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魔人ダンダーラの略奪愛
⑧
しおりを挟む二時間も説教を絶やさなかった主催者と、快活でおしゃべりな社長がいなくなると、室内は耳が遠くなるような静けさに包まれる。
一室を楽屋として借りた、このビルは相当に古く、おまけに、ろくに改築や設備の取り換えをしていないとのこと。
この部屋にしろ、旧式の音の五月蝿いエアコンが据えられたり、床や壁に亀裂が入っていたりする。
そんな有様とあって、部屋やテナントは空きっぱなしのようで、おそらくビルには俺ら以外にほとんど人がいない。
薄暗く荒んだ部屋は楽屋として快適ではなかったものの、人気がないのはレンジャーにすれば好都合だった。
マスクを取ったところをうっかり見られて、子供の夢を壊すようなことはあってはならないから。
一般にすこし顔を知られている羅伊緒が、下手に人目につかないで済んだのも良かったところだ。
が、二人きりになると、周りで物音や声がしなく人の気配もないのが、羅伊緒がいまだ腕を組んで口を利かないこともあって、気まずいったらない。
二
時間も退屈極まりない説教をやり過ごしてまで、一体何をしたいのか。
その心中も、いまだ読めないけど、理由はろくでもないことのようにしか思えなかった。
それこそ腹を鳴らす肉食獣と部屋に閉じこめられているようで、逃げだしたくはあれど、薄情にもなりきれずに「お前、こっちのほうが向いているんじゃないか」と努めて軽口を叩く。
「魔人ダンダーラがさまになって、見慣れている俺でも恐いと思ったくらいだ。
それに、あの社長なら懐が深くて、団長みたいに怒らないし、嫌な仕事もさせないだろ。
マスクを被るから顔がばれないで、今みたいに騒がれることはないだろうし」
当たり障りない話をするはずが、墓穴を掘ってしまう。
どうも社長が羅伊緒をスカウトしたのを、気にしないではいられないらしい。
前に大柄の怪人ヤッラーのマスクを取ったときに目が覚めたのではなかったのか。
自分にないものを持つ相手に魅了されていることを認め、羅伊緒と張り合うのは意味がないと悟り、これからはお互いを尊重し高めあっていこうと心に決めたのではないか。
綺麗事を並べ立てたところで、俺の劣等感が消えるわけではなく、ほんの優越感でも羅伊緒に脅かされるのを恐れずにはいられないのだろう。
「成長しないなあ」と落ちこんでいるところに「阿呆か」と追い討ちをかけられる。
ぐうの音も出ないで中腰のままうな垂れていたら、テーブルにつく手を握られた。
「お前がいないのに」
目を見開いて振り向けば、ずっとどこかを見るともなく見ていたような魔人ダンダーラが、まっすぐに視線を注いできていた。
メッシュ越しとはいえ、瞳が熱っぽく揺れているのが分かる。
説教されて帰らなかったのは、つづきをしたかったからなのかと、呆れながらも、まんまとその一言に胸を射止められ、何も言えなくなった。
湯気がでそうに頬が火照って、マスクで見えないと分かっていても、堪らず顔を俯ける。
立ち上がる気配がして、下から迫ってきた魔人ダンダーラに口付けをされ、顔を上向かせられたなら、細かく角度を変え幾度も口付けを落とされる。
顔を寄せられるたびに俺は熱く息を切らしつつ後退していって、壁に背中をもたれた。
ごん、と壁に後頭部を打つと、口付けを降らさなくなり、口元の湿ったメッシュに指で触れながら、魔人ダンダーラが鼻息を荒くして見下ろしてくる。
視線で体をなぞられるのが愛撫のようで、身を震わせ鳴きそうになり、両手でスカートの裾を引っ張り股間と、両腕で胸の突起を隠そうとする。
喉仏を上下させた魔人ダンダーラは「く」と微かに笑い、俺の両肩を掴んだ。
肩から手を下に滑らせていって、脇の下を掴んだら親指を腕の下に捻じこんできた。
ちょうど指先が胸の突起を掠めて「っん」と上ずった声を漏らしてしまう。
咄嗟に唇を噛むも、狭い腕の下でもぞもぞと動く親指に突起を突かれて「ふ、うっ、ん、うぅん、ふう、っ」と猫が喉を鳴らすように吐息して、腰が跳ねるのを抑えられない。
魔人ダンダーラは体を寄せてこずに、少し距離を置いて観察するように見下ろしたまま、黙りこんでいる。
マスクの笑っていない目を向けられながら、一方的にこちらが身悶えているのは、何とも屈辱的だ。
ガードしきれないないくせに、腕をどかさず、スカートの裾を押さえたままでいる姿を見て、さぞ鼻で笑いつつ舌なめずりしているのだろう。
と思えば悔しく、それでいて頑なにガードをしつづける。
腕の下で胸の突起が張りつめ、スカートの下も反応をしだす。
腰を跳ねると反応しだしたのがクロスする手首のところに当たって、いけないと思うのに、腕の圧迫がある上から親指で胸の突起を押されては「う、ん、は、はあっ」どうしても腰が連動する。
人に乳首を触られて自慰に耽っているような、我ながらみっともない有様に恥じ入って、顔を伏せていたのを、そろりと目だけ向ければ、魔人ダンダーラの顔が先より傾いていた。
しきりに揺らめくスカートを見入っているらしい。
スカートの内側が、その視線で嬲られているように思えて、一段と腰を熱く疼かせて「は、あっ、濡れ、る」と湿った吐息混じりに呟いた。
とんでもないことを口走ったものだけど、タイツが汚れるのを気にしせずにはいられなかった。
見た目は安っぽくても、オーダーメイドのレンジャーのスーツが、いいお値段がするのを知っている。
だったら、腰を揺らすのをやめればいいとはいえ、自制ができずに、結局、魔人ダンダーラの手で、スカートの裾を引っ張る手を取り除かれた。
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