鉄筋青春ラビリンス

ルルオカ

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鉄筋青春ラビリンス

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人の心はどう転ぶか分からない。

心に決めた人がいる義巳だって、顔のいい僕が傍にいれば、心が揺れることもあるのではないか。

そう見込んでいたはずが、まさか自分のほうが心変わりしてしまうとは。
しかも一ヶ月も経たないで。

オーナーとエッチする夢を見て、目覚めてみれば下半身が冷たかった。

はじめは寝ぼけていたものを、その意味するところに気づいたなら、顔が赤くなるやら青くなるやらで、脳みそがミキサーにかけられたように頭が混乱をきたした。
つい二週間前までは、その甥っ子で抜いていたことを思えば、我ながら節操のなさに嫌気が差したもので。

それまでジムには一日も休まず通っていたとはいえ、さすがに、やらかしてしまったからには、オーナーに合わせる顔がなかった。

まあ、月額で通い放題ともなれば、別に連絡しないで休んでも問題はないだろう。

と、思いつつ、心配してオーナーが電話をかけてこないだろうか、そういえばオーナーに恋人はいるのだろうかと、埒なく考えてスマホと睨めっこをしていたのだけど、果たして、夕方六時くらいに電話がかかってきた。
が、画面に表示されたのは「君塚ボクシングジム」ではなく「君塚義巳」だ。

鉄筋の骨組みの件があってから、義巳とは一度も連絡を取っていなかった。
それが、いきなり電話とは。

鬼ごっこをしていたときはメールでしかやり取りをしていなく、これが初電話だった。

二週間前なら、義巳からの電話に浮かれただろうところ、オーナーで夢精した後となっては、何とも罰が悪い。

といって、無視したらもっと気が咎めるから「はい」と緊張しながらも電話にでた。
どうしたのか、何があったのかと、聞くより先に「あんたがやったんじゃないのか」と向こうから、同じように緊張した声が聞こえてきた。

「え?あ?ごめん、何の話?」

一瞬、夢精のことを責められたように思え、肝を冷やしたけど、義巳が知るはずがないと、すぐに思い直す。

他に詰問されるようなことをした覚えがなく、戸惑うままの反応をすれば、向こうは黙りこんだ。
その胸中が読めないし、訳が分からないしと、改めて事情を問おうとしたところで「ジムの壁にスプレーで落書きがしてあったんだ」と切りだされた。

「『鬼ごっこはまだ終わっていないぞ』って。

変なマークも描いてあった。
大きな丸の中に手がある」

「そ」れは、と言いそうになったのを、咄嗟に飲みこむ。

こうなることを予測しえなかった自分の甘さに怒りを覚えながら、しばし唇を噛んで「僕ではない」となるべく平静な声で告げた。

「僕はオーナーやジムに迷惑をかけることをしたくはない。
でも、僕のせいかもしれない」

「じゃあ、あんたが引き連れていた不良の誰かが・・・」

前に散々な目に合っておいて、僕の言うことを疑っていないような義巳も、大概、甘い。

いや、義巳は甘いままでいい。
落とし前をつけるべきは僕であり、義巳やオーナーが巻きこまれないようジムに対して責任を負うべきは僕だ。

「君には本当に、ひどいことした。
すまなかった。

謝って済むことではないけど、落書きの事は僕がなんとかする」

「ちょっと待っ」と言わせないで電話を切った。

電話が切れても、スマホを耳に当てたまま、目を瞑っていたものを、勢いよく鼻息を噴いたならスマホをベッドに置いて立ち上がる。
一旦、部屋を出て、家族に気づかれないよう玄関まで行き、棚にある靴と懐中電灯を持ちだして部屋に戻った。

窓を開けてから、室内で先に靴を履いて懐中電灯を持つ。
部屋が一階でよかったと思いつつ、窓に足をかけて暗い庭へと跳びだしていった。





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