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ハイヒールで俺は紳士たちを見下ろす②
しおりを挟む沼に溺れて、しばらく水中を暴れ水泡を吹いたものの、意識が遠のいていって。
そのあとの記憶はアイマイだ。
氷漬けにされたドレス姿のゴリラ(俺)が、まさに見世物になって博物館に展示され、紳士淑女にさんざん笑いものにされる。
そんな、がんじがらめの悪夢にうなされつつ、合間合間に「お嬢さま!」「お嬢さま!」と泣きっ面のベンに呼びかけられたような。
寂しがって、くーん、くーんとしきりに鳴く犬のように。
「お嬢さま!ごめんなさい!」とびしょ濡れのドレスの上を脱がされて、乾いた厚い布に包まれて。
タオルで体を拭いてくれるも「ああ、なんて冷たい・・・!」とベンが焦るようにしながら、ぼろぼろと泣いて。
しばし深刻そうに考えこみ、ぎゅっと目を瞑ったなら「お嬢さま!お許しを!」と上半身をおおっていた布を取って。
頬を染め、瞼を閉じたまま、ベンも上着を脱いで、浅黒く張りのある胸を見せて。
その胸を俺にくっつけると、芯まで凍えていたのが、密着したところからヌクモリが広がっていって。
密着しつつ、手や足に息をかけ、手で擦ってくれ、氷漬けにされたように、冷たく硬直していた体が、じんわりと温かく、ほぐれていき。
たき火の火花が散り、木がはぜる、ぱちぱちという音が聞こえて・・・。
氷漬けされていたゴリラ(俺)が、氷がすべて水となって解放。
ずぶ濡れながら「アイルビーバック」とばかり仁王立ちすると、紳士淑女がとたんに顔を青ざめ、悲鳴をあげ、腰をぬかし、おしっこを漏らす。
なんて夢のハッピーエンド(?)を見たところで、完全に目を覚ました。
場所は自室のベッド。
ちょうどカーテンを開けようとしていたメイドが、俺が咳きこんだのに振りかえって、みるみる涙ぐんで。
「お嬢さま!よかった!」と呼び鈴を鳴らしまくって、駆けつけた両親はベッドにダイブするように抱きついて大泣き。
両親と使用人たちの大泣きパーティーがおさまるころには、断片的な記憶から、なにがあったのか、おおよそハアクをして。
「すまない、とり乱して」と体を引いた父に「父さん!」とつめ寄った。
「あ、その・・・屋敷につれてこられた俺は、ひどい格好をしていたと思うけど、ベンはただただ命を助けようとしてくれたんだ!
沼に落ちたのも、ベンの注意をちゃんと聞かなかった俺がワルイのであって・・・!」
「分かってる、分かってるよ。
屋敷や領地の者は、救出されるおまえと連れ添うベンを見たけど、だれも誤解するようなことはないだろう。
どれだけベンが忠誠心が強く実直な者か知っているからね。
ただ、本人も母親も、罰を受けるか、追放されるのを覚悟しているから、逆に困ったものだよ。
しばらくは、安静にしたほうがいいし、あの親子が落ちつくまで、ベンには会わないほうがいいだろう」
ほんらい、使用人が領主の娘の肌に触れるなどご法度だ。
が、父をはじめ領地の人は、俺の命を救うためにしかたなかったと、目をつむり、決して口外しないつもりらしい。
「転生先が、いい人ばかりでよかった」とほっとしつつ、ベンにはワルイことをしたなと大反省。
たとえ、まわりが大目に見ようと、忠犬のような一本気なヤツだから、さぞ自分を責めていることだろう。
どうしたら、ベンが気に病まないで済んで、まえのように屈託なく土地探索につきあってくれるかな。
そう頭を悩ませつづけた療養中。
もちろん、エルビーとウェルズさまが、お見舞いにきたものの、さすがに死にかけた相手には手加減してくれ、熱烈アプローチをしなければ、ライバル同士(表むきは)争いを激化せず。
その点では、俺の心の平穏が保たれたものを、ベンについての難題には、もやもやするばかり。
結局、答えを見つけられないまま、日常生活を送れるほど、心身が回復したころ。
皇女、アメリからお茶会の誘いが。
まるで領地で一騒動があり、それの収まりがついたのを見越したようなタイミングばっちりなお誘い。
考えすぎかもしれないが、俺に恥をかかそうとし、屈辱的なしっぺ返しを二回もくらった相手だけに、いい予感はしない。
とはいえ、皇帝の娘からの誘いを断れる立場でなし。
皇女のお茶会は殿方立ち入り禁止とあって、エルビーとウェルズさまも、さすがに手だしができず、胃をきりきりさせながら、彼女の住まう御殿へと。
胃痛はストレスのせいもあるが、コルセットのせいもある。
メイドが「皇女に舐められたらいけませんから!」と限界までしめあげたもので。
そうそう、前世の世界史の先生曰く、中世ヨーロッパの人たちは、ウェストが細いだけ美しいという、狂った感性をしていたらしいから。
郷にいては郷に従え。
そのつもりで、一物がついたままでも、淑女扱いされるのに甘んじ、レースだらけのドレスや、外反母趾必至なハイヒールを身に着けたとはいっても、だ。
こちとら元柔道部キャプテンで人並み以上に男らしい体つきにして、腰のくびれは皆無。
もともと、ある女性ならまだしも、無から有を生みだそうとするとは酷すぎる。
イヤな予感がしたとおり、皇女のお茶会はアンチな状況。
そりゃあ、疎外感や居たたまれなさを覚えたものの、コルセットのせいで呼吸がままならず、ぼうっとしてしまい、たぶんイヤミや皮肉にも、ひたすら肯いていたと思う。
あまりにイジメの手ごたえがないのに、苛立ったのか、にわかに皇女はぶっこんできた。
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