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魔人ダンダーラの略奪愛
③
しおりを挟む急に代役になったことで、俺と羅伊緒は他の演者よりすこし遅れて楽屋に入った。
誰もいない楽屋で、俺は慣れたもので、さっさとピンクレンジャーのスーツに着替え、装飾が多い魔人ダンダーラの着替えを手伝ってやった。
お互いにマスクを被って改めて向き合うと、中身は羅伊緒と分かっているはずが、得体が知れないように見えてしまう。
羅伊緒が黙ったままでいるから余計で、何となく落ちつかずに「へえ、ぴったりだ。お前の体格って白人並なんだな」とやたらと話しかけて笑ってみせた。
空元気な俺を「はあ?」と蔑んだり「はっ」と鼻で笑うこともなく、マスク越しにひたすら見つめてくる羅伊緒。
いい加減、居たたまらずに「あ、もう時間ないな。リハーサルに間に合わなくなる」と背を向けようとしたところで、腕を掴まれ引っ張られた。
こけそうになって前屈みになったのを、今度は上に引っ張られて、且つ肩を掴んで背中を壁に叩きつけられる。
驚きと背中の痛みに、すぐに抗議ができず、頭上に掲げた手を壁に縫いとめられたまま、咳きこむ。
息が整ってから顔を上げたところで、マスク越しに舐めるような視線を向けられ、今更にピンクレンジャーに扮しているのが恥ずかしくなり、マスクの下で頬を熱くして俯いた。
羅伊緒が声を発さないせいで、魔人ダンダーラに迫られているように錯覚しないでもなく、恐いようでいながら、鼓動が早くなり体が火照ってしまう。
「もう、こんなことしてる場合じゃ」と羞恥に耐えられず、肩を押さえている手を掴んだら、すぐに振り払われ、メッシュ越しの唇に人差し指を突きつけられた。
メッシュに加えて厚い手袋越しだったとはいえ、唇に受けた感触は十分に心臓に悪いもので、すっかり俺は黙らせられ、魔人ダンダーラの指が下に滑っていくのを留められなかった。
顔の輪郭をなぞって、顎の下を撫でて喉仏をくすぐり、鎖骨を滑って突起をかすめるように、胸からさらに下に。
動きやすいようスーツは伸縮性があって薄いから、僅かに爪先が引っかかるのも分かるほど伝わって、いやむしろ、気のせいか、直に触られるより、指の動きが生々しく感じとれる。
ピンクレンジャーと魔人ダンダーラに扮しているせいなのか。
傍からすれば、魔法をかけられ身動きのとれないピンクレンジャーが、魔人ダンダーラの指で弄ばれている場面に見えるかも。
と、思えば、浅ましくも熱い吐息が漏れる有様だ。
脇腹にゆっくりと指を滑らされ、背筋を震わせつつ、指がスカート部分に達しようとしたのに、さすがに魔人ダンダーラの指を捕まえようとした。
が、空振りをして、急に背後に回った指はスカート越しに尻の割れ目をなぞって、裾から中にもぐりこんだ。
俺の尻なんて、これまで幾度も揉みしだいてきたというのに、掌と指先で感触と形を改めて確かめるように、丹念に撫で回してくる。
電車の痴漢みたいな触り方に、それ以上の屈辱を与えられたこともあるはずの俺は、初心に「あ、やだ」と体を震わせるだけで、ろくな抵抗をしなかった。
これまでも女装をしたことがあるとはいえ、スカートの中に手を突っこまれ尻を触れるのは初めて。
スカートがあるなしでは、こんなにも感覚が違うものなのか。
スカートがあるだけで、普段はさほど気にしない自分の尻の張りや形などが意識されて、裾がひらめいて人目にそれが晒されるのが、たまらなく恥ずかしいことのように思える。
下にタイツを着用しているといっても、ぴったりとして尻の割れ目が透けて見えるのは、よりによって色がピンクなこともあって、もっといやらしい感じがした。
ピンクのタイツ姿なら、間抜けで笑えるところ、スカートをはくことで、内股になって後ろの裾を押さえたくなるほどの恥じらいが湧くとは。
いや、今の俺は前の裾も押さえたいところだ。
前もタイツに透けて形が浮かび上がっていて、普通にしていればスカートに隠れても、もよおしたら布を押しあげてしまうだろう。
そうなったら、このまま魔人ダンダーラに犯される。
犯されたとして、本番までには間に合うかもしれないけど、初めてショーに出演する羅伊緒にリハーサル抜きでステージに立たせるのは危険すぎだ。
と、分かっていても、羅伊緒とうより、魔人ダンダーラにスカートの中をまさぐられるのに、倒錯的な快楽を覚えて、腕を掴んでいる手に力が入らない。
もう、魔人ダンダーラに犯されてもいいかも。
なんて諦めかけたとき、楽屋の扉が開いた。
とたんに我に返って、羅伊緒の手を尻から引き剥がし見やれば、大柄の怪人ヤッラーが扉を開けたまま、固まっていた。
一瞬、俺はぎくりとしたものの「いや、あいつは暴力沙汰を起したから」と思い直し、話しかけようとした。
が、一言も発しないうちに勢いよく扉を閉められた。
羅伊緒もさすがに頭が冷えたようで「なんだ、あいつ」と言った。
声が聞けたことで、魔人ダンダーラの呪縛から解き放たれたように思い「呼びにきたんだよ!急がないと!」と羅伊緒の手を振り払い、また捕まらないよう素早く駆けだした。
邪魔が入ったことで、すっかり白けたらしい羅伊緒は腕を伸ばしてはこずに、ライオンのようにのっそりと歩きだす。
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