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怪人ヤッラーの禁断の恋
⑪
しおりを挟む深夜零時を回りそうな暗いスタジオで、俺は一人、百面相をして歩き回っていた。
明日はショーのバイトもないから、居残りで稽古をしているのだ。
新たな脚本はすでに読みこんでいて、注意書きを含め一字一句頭に入っている。
前から稽古を見ていたから、大体の雰囲気も掴んでいた。
ただ、舞台に途中から参加することになって、しかも公演まで時間がないとなれば、他の演者との差を埋めるのはもちろん、違和感なく馴染み溶けこむのは難しい。
といって、日中の稽古で疲れている演者を付き合わせるわけにいかなく、ならせめて普段、稽古している場で演者のイメージを思い浮かべながら鍛錬をしようと考えた次第。
眩しい蛍光灯の下ではイメージがしにくいので、電気をつけずにスタジオで一人無言で汗をかいていた。
傍から見たら怪談のようかもしれないとはいえ、窓の向こうには雲のない夜空に真ん丸お月様が浮かび、その薄明かりが差しこむスタジオは静かで凛としている。
もう何十回目か一通りの動きをしてみせたなら、膝に力が入らなくなって、その場に腰を落とした。
忙しく呼吸をしつつ、しばし窓越しに月を仰いで、深いため息を吐き、やおら立ち上がる。
ふらつきながらスタジオの隅に置かれたバッグの元にいって、ペットボトルを手に取り口につけようとした。
そのとき。
静寂を切り裂くような、けたたましい音が鳴り響いた。
ペットボトルの中身を散らしながら、すかさず見やれば、スタジオの開かれた出入り口にライオンが立っていた。
獲物を見つけた肉食獣よろしく血走った眼をぎらつかせて、威嚇するように金髪を逆立たせている。
どうも激情に駆られているようだけど、脚本が書き換えられてもスタジオに姿を現さないライオンこそ叱られるべきであり、俺に怒りを向けるのはお門違いだ。
と、思うのに、身動きがとれなくなり、ライオンがずんずんと突進してくるのにも逃げることができなかった。
いよいよ目の前に迫って、両肩を掴まれ壁に背中を叩きつけられる。
「前にもこんなことがあったな」と思う間もなく、ライオンは頭突きをする勢いで顔を接近させ、燃えるような目を俺の瞳に据えた。
痛いような熱い視線に目を細めつつ、顔をそらさないでいたら、舌打ちをして「お前なんか」と歯ぎしりするように声を漏らした。
「お前なんか死ねばいいのに」
殺気立つライオンが口にした言葉ともなれば、洒落にはならなかった。
身動きできないながら肩を震わせ、俺は生唾を飲みこんだ。
でも、怖いのではない。
そう、怖くはなかった。
だから、すこし伸びあがって目を瞑りライオンに口付けをした。
ちょんと、跳ねるようにして唇を当てただけで顔を退け、鼻先が触れる距離でうっすら目を開けて見れば、ライオンは表情を変えることなく、ひたすら俺の瞳を覗きこんでいた。
そして何も言うことなく、急に俺の顔を手で包みこむと、のしかかるようにキスをしてきた。
はじめから舌を出してきたのに、俺もはじめから受け入れるつもりでいたから、薄く口を開けて待ち受け、深い口づけを交わす。
「お前なんか死ねばいいのに」と俺は思わないけど、ライオンを見ていて「死にたい」と思うのは根本的に同じだろう。
自分が持っていないものを相手が持っているのが悔しく、努力しても手に入れられるものでないと分かっているから絶望する。
ピンクレンジャーになって子供に拍手喝采されて、そんなやるせなさを一時は忘れることもできた。
大柄の怪人ヤッラーをライオンに見立てたなら、ライオンにとって自分は必要不可欠な存在なのではないかと思えたから。
ただ、そうとも限らないことを知っていた。
残酷にも現実では、俺が立たない舞台でもライオンは惜しみない拍手喝采を浴びている。
それにライオンにとって俺が必要不可欠な存在でなくてもよかった。
どうでもいい存在でもかまわなかった。
むしろ俺の存在価値を霞ませ、存在意義をかき消しかねないほどに光り輝いているからこそ、その眩い魅力に惹かれないでいられなかった。
獲物に襲いかかる勢いで迫ってきたライオンは、でも、顔を包みむ掌が柔らかく温かくて、口内に滑りこんできた舌も動きが細やかだった。
キスも愛撫もおざなりで早く突っこみたがる、独りよがりで乱暴なセックスをするイメージを勝手に抱いていたものの、中々どうしてスタートの口付けから丁寧に時間をかけて施してくる。
俺の息があがってくると、舌を引き抜いて、しきりに顔の角度を変え唇をついばんだり、滴る唾を舐めとったり、一通りして離れるかと思いきや、呼吸が整ってきたところで、するりと舌をいれてきて口の中全体をくすぐるように舌先を丹念に滑らせた。
おまけに顔を包みこむ手の指先で頬を撫でるは耳をくすぐるはで芸が細かく、どうしようもなく体が火照って気分が昂らされる。
舌が溶けそうに甘やかな口付けに酔いながらも、熱く固さを増している下半身が放っておかれたままでいるのに、じりじりとしてくる。
無法者のライオンなら意地悪く太ももを擦りつけてきそうなのに。
と、お門違いな不満を抱いて、胸ぐらを掴んでいたのを放し、その両手を下に滑らせようとした。
とたんに執拗に口付けをしていたのが一転、素早く手を掴まれて、骨が軋むような痛みを覚える暇もなく、もう片手で肩を掴まれ体を反転させられた。
壁についた両手を、ライオンに持ち上げられ、頭上で一まとめにされる。
捩じ上げられた腕の痛みに呻いているうちに、腰を掴まんで寄せられ、壁に額をつけながら尻を突きだす格好をさせられた。
その尻にライオンの固いのを擦りつけられ、息を飲んだところで、うなじをじっとり舐め上げられる。
尻の割れ目を広げるように、固いのを擦りつけながら、耳をしゃぶりながら、うなじを舐めながら、柔らかく温かい掌をTシャツに滑らせいった。
肩から胸の真ん中、へそへと下りていって、そのまま股間に行き当たるのを心待ちにしていたものを、へそから逆戻りして張りつめている胸の突起を爪先で弾いた。
「っ!」と声にならない熱く濡れた吐息をして、腰を跳ねてライオンの固いのに自ら擦りつけてしまう。
うなじに水音を立てて口付けされつつ、Tシャツ越しに突起を微妙な加減で爪先でいじられて、腰に切ないような痺れが走ってやまない。
もどかしいのをまた体が善がっているようで、下で張りつめているのが徐々に濡れていく。
胸の突起を爪先でいじくり回され、もう片方も爪先で散々弾かれこねられ、爪の腹で撫でられたなら、もう達したように股間は生温かい液体まみれてになっていた。
すこし擦れるだけで水音が立ちそうで、なるべく下半身を動かさないようにしていたものを、ようやく胸の突起を解放した手がジャージのズボンの中に入りこんで、下着ごと引きずり下ろしたときに、ぐちゃりと、嫌でもその音が耳についた。
音からして、しとどに濡れ糸を引いていそうな有様が思い浮かんで、顔を熱くし横に振りつつ、剥き出しになったそこにライオンの柔らかい掌が当てられれば、快感に痺れて涎を垂らさないでいられなかった。
焦らしに焦らされたとあっては、強く扱いてほしいところ。
毛を撫でるように掌を上滑りさせて耳の後ろを舐めて、直接的な刺激ではなく、水音で攻め立ててくる。
相変わらずイメージと違って、濡れた股間をまさぐる指つきは軟体動物の触手のように、いやに滑らかで、決定打には欠けても、とことん淫らな気分にさせられて、たまらなかった。
小刻みに動かす指で先っぽを擦られて、ついには我慢できず「は、んっ」と声を上げた。
ここ半年ほど、どうやっても絞りだせなかった声が漏れた。
もちろん俺は驚いたけど、事情を知っているライオンも体を痙攣させ手を留めた。
が、頭上で縫いとめている手を放してくれないで、俺に話す暇も与えてくれないで、前以上に緩慢で細やかな指つきで濡れた股間を、ちゅくちゅくと鳴らす。
中断してくれるものと思っていたのが、前にも増して意地悪にもどかしい愛撫をされて、構えていなかったのと、久しぶりに発声して調整がきかないので「あ、あ、やあ、も、あん、ああ」と声が漏らしっぱなしになる。
ライオンのが固さを増して、尻の割れ目に食い込んでくるのにも「あぁっ」と喘ぐ始末だ。
それに気づいたのか、濡れた股間をまさぐりだしてからは、止めていた腰の動きを再開させる。
手つきがもどかしい分、その振動が響いてくるのが善くて、張りつめた胸の突起にTシャツがかすめるのもまた善くて「もっ、と、あ、ん、もっとお、ん、ああ」と我慢できずに俺のほうからも尻を押しつけ揺らした。
自ら男の股間に尻を突きだして盛んに振り「もっと」「もっと」とせがむなんて、死にたくなるほどの痴態をふるまったものだけど、手を拘束され相手がいかせてくれないのでは、しかたかなかった。
ライオンにしろ達するのが目的ではないのか。
尻に押し付ける股間を俺に劣らず濡らしながらも、飽きずに首や耳を舐めつづけ、どこまでも俺の股間を濡らしつづけた。
結局、二人で、お互いの濡れた股間で擦りあい、達したのは稽古のはじまる一時間前だった。
極限まで焦らされて達したともなれば、俺は床に突っ伏して中々、動けなかったものを、霞む視界にとらえたライオンの股間はまだ膨らんでいた。
熱っぽく揺らぐ瞳を俺に向けていたけど、ふっきるようにスタジオを後にした。
それから何とか立ち直り、汚れたところもきれいにして団員たちを迎えた。
大方揃ったところで最後に着替えたライオンが姿を現したときには、場がざわついたもので。
演出家を怒鳴りつけスタジオを出ていってから、ずっと顔を見せず、もしかしたらもう戻ってこないかもしれないとも思われていたからだ。
驚き呆れ、怒り反感といった、色々な感情のこもった視線を受けつつ、ライオンは何食わぬ顔をして、俺と視線が合ったなら目を細めてみせた。
長くすっぽかしておいて今更、稽古に顔を出し、何様だというのか。
お手並み拝見と言われているようだった。
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