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ハイヒールで俺は紳士たちを見下ろす⓵
しおりを挟む俺がハイヒールをはくと、ほとんどの男たちを見下ろすことになる。
乙女ゲーム、その舞台は中世ヨーロッパ風だから、日本人の男より、みんな上背があるなれど。
なにせ、日本の令和時代にあって、俺は男子高生の平均身長の十五センチは上回っているので。
この世界の男どもと身長では対等だし、プラスヒールの高さが加われば、そりゃあ、二メートル近くとあって、バケモノじみている。
きらびやかで、レースふりふりのドレスを着ていれば、なおのこと。
まあ、前世の世界史の先生が教えてくれたことには、ナポレオンもシークレットブーツをはいていたというし。
なかには、ひそかに厚底のブーツをはく男もいるのかもしれないが、今のところ、俺を見下ろせるヤツと会ったことなし。
ほかの女性もハイヒールで高身長になりつつ、さらに俺は肩幅が広く、筋肉質で重量感があるから、ずばぬけての巨体。
おまけに、前世では「昭和の男前」と称されたほど、まごうことなき日本男児の凛々しい顔つき。
ただでさえ、ワルメダチする巨体にして、西洋人のなかで、一人日本人が混じっては、浮きまくり。
イジメの標的になりやすいのは、しかたないとしても、だ。
中世ヨーロッパ風の男は紳士なイメージがあれど、女性より、ドレスをはいたゴリラに不快感を露わにし、手きびしい。
屋敷や領地の人たちは、ゲーム設定マジックがあるからか「可憐だ」「美しい」ともてはやし、俺を淑女と見なし、エスコートしてくれたのが。
社交界デビューしたときは、ドアを開ける、椅子を引く、手を取って誘うなど、基本的な作法をせず、近くにいても、挨拶をしなければ、目を合わせず。
まだ女性は、顔を引きつらせながらも、最低限の礼儀を示してくれたのに対し、野郎どもは無礼全開に、俺をガン無視。
元柔道部キャプテンとしては、闘志むきだしに男と組みあうのは上等でも、男に腫れものを触るような扱いをされても、サブイボが立つだけ。
なので、透明人間扱いされるのは、べつに、かまわなかったが、まあ大声で笑って陰口をひけらかしやがって。
「いやあ、まさか、ジャングル以外でゴリラを見れるなんて!」
「見世物にしても、ゴリラに淑女の格好をさせるとは、ちと悪趣味でありませんかな!」
「ウカツには笑えませんぞ!一丁前にドレスで着飾りながらも、わたしたちの首をひとひねりするやもしれません!」
(ご所望どおり、首を絞めて、落としてやろうか?)
こういう紳士とはほど遠い、下劣な輩を見ると、ほとんどが貧相な体つきで、気の弱そうな顔つきをしていたに、見比べてコンプレックスが疼いたのかもしれない。
とはいえ基本は「女のくせに、俺らを体格や腕力で圧倒して、男に恥をかかせるな!」と拗ねているのだろう。
いい年して、ハナタレ小僧みたいな、みみっちい発想しやがって。
蔑むにしろ、扇で口元を隠し、くすくすする淑女たちを、すこしは見習ったらどうだ。
前世でも、女子と比べての、男子の精神年齢に低さに辟易としたものだが、乙女ゲームの世界でも相かわらずだし、男の女性観はこれが当たりまえらしい。
ということは、俺に云いよる二人が常識の範囲外の存在なわけ。
一人は幼なじみのエルビー。
領地の人しか、乙女ゲーム設定マジックにかからないはずが、転生して初対面のときから、ドレスを着たゴリラに熱視線をそそぎっぱなし。
おまけに人目があってもかまわず、社交ダンスで、リードとフォローを交換する始末。
公の場で、男役と女役が入れかわるのは、全体未聞だと思うが、女役である俺にリードされて、子供のように、はしゃぎいで大笑いした強者。
たんに無邪気なだけでなく「世の決まりが自分に合わないなら、自分がアラタなレールを敷いて、みんなに従わせてやる」とばかり、策略家、野心家の一面もあるらしく、どうも、まわりは気圧されて、口だしや手だしができない。
首ったけの皇女も、強硬手段をとれないし。
二人目は皇帝の座を弟に譲ったことで、国民的支持を受けるウェルズさま。
四十代と年の功があってか、彼も人目を気にせず「女より見劣りするなんて」と些末なことにこだわらない。
小柄で華奢ながら「すこし、足がふらついてね」といっそ割りきって俺の太い腕に抱きつき、寄りかかるし。
まわりから白い目で見られても「ぎっくり腰になっても、きみならカルガルと抱えてくれるね」とユーモアと茶目っけたっぷりにウィンクするし。
人目をはばからず、社交界の評判や噂もなんのそのと、ドレスを着飾ったゴリラにかまってくれるのは、ありがたいこと。
股間に重いのがぶら下がっていても、胸をときめかせたいところだが、二人とも俺を孕ませようとしているから。
いや、云いかたがヨクナイとはいえ、求愛しているなら、最終目標がそこなのに変わりはない。
エルビーと結ばれれば、ゲームのルート的に「子だくさん」の家庭を築くことに。
ウェルズさまには、はっきりと子供が欲しいと口説かれているし。
この二人は先日の皇女の一件があり、ライバル関係になるという、もっとややこしい展開に。
まえから、エルビーの屋敷訪問がヒンパンだったのが、競いあって二人とも足を運ぶようになり、俺は避けるため森番をつれて、領地内をめぐる日々。
森番のベンは、領地一、土地のスミズミを事細かにハアクし、仕事ぶりもピカイチだと親が買っているし、まわりの評価も高い。
その腕はたしかで、二人の追跡をかわしつつ、興味深い土地に案内してくれ、いろいろな領民たちと引きあわせ、話しあいの場を設けてくれた。
ぺったんこの靴をはいた俺の、肩にも届かない低い身長ながら、使用人だから、というだけでなく、体格差が気に障るタイプでないらしく。
頼もしく森を先導しつつも「お嬢さま」「お嬢さま」と懐こく呼びかけるさまは、子犬のよう。
巻き毛だし、透きとおった茶色の真ん丸お目目をしてて、まさにプードル。
その見た目はもちろん、より愛らしさを覚えるのは、ベンに異国の血が混ざっているからだろう。
俺が昭和の男前な日本人ならでなの顔つきなら、ベンはいかにもインド系で顔が濃い。
その血筋は母から。
彼女は異国の地から、つれてこられた奴隷だったとのこと。
ある屋敷で働かせられていたのが、ベンを身ごもり、そのことを主が許さなかったので逃亡。
追われている途中、俺の両親に助けてもらい、ちょうど欠員していた森番の職を与え、森の小屋に親子ともに暮らせるように手配してくれたのだとか。
この世界では、キリスト教のような教えが浸透し、私生児には風当たりがキビシイところ、俺の両親は変わり者だったし、領民たちとは信頼関係が築けていたから。
領地の村に、ベン親子はあたたかく向かいいれられ、見守られた。
まあ一方では「いくら村人と打ちとけても、母親はかたくなに、父の正体を明かそうとしない」と不思議がられ、噂になっていたが。
俺にすれば、父親がだれだろうとどうでもいいし、母親が異国の人なのに感謝したい。
西洋人だらけの、ぼっち日本人にとっては、まだ親近感のあるアジア系の人がソバにいるのが心強く、心休まる。
淑女の冷ややかな視線、紳士のガキっぽい差別、皇女のねちねちとしたイジメ、ありがた迷惑な二人の求愛・・・。
ふりかかってくる理不尽なシウチに「元柔道部キャプテンにドレスとハイヒールをあてがう神がまちがっているのであって、俺はワルクナイ!」と片っ端から、背負い投げしたくなるようなストレスが、ベンとの土地探索のときにだけ、浄化される。
乙女ゲームで(一物を持ったまま)淑女として生きぬくには、欠かせない癒しだったが、いささか気が緩みすぎたか。
森の道を歩いているとき。
「ベン!あの赤い実は食べられるのか?」と道から外れて、木の枝に手を伸ばそうとして。
「あ!お嬢さま、そこの土壌は・・・!」とベンが踏みだすも間にあわず、泥に足を引きずりこまれ、そのまま体を倒し、斜面を滑っていった。
そうだ、雨上がりで、ぬかるんでいるから、道以外を歩かないようにって、注意されていたんだっけ。
そう思いだすも、時すでに遅し。
泥だらけになって崖のようなところを落ちていき、ひどく濁った沼に突っこんで、元柔道部キャプテンにしてカナヅチな俺は溺れていき・・・。
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