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怪人ヤッラーの禁断の恋
⑧
しおりを挟む公演が迫る中、大幅な脚本の書き換えで根を詰めていた脚本家とアカルイオサムのところに、脚本家の知り合いのイベント会社、社長が訪ねてきたらしい。
差し入れの焼き鳥を泣きながら食べる脚本家とアカルイオサムを見て「こんな狭いところに籠ってちゃだめだよ」と社長は助言をして、アカルイオサムにショーの出演を勧めたとのこと。
そのショーが、たまたま俺がピンクレンジャーを務めるステージだったというわけだ。
「ショーで気分転換と頭の切り替えをしたほうがいい」と諭され、アカルイオサムは素直に従ったらしいものの、内心は「そんなことをしている場合ではないのに」と焦燥に駆られてやまないのだろう。
「俺も明日、魔人ダンダーラになって、お前と一緒にステージに立ちます!」と電話に出たなり宣言をして、息つく間もなく事情をまくしたてたなら「じゃ、明日よろしく」とやけになったように笑いながら電話を切った。
一方的に電話で話したことは前にもあったけど、そう、そもそも声が出ない俺に電話をしてきている時点で怪しかったわけで。
そして当日。
いつも通りトイレでピンクレンジャーの衣装に着替えて現場に向かうと、すでに魔人ダンダーラはステージに立っていて他のメンバーとリハーサルをしていた。
魔人ダンダーラは怪人ヤッラーのようにアクションをしないでよく、音声に合わせて適当に動けばいい。
劇団では役者もやるアカルイオサムだから問題なく動けていたし、徹夜つづきでワーキングハイになっているようだったけど、段取りを無視して暴走することもなかった。
これなら共演しても大丈夫かとほっとしつつも、気になることが一つ。
魔人ダンダーラに扮していては中身が確認できないことだ。
本当にステージにいるのがアカルイオサムなのか分からなかった。
まあ、気が変わってステージに上がらなかったのなら、それはそれで別にかまわなかったものの。
俺もステージに上がって魔人ダンダーラの前に立った時「へー似合うじゃん」と囁いてきたのは、残念ながら、アカルイオサムだった。
その日のショーのシナリオはちょうど、というか、魔人ダンダーラがピンクレンジャーを人質にとるというもの。
前にも同じシナリオでショーをしたことがあり、そのときは魔人ダンダーラがピンクレンジャーに杖を向けて「呪文を唱えればピンクレンジャーの命はないぞ!」と他のレンジャーに言い渡していた。
このシーンの動作は別に決められていなく、魔人ダンダーラが音声に合わせて、自由にそれらしく動くのに俺も合わせるという形をとっている。
だったら、さて、アカルイオサムがどう動くかと出方を窺ったところ、後ろから俺の首に腕を回して、かるく締め上げてきた。
腕にはそんな力が入っていなかったけど、密着する格好になり、スピーカーから響く音声に紛れて「いいケツしてるな」「感触も俺好みかも」といちいち親父臭く囁いてくるのは勘弁してほしかった。
おまけに目立たないように俺の尻に腰を擦りつけてくる始末。
リハーサルが終わったらアカルイオサムを人気のないところに引っ張ていき、一応、持ち歩いているメモ帳でもって注意しようと思ったものの、リハーサルの途中で機器のトラブルがあったり、メンバーと監督の揉め事があったりで、本番までにほとんど暇が取れなかった。
様子を見に来たイベント会社社長にアカルイオサムが挨拶にいってしまったこともあり、結局、文句をつけられないまま、本番のステージに上がることに。
とはいっても、アカルイオサムだって役者をやっている身だ。
リハーサルで少しふざけても、本番ではきっちりと決めてくれるものと思っていた。
の、だけど。
大柄のヤッラーとのタイマンが終わり、相変わらず歓声が上がってやまない中、一旦ステージから降りて息つく間もなく、魔人ダンダーラを後ろに従えて舞台に舞いもどった。
おどろおどろしい音楽と「フハハハハ」という笑い声が鳴り響くステージ上で、魔人ダンダーラがピンクレンジャーの首に腕を回し引き寄せると、子供たちの歓声は一転して「そんなピンクレンジャー!」という悲鳴や「魔人ダンダーラ放せ!」という怒号へと変わった。
子供たちの反応に気を良くして「悪役もいいもんだな?ん?」とアカルイオサムはまた囁きかけてきて、尻に腰を擦りつけてきた。
足を踏みつけたいのを堪えて、腰を擦りつけるだけなら害はないとして、やり過ごそうとしたものの、どうも尻に当たるそれが異変してきているようで嫌な予感がした。
そう、魔人ダンダーラはごつい甲冑のようなものを身につけているのに、股のあたりには何もなく、伸縮性のある薄い布に覆われているだけなのだ。
無変化なら目を引くことはないとはいえ、すこしでも反応をすれば露骨に形が浮き彫りになるわけで。
もちろん薄い布越しの感触はほぼダイレクトに伝わってくる。
気のせいだと思いたかった。
が、スカートがめくれて剥き出しになっている俺の尻も、薄い布一枚に覆われているだけとあって、徐々に当たっているのが熱く固くなっていくのを、とても無視することはできなかった。
「フハハハハ、ピンクレンジャーは我が手中にあり!」と魔人ダンダーラが下品に笑うのに合わせて、膨らみを押し当てたままピストンするように腰を振られては、相手が男で、俺が男であってもたまったものではない。
ワーキングハイだろうと目に余るもので、それでもショーを中断させるほどの暴挙ではなかったから「終わったら覚えてろ」と奥歯を噛みしめつつ、耐え忍ぼうとした。
そうして人が折角、目を瞑ってやろうとしたところで魔人ダンダーラは余計に調子に乗り、ついには杖を放って「どおしたレッドレンジャー!ピンクレンジャーの命が惜しくないのかあ!」との音声に合わせ、その手でピンクレンジャーの片乳を揉みしだいてきた。
詰め物をした胸とはいえ、気色悪さを覚えたし、揉むのと同時に腰を盛んに振られては、しかも熱く固いのを尻に擦りつけられては、レイプされているように思えるというもので。
何より他の演者や観客が引いてしまえば、アウトだ。
気づかれないように魔人ダンダーラの足先をかかとで思いっきり踏みつけ、腹に肘鉄を食らわせた。
呻きを上げて、よろけそうになったのを、首に回している腕と、胸を揉む手の手首を掴んで俺のほうに寄りかからせたまま、足先を踏みつづけた。
やせ細った体をしてアクションの鍛錬も、そんなにしていないアカルイオサムだから、大した打撃でなくてもかなり痛がり、尻を揉むのと腰を振るのをやめた。
それから力なく俺の背中に覆いかぶさるようにして、あまり動けずにいたものの、レンジャーたちが主にやりとりするシーンに切り替わったし、後は「くらえ!魔人ダンダーラ!」とフラッシュのような強烈な光を当てられて倒れるだけだったので、とくに支障はなかった。
魔人ダンダーラの手を逃れて仲間のレンジャーと合流をすれば、しらけつつあった子供はまた活気を取りもどして「やっちゃえピンクレンジャー!」と喚きだし、盛況のままステージの幕を閉じることができた。
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