怪人ヤッラーの禁断の恋

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
14 / 24
魔人ダンダーラの略奪愛

しおりを挟む






「君とまた仕事ができるのが、楽しみだよ。
そうそう、ちょっとしたサプライズもあったりしてね」

楽しみに思ってくれるのはいいとして「サプライズ」とは引っかかる。

どうも嫌な予感がして、サプライズといえど、何とか探りを入れられないかと思ったけど、そんな隙を与えないように「後、悪いけど、もう一つ頼みごとをしていいかな」と畳みかけられた。

「魔人ダンダーラの子が、さっき急にお腹を痛めて吐いちゃってね。
食あたりみたいで、今日は病院で安静にすることになったんだよ。

白人のいい子でさ、これまで無遅刻無欠勤だったものだから、つい頼りきりにしちゃって、他を当てにしていなかったんだよね。
急いで色々と当たってみたけど、あれだけでっかい子になると、中々見つからなくて。

今日だけでもいいんだ。

劇団に大きな子で、なるべくステージ慣れしてアクションのできる子がいたら、一緒に来て欲しいなって」

魔人ダンダーラは、小柄なのと大柄なのと二人いた覚えがある。

ショーの内容によって使い分けて、魔法重視のラスボス感を出したいときは小柄なのを。
アクションもする実力派なボス感を出したいときは大柄なのを出演させていた。

ちなみにアカルイオサムが、飛び込みで代役をしたときは、小柄なほうだった。

アクションはせず、音声に合わせ仰々しく魔法の杖を振るくらいしか、しなくて良かったから、代役をこなせたわけだけど、大柄のほうだと、そうはいかない。

同じ身長ほどの人材はいても、肩パットにマント、甲冑のような、ごつい防具を身につけてアクションをこなせる人物は少ないだろう。

劇団では逆に、アクションができる奴はいても、身長が足らない。
唯一、当てはまる団員、羅伊緒にしろ、今日は朝から晩までメディアの取材とラジオ、テレビ出演があると言っていたから無理だ。

おそらくピンクレンジャーの代役探しより、困っているだろうと思えば、今すぐに羅伊緒を電話で呼びつけたいところだけど、一目散に駆けつけてきそうなのが逆に恐いので「あーすみません」と言おうとした。
そのとき、けたたましくドアが開く音がした。

ドアを殴りつけるようにして開けたのだろう。
見やれば羅伊緒が不動明王のような顔をして、無言で稽古場を突っ切っていった。

行き当たった壁に歩く勢いのまま、頭突きをかまし動かなくなる。

突然の出現にして奇行を見せられたわけだが、俺はさほど驚かずに「すみません、ちょっと、待っててもらえますか」と電話を保留にして「大丈夫か」と声をかけた。

「マスコミなんて糞くらえだ」

壁に頭突きした体勢のまま、殺意のこもった一言をこぼして、それきり口を利こうとしなかった。

「取材とかどうしたんだ」「途中で投げ出してきたのか」と聞くべきなのだろうけど、本心では「羅伊緒にしては、よくもったほうだ」と思うだけに声のかけようがない。

「保守的な演劇界に殴りこんできた風雲児」「これからの演劇界を背負う次世代スター」なんて仰々しいフレーズを掲げられ、もてはやさている羅伊緒とはいえ、本人はどこ吹く風で、なんなら興ざめしているようだった。

賛美の言葉を浴びせ、神輿を担ぐ連中をあからさまに鬱陶しがり、蔑むように見て「てめえの目は腐ってんじゃねえか」「俺を利用して旨い汁をすすろうとすんじゃねえよ」とどれだけ偉い評論家だろうと無礼を口を叩いて憚らない。

こんな調子では、当然、メディアやマスコミを相手にするのも嫌がったものの「いつも大目に見ているんだ。すこしは客寄せパンだとして働け。じゃないと退団させるぞ」のと団長の命令に、意外にも羅伊緒は従った。

こう言っては悪いけど、羅伊緒は団長を敬っていない。
だから、団長に頭が上がらないわけではないし、ましてやマスコミにおだてられて調子づくタイプでなければ、俳優として名を上げることに熱心な野心家でもなかった。

にも関わらず、ライオンのように金髪を逆立たせながらも団長の言うことを聞いているのは「退団させるそ」の脅しが効いているからだろう。

周りの賞賛に耳を貸さないほど、欲も野心も関心もない羅伊緒は、でも劇団には執着心があるらしい。

そうなら、まともに台本を読んできたり、下手に周りに喧嘩を売らずに稽古に励んだり、本番でやらかして周りを混乱に陥らせないで欲しいのだけど。

「もう戻らないつもり?」と未だ反省する猿状態の羅伊緒に聞けば、睨まれた。
別に「戻れ」と説得するつもりはなかった。

ドタキャンされた先方には迷惑がかかるだろうとはいえ、前に読んだ羅伊緒の記事が散々だったことを思えば、多少、俺もマスコミ不信があるから、あまり同情はできなかった。

元より、劇団が来るもの拒まずに、質の悪い仕事も多く引き受け、その上で過密スケジュールを押しつけてきたのにも原因があるわけだから、短気な羅伊緒ならとくに耐えたほうだと、それこそ同情をするところ。

まあ、なんだかんだ、見てみたいのかもな。
と、思いつつ、羅伊緒の睨みを無視して、保留を止めたスマホに耳を当て言った。

「すみませんでした。
ちょうどいい奴が見つかったもんで」





しおりを挟む
アルファポリスで公開していないアダルトなBL小説を電子書籍で販売中。
ブログで小説の紹介と試し読みを公開中↓
https://ci-en.dlsite.com/creator/12061
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

神子様の捧げ物が降らす激雨の愛

岡本
BL
雨の神に愛された一族の神子様として生まれたルシュディー。ある日突然、彼は転生前の記憶を思い出す。 転生前の記憶を思い出したからか、それ以前の記憶を覚えておらず、困惑する。 それでも自由気ままに、転生前の趣味に没頭していると、国中に雨を降らすことが自分の仕事と判明し、雨乞いの儀式をすることに。 態度の悪い使用人との軋轢も絶えない日々の中、ルシュディーを神子として国に縛り付ける為、側室に迎え入れた第二王子とも仲は良くなくて――。 自分の事も、力の事も何も分からないルシュディーの、全てを捧げたお話。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく@休眠中
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

処理中です...