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魔人と怪人とあはんうふん
①
しおりを挟む俳優なら、主役を張りたいと思わないわけがない。
「手堅い芝居をする」と定評があつつ、三番手四番手を演じつづけ、くすぶっていたようともなれば、ダブル主演だろうと、主役に抜擢されて、そりゃあ、浮き足立った。
ただ、俺の基本的な性格からして、大仕事を任されて「よっしゃこいやあ!」と張り切るよりは、「期待に応えられなかったら、どうしよう」と取り越し苦労をするほうだ。
黒子の癖が抜けないままでは、主役らしく、ふるまえないのではないかと、稽古前から、早くも心配してしまっていた。
本格的な稽古がはじまるまで、居ても立ってもいられず、ドラマ、映画、舞台映像を見尽くした。
「主役らしさとは、なんぞや」と考えつつ、思い描いたイメージを、役を演じるように、自分に取りこむ練習をして、臨んだ舞台稽古。
「ああ、やめやめ!なんだ?どうした?
なんか、違うだろ?うーん」
はじまって二時間も経たず、もう二十回くらい、演出家に待ったをかけられている。
共演者や、稽古場を囲む劇団員が、一斉にため息を漏らし、「なんか、違う」と手応えのなさを自覚している俺も、肩を落としていた。
演出家を困らせるは、稽古は滞らせるは、共演者に迷惑をかけるは、団長や劇団員には落胆されるは、そりゃあ、針のむしろに立たされているようだった。
何より、ライオンこと羅伊緒が、大人しくしているのに、やるせなさを覚えたもので。
いつもなの羅伊緒なら、鼻で笑ったり、胸倉を掴んで怒鳴りつけたり、「やってられっか!」と稽古場からでていく。
そうするのも、馬鹿らしいほど、不甲斐ない俺に呆れ、失望し、興味を失くしたというのか。
稽古場の真ん中で、うな垂れ、突っ立ったままでいる俺に、タオルで汗を拭いたり、水筒を飲んだりして、一息ついただろう羅伊緒が「おい、お前さ」と呼びかけてきた。
すかさず、そっぽを向いて「すみません!」と演出家と団長のいるほうに、声を張る。
「今日は体調も悪いですし、明日、万全で臨みますから、今日は上がらせてもらっていいですか!?」
数え切れないほど、途中退場してきた羅伊緒と違い、最後の最後まで稽古に残るタイプの俺が、申し出たとなれば、いきなりで驚いたこともあり、「お?おお・・・」と気圧されるように、団長は肯いてくれた。
返事を聞くや否や、稽古場をでていった俺を、周りは呼びとめ、追いかけてはこないで、空気クラッシャーな羅伊緒も、こんなときに限って、駆けつけてくれず。
帰宅してからは、なにもする気になれず、なにも考えたくもなく、ベッドに直行して、布団にもぐりこんだ。
不安と焦りが募らせ、動悸を乱していたは、眠れないかと思ったが、布団に入ってものの一分も経たず、ようこそ夢の世界へ。で。
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