、僕にできることは何でもするから」と粘ったら「じゃあ」と。

「僕は国語が苦手なんだ。

金森は、いつも国語の点数は上回っているから、得意なんだろ。
教えてくれよ」

家が裕福ではなく奨学金頼りに学校に通っているならば、その手助けを、学長に口利きをするなどして図ろうと思っていたけど、余計なお世話だったようだ。

多勢の不良に囲まれ殴られて「成績を落とせ」と脅されても、中々屈しなかったがり勉ホビットなだけある。

不屈な姿勢がぶれないのに、またもや感服しつつ、相手の寛容さに助けられるのは、もう終いだろうと、気を引き締め直しもしていた。

幼馴染は別にしても、不本意満々に従っていた不良はこれまで通りにはいくまい。

「たく、結局、脅しははったりだったんだな。
まあ、騙された俺も俺だ」

幼馴染には下げた頭をかるく掌で叩かれて済んだものを、引き合わせくれた不良の一人には、案の定、殴られた。

「パパにも殴られたことがないのに!」と嘆きはしなかったとはいえ、心情的には近いものがあり、生まれて初めて殴られたショックや痛みは想像以上で、泣くのを耐えられなかった。

一丁前に裏番長のような顔をしておいて、一発だけで呆気なく涙をこぼすなんて、情けないったらない。

あまりに無様だったからか、意気盛んだった不良はしらけてしまったようで「もう、俺らに近づくな」と言い捨て、二発目を叩きつけてくることはなかった。

その後も一発で済まされるのがつづき、中には、殴られた跡をしげしげと見て「いい加減、これで懲りただろ」と手を出さないのもいた。

彼らがあっさりと身を引くのは、僕に人徳があるからではなく、彼らに良心があるからだろう。
おかげで謝罪回りをしていっても、殴打の数は、がり勉ホビットが受けた拳の総数には至らなさそうだった。

いいのか悪いのか。
相手に屈辱や鬱憤を与えたのと、同じくらいの報いを受けるのは難しいようなので、せめて謝ることに努めたところ「お前、よく、そんな謝れるな」と殴らないだけでなく、感心されるまでになった。

相手は呆れていたとはいえ、平身低頭の僕を嘲笑っているようではなかった。

その真意を量りかねて、幼馴染に聞いてみたら「あいつらは、たとえ自分が悪くても、認めて謝らなければ、負けにはならないって考えているから。だから、謝る奴はほとんど、いないんだよ」とのことらしい。

不良特有の理屈なのか、僕には分からない感覚だった。
いつも父親にけなされ、母親と兄に冷ややかに見られ、親戚から爪弾きにされていた僕は、逆に自分が悪くなくても、謝りたがるという、ややこしい性質をしていた。

訳もなく、疚しさや申し訳なさを覚えて、癖のように謝罪を口にし、小刻みに頭を下げていたものだ。

そのくせ、謝っても償いきれないことをしでかしたわけだけど、あのときは恐怖で目が眩んで、前後不覚になっていたのだと思う。

馬鹿にされる僕が、馬鹿にする側の人間になれるかもしれない。
いや、なりたい。

馬鹿にされつづける人生から抜けだしたい。
もう、誰にも馬鹿にされたくない。

馬鹿にされるくらいなら、死にたい。

とまで、思いつめて歯止めを利かせられなくなったのだろう。

とはいえ、人は自分の性に合わないことをするものではない。

当然、無残な結果に終わったし、人に馬鹿にされるどころでなく、侮蔑されても言い訳できない立場になったし、それでいて、むしろ相手に慈悲をかけてもらうほうが、心苦しいのだから。

そんな僕でも、工事現場の大男に謝りにいくのには抵抗があった。

屋上で大事故が起こらなかったのは、大男が一喝してくれたおかげといえるから、本来なら、謝罪と感謝の意を伝えるべきだろう。

ただ、死にたくなるほどの大恥をかかされたのを、忘れることができない。
恋する相手を奪われたのも。

元凶は僕にあると分かっていても、割り切れるものでもない。

それでも私情を飲みこんで、頭を下げてこそ意義があると思え、身内を装って建築会社に電話をし、呼びだした。

大男はもともと仏頂面とはいえ、心なし、敵視するように睨みつけ、戦いに望むような重々しい足取りでやってきた。

ヒールのプロレスラーのような大男をいざ前にして、怯みはしたものの、変に強がったり、もったいぶることなく「あなたを巻きこみ、工事現場を荒らすようなことをして、すまなかった」と震える声を隠しもせずに謝った。

殴ってくるとは思わなかったけど「俺に謝る必要はない」とぶきらぼうながら返ってきたのは意外だった。

最悪、無視されると思ってたからで、顔を上げれば、男は目を細め、力みのない表情をしていた。
むきになって、突っぱねているわけでもなさそうで。

「俺が望んで首を突っこんで、やらかしたことだ。
まあ、お互い様だろう。

お前をとめるためだったとはいえ、屋上から跳びおりたくなるような赤っ恥をかかせたんだからな」

僕が口を開きかけたところで「だから、お互い様だ」と遮られ「まあ、これから義巳やオーナーに迷惑をかけるようなことをしたら、そんときは怒ってやるよ」と呆気なく去っていった。

悔しいけど、義巳が惚れるのも分かると、夕日の逆光になった、厳つい背中に見惚れてしまったもので。




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