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魔人ダンダーラの略奪愛
⑤
しおりを挟む前にショーに出演したときには、ピンクレンジャーが魔人ダンダーラに人質にとられる一幕があった。
それから話を発展させたとかで、今回は魔人ダンダーラに誘拐されアジトで拘束されるという、展開が追加されていた。
もちろん、他のレンジャーが助けにきてくれるのだけど、駆けつけるまでの間に、結構、長くピンクレンジャーが拘束されている場面がつづく。
その場面こそが、社長が目玉に掲げるテーマ「怪人ヤッラーの禁断の恋」を反映させたものだった。
アジトではピンクレンジャーが頭上に掲げた両手に鉄の手枷をはめられ、鎖で壁に縫いとめられている。
その姿をじっくりと眺めながら、魔人ダンダーラが「ざまあないな」とせせら笑い、助けにくるレンジャーをはめる罠について、とくと自慢してから引っこむ。
「どうにかしなくちゃ」とピンクレンジャーが呟き、拘束具を外そうとしたり、自由な足をばたつかせているところに現れる大柄の怪人ヤッラー。
咄嗟に動きを留め、身構えるけど、怪人ヤッラーの様子がおかしい。
肩を縮めこませて、しきりに辺りを見回し、ピンクレンジャーの傍に寄ろうとしては足を引っこめたりする。
しばらく、足を踏みだし退きを繰りかえし、そのうち意を決したように歩み寄ってピンクレンジャーの前で跪くと、一輪の花を差しだす。
呆気に取られるピンクレンジャーを尻目に、怪人ヤッラーは大きな手で小さな花を差しだしつづけて「ピ、ピ、ン」と声をどもらせる。
言いきる前に、背後で物音がしたのに跳び上がって一目散に逃げてしまう。
それから三日間、一日に三、四回は大柄の怪人ヤッラーはピンクレンジャーの元を訪れ、そのたびに磨かれた石や、汚れたぬいぐるみ、一足だけのハイヒール、頭につけるリボンなどを持ってきて差しだしてくる。
そして毎度、物音がするとすぐに、それらを持って逃げ帰ってしまう。
はじめは見せびらかしているだけかと、ピンクレンジャーは思うけど「ピ、ピ、ン」と名前を呼びたそうなのを見て、こちらが受けとれない状態なのが分からないのかもしれないと、考えだす。
魔人ダンダーラは怪人ヤッラーが裏切らないよう、知能を低く設計して作り出したという。
名前を呼びたくてもままならないのも、そのせいだろう。
また、ピンクレンジャーが拘束さていると認識ができないから、贈り物が気に入ってもらえず、受けとってもらえないと思っているのかもしれない。
それでも諦めずに、違う贈り物を差しだしているのなら、敵の怪人ヤッラーといえど、袖にするのは躊躇われて、ある日、ピンクレンジャーは声をかける。
怪人ヤッラーが名前を呼びたそうにしているのに「ピ、ン、ク、レ、ン、ジャー、よ」と言ってあげる。
怪人ヤッラーはきょとんとしつつ「ピン、ン、ク」と後を追うように言う。
それから何度もピンクレンジャーはゆっくりと名前を言い聞かせ、習って怪人ヤッラーが口を動かし、何度か繰り返すうちに「ピ、ピンク、レ、レ、ンジャー」と最後まで言えるようになる。
「そうよ、言えたじゃない!」とピンクレンジャーが誉めれば、怪人ヤッラーは嬉しそうにしたけど、いつものように物音がしたのに慌てて帰っていく。
知能が低い怪人ヤッラーでも、魔人ダンダーラにばれたらまずいとは分かっているらしく、見つかるのを恐れているよう。
翌日に現れた大柄の怪人ヤッラーは贈り物を差しださずに、念入りに辺りを見渡してから、鍵を取りだしてピンクレンジャーの手枷を取ろうとする。
そのときに響き渡る魔人ダンダーラの声。
「なんの気まぐれかと、研究のためにもしばらく観察していたが、まさか裏切る真似をするとはな!
怪人ヤッラーの製造過程を見直す必要があるようだ!」
高らかな笑いを響かせながら魔人ダンダーラが登場。
「逃げて!」と言うピンクレンジャーの言葉に耳を貸さず、怪人ヤッラーは魔人ダンダーラに襲いかかって、魔法の杖を遠くに投げる。
「おお!敵との交流で知能が高くなっているのか!
だが、私を舐めてもらっては困るぞ!」
それからおっぱじまる、魔人ダンダーラと裏切り者、怪人ヤッラーの肉弾戦。
怪人ヤッラーは身体能力が高いとはいえ、魔人ダンダーラのほうが悪知恵が働き、目くらましに光を当てるくらいの魔法が使えることもあって、そうした卑怯な手を使い、一方的に拳や蹴りを浴びせていく。
それでも、中々、怪人ヤッラーが倒れないので、目くらましをしてからピンクレンジャーに襲いかかる。
気づいた怪人ヤッラーが立ちはだかり、ピンクレンジャーの「やめてええええ」の叫びは響く中、魔人ダンダーラの拳を深く受ける。
魔人ダンダーラが手を引き抜くと、そこには怪人ヤッラーの魂の玉が握られている。
事切れて倒れる怪人ヤッラー。
「いやあああああ」とピンクレンジャーの絶叫が響き渡りステージは暗転。
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