怪人ヤッラーの禁断の恋

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
19 / 24
魔人ダンダーラの略奪愛

しおりを挟む




ショーが終わって二時間くらい経っても俺は帰れずに、社長と羅伊緒と三人で楽屋に残っていた。
今日のイベントの主催者にこってりと絞られていたからだ。

問題とされたのは、もちろん、キスシーン。

観客に幼い子供がいるとあっては、そういった表現は避けるべきであり、ましてや敵の魔人ダンダーラとキスしたとなれば「子供にどう説明をするのか」とやや、ずれた説教まで真顔でされたもので。

「私たちのイベントは健在なものであり、公共性の高いものです。
幼いお子さんも大勢いらっしゃる。

正直、ショーのことは、あなたがたプロの取り仕切ることですから、口出しはしたくないのですが、予定にないことをやられて騒ぎになっては困るのです。

ショーですから、アドリブもあるでしょう。
しかし、今日のことは、私たちのイベントを利用し、注目されるためにゲリラ的にやったことに思えます。

炎上商法でもいいからショーや会社の名を広めようと思って、あんなことをしたなら、許せないことです。
私たちもクレームを受け責任を取らされるのですから」

二時間近く、これと大体似た内容の説教を繰りかえし聞かされていた。

そのたびに「いやあ、炎上させるつもりはあ、演者がつい盛り上がっちゃってえ」と社長は生返事をして、俺はひたすら「すみません」と肩を縮めこませ、羅伊緒は腕を組んで、だんまりを決めこんでいる。

ショーが終わってからすぐに説教タイムに入ったので、俺はピンクレンジャーのまま、防具やマントなどは取り外しながらも、羅伊緒は魔人ダンダーラのままでいた。

そのせいか、イベントの主催者は、マスクといえど厳しい顔つきの魔人ダンダーラのほうに、あまり目を向けなかった。

まあ、マスク越しにも、空腹で不機嫌なライオンよろしく、苦み走った表情が見て取れたのかもしれない。
腕を組み一言も発さず、ふてぶてしい態度をとっているのに、主催者は注意をせず、キスをした張本人にも関わらず、単独で叱りつけることもなかった。

代わりに申し訳なさそうにする俺に、説教を浴びせてきたのだけど、俺がびくついていたのは、主催者にではなく、羅伊緒にだった。

いつもの羅伊緒なら、説教がはじまったとたんに「勝手にやってろ」と思いっきり椅子でも蹴りつけて、躊躇せず俺らを置き去りにし帰っている。
はずが、空腹の獣のように殺気立ちながらも、俺の隣に二時間も座っているともなれば、逆に恐くなって当たり前だろう。

とはいっても、元々、堪え性がないだけに、そのうち聞こえよがしに貧乏ゆすりをしだした。

気づいた主催者は、怒るより怯えたように、一瞬、声を上ずらせ、誤魔化すように咳払いをしたなら「まあ、今回はそんなに大事にはなりませんでしたが」と話を締めはじめる。

「それは、お客さんが大目に見てくれて、たまたまです。
子供の教育上良くないと、怒られても仕方ないことだったのですよ。

そのことを肝に銘じて、これからは襟を正して活動をしていったください」

「はい、お客さんに感謝します」とまたも生返事する社長と、黙って頭を下げる俺を見て、流れで貧乏ゆすりをする羅伊緒に目を向けようとし、すかさず顔を背けて、そのまま主催者は楽屋から出ていった。

扉が閉まって足音が遠ざかり聞こえなくなってから「あーあ」と社長が音を立ててパイプ椅子にもたれたのに「あ、ほんと、すみませんでした」と改めて謝る。

頭を下げようとしたのを「いーって、いーって」と掌をかざして遮り「ありゃあ、建前上、怒っているだけだから」と肩をすくめられた。

「ほら、言っていたじゃない。
『私たちもクレームを受け責任を取らされる』って。

あくまで仮定の話で、すごいクレームがきているとか、責任問題になっているとか、実害が出ているとは言わなかったでしょ。

まあ、クレームはなくはなかったんだろうけど、良いほうの反響のほうが大きかったんだと思うよ」

そう言いながら、取りだしたスマホを操作して、画面を見せてきた。
表示されているのはツイッターで、次から次へと目まぐるしく呟きが更新されていっている。

「○○イベントのレンジャーショー、魔人対怪人やばかった!」

「すれっすれでパンチを避けてて、ガチでやりあっているみたい!」

「 レンジャーのショーで、まさかの悪者への子供からのエールWW」

「絶妙に仲裁に入ったピンクレンジャーの神蹴り」

「ピンクレンジャーに蹴られたいWW」

「魔人ダンダーラとピンクレンジャーのキス!ええ?実は惚れていたの?」

「そこでキスかよWW魔人ダンダーラの略奪愛劇?」

「魔人ダンダーラにキスされてピンクレンジャーの断末魔WW」

「魔人にキスされるのは正義の味方にすればレイプのようなもの?」

呟きがされてやまずに、それぞれのアカウントの四角い囲いがどんどん下へと押しこまれていく。

文字で呟かれているだけでなく、画像や動画が添付されているのも多く、スマホを手にとってスクロールしてみれば「ピンクレンジャーの中身はゴリラ?」という呟きに、ちょうど俺が鎖を引きちぎった瞬間の画像が貼ってあった。

「子供の教育上いかがなものか」「炎上上等でわざとやったんじゃね?」と批判的な呟きもあるものの、熱くレンジャー愛を語るのやネタ的に面白がる呟きに、みるみる押し潰されていき、ほとんど目に留まらなかった。

主催者に説教されて、想像していた世間の反応とはまるで様相が違うのに、口をあんぐりとして画面に見入っていたら、スマホを取られて「ほらね」と社長に笑いかけられる。

「別に炎上させるつもりで、やったわけではないけどね。
結局こうなったことで、そんなに認知されていなかったイベントの知名度があがって、先方も万々歳なのさ。

といっても、誉めたら示しがつかないし、また勝手なことをされたり足元を見られたら困るってんで、マウントを取ってきたってわけ。
次のことを考えて。

ま、そういうことだから、怒ったふりをしつつも、次のイベントにも呼んでくれるでしょ」

先方は定期的にイベントを催し、そのたびに会社に声をかけてくれるのだと、社長から聞いていた。

俺らのせいで、その関係に亀裂が入るのではと、心配していたので、社長の頼もしいやら高をくくっているやらの言葉に「そうですか」と胸を撫で下ろす。

「そーなの、だから、そんな顔しないで、ピンクレンジャー」と社長はおちゃらけて言って立ち上がり、羅伊緒のほうを向くと「いやあ、君、いい根性しているねー」と声をかける。
嫌味はなく、面白がっている口調だ。

「人が怒っている前で、堂々とふてくされた態度とって、生意気だねえ。
いいねえ。

また暇なときにでもステージに立ってくれる?
できたら会社に入って、本格的に悪役をやってほしいところだけど」

羅伊緒が腕を組んだまま、顔も向けず、うんともすんとも言わないのに、尚も面白がっているように笑いつつ「一時間半後には、スタッフが荷物取りにくるから」と俺のほうに向き直る。

「それまで、あまり時間はないけど、少しは休んでって。
おやつや飲み物は好きなだけ持って帰っていいから」

「分かりました。お疲れ様です」と俺が立ち上がろうとしたのを、やはり掌をかざして、いいよいいよというように振り、社長は楽屋から出ていった。



しおりを挟む
アルファポリスで公開していないアダルトなBL小説を電子書籍で販売中。
ブログで小説の紹介と試し読みを公開中↓
https://ci-en.dlsite.com/creator/12061
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

神子様の捧げ物が降らす激雨の愛

岡本
BL
雨の神に愛された一族の神子様として生まれたルシュディー。ある日突然、彼は転生前の記憶を思い出す。 転生前の記憶を思い出したからか、それ以前の記憶を覚えておらず、困惑する。 それでも自由気ままに、転生前の趣味に没頭していると、国中に雨を降らすことが自分の仕事と判明し、雨乞いの儀式をすることに。 態度の悪い使用人との軋轢も絶えない日々の中、ルシュディーを神子として国に縛り付ける為、側室に迎え入れた第二王子とも仲は良くなくて――。 自分の事も、力の事も何も分からないルシュディーの、全てを捧げたお話。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく@休眠中
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

処理中です...